Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。 本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。
今回ご紹介するのは、香川県高松市を中心にケーブルテレビ事業を展開する、株式会社ケーブルメディア四国(以下、CMS)の挑戦です。
高松の体育館に響く歓声と、真剣な眼差しのカメラクルー。
香川県高松市にある四国電力体育館では、毎週火曜日の夕方になると、バスケットボールを手に元気よく走り回る小学生たちの姿があります。コートの傍らでは、プロ仕様の撮影機材を構えたカメラクルーが真剣な表情でその様子を記録していました。
一見すると地元のスポーツ番組の中継風景のようにも見えますが、これは番組取材ではありません。同社が2026年7月1日に新たに開校した「STARsスポーツスクール」(※)の練習風景です。
長年、地域密着の放送局としてスポーツや文化を「映像で伝える」役割を担ってきたCMS。同社がいま、自社の強みである映像技術や地域ネットワークを最大限に活かし、「リアルな体験を提供し、子どもの成長を支える」という新たなドメインへの変革に挑んでいます。
「スポーツ×非認知能力×映像」を掲げるこの挑戦はどのように始まり、いかにして形となったのか。プロジェクトを牽引する田中さん、森下さん、そして伴走支援を行ったSony Acceleration Platformの塚谷、中田に話を聞きました。
※【プレスリリース】ケーブルメディア四国 非認知能力を育む「STARs スポーツスクール」を開校 ~子どもたちの“生きる力”を育てる新しい学びの場を地域に提供~
「STARsスポーツスクール」公式サイト: https://sgrum.com/web/cmssports/





「伝える」から「育てる」へ。地域密着企業としての原点回帰
―― まずは「STARsスポーツスクール」という新規事業の事業概要と、立ち上げの背景について教えてください。
田中さん:「STARsスポーツスクール」は、バスケットボールを通じて「できた!の喜び」や仲間と協力する楽しさを体験しながら、技術向上だけでなく自ら未来を切り拓く「非認知能力(前に進む力、やり抜く力、リセット力、チームワークなど)」を育む新しいスタイルのスポーツスクールです。
最大の特長は、当社の本業である放送・映像制作のノウハウを全面投入している点です。保護者様向けに練習風景をライブ配信するだけでなく、練習で撮影した映像から子どもの成長変化や良いプレーを切り出し、振り返りコメントと共にデジタルデータとして届ける「スクールレポート(映像付き通知表)」の仕組みを取り入れています。

田中さん:立ち上げの背景には、ケーブルテレビ事業者としての将来的な危機感と、地域に対する課題意識がありました。私自身、営業部から2018年に企画部へ異動し、数年間にわたり社内のマーケティング戦略の見直しを担当してきました。その中で見えてきたのは、従来の放送・通信というインフラ提供一本では、市場の成熟に伴って将来的に厳しい時代が来るという現実でした。「新しい事業を作らなければいけない」と社長へ提案したところ、全社新規事業公募の事務局を任されることになり、全社員から300案以上のアイデアが寄せられ、選考を重ねる中で最終的に残ったのがこのスポーツ事業でした。
森下さん:もう一つの大きな背景には、中学校の部活動地域展開という地域社会の大きな動きがありました。将来的に地域の受け皿が不足し、子どもたちや保護者の方々が困る時代が来るのではないか。私は入社以来、営業、顧客管理、番組制作、番組の広告営業、親会社への出向など、当社の放送・通信に関わるさまざまな現場を歩んできました。長年、高校野球の中継やスポーツ少年団の取材を通じて子どもたちのスポーツ現場を見てきた当社だからこそ、その地域課題に先んじて向き合う意義があると考えました。
田中さん:また、 私自身、運動があまり得意ではない子ども時代を過ごした経験があります。従来のスポーツ少年団などは勝敗や技術が重視されがちで、運動が苦手な子は行き場を失ってしまうことがある。私自身ができない子の気持ちが分かるからこそ、技術の格差に関係なく誰もが運動を楽しめ、子どもたちの「心(非認知能力)」を育てられる場所を作りたいという想いがありました。
中田:部活動地域展開という社会課題に対し、単なる「運動の場所作り」にとどまらず、ケーブルテレビ局という地域インフラ企業が「人づくり・心の育成」に踏み込んだ点が非常に本質的でした。単なるボランティアではなく、自社の映像技術や地域での信頼というアセットを活用して事業として自立させようとする姿勢に可能性を感じましたね。

共創パートナーと磨き上げた事業構想と、地道な「実行力」
―― 新規事業の立ち上げにあたり、共創パートナー企業との取り組みや、Sony Acceleration Platformの支援を活用された理由について教えてください。
田中さん:社内公募でアイデアは出たものの、それをどう収益化し、継続可能な事業計画に落とし込むかという知見が不足していました。社内だけで議論しているとどうしても「これまでの放送事業の延長線」から抜け出せなくなってしまうため、外部の客観的な視点と事業開発のフレームワークを求めてSony Acceleration Platformさんに支援をお願いしました。
また、自分たちだけで全てを作るのではなく、専門性を持つパートナー企業様と協力できたことも大きかったです。バスケットボールの指導案や練習メニューの監修には、四国電力バスケットボール部さんや地元のプロチームである香川ファイブアローズさんのノウハウをご提供いただきました。
森下さん:非認知能力をどうやって測定・育成していくかというカリキュラムについては、教育支援の知見を豊富にお持ちのカンコーマナボネクトさんと一緒に作っていきました。子どもたちが練習の合間に書く振り返りシートや、指導者の問いかけの設計など、専門的な視点を取り入れることでプログラムの質を高めることができました。

中田:このプロジェクトで特に素晴らしいと感じたのは、CMSのみなさんが自社に足りない指導ノウハウや教育カリキュラムを、外部のパートナー企業さんと柔軟に組むことで見事に補っていかれた点です。自社のアセットや地域での信頼という隠れた資産を正しく再定義し、パートナーを巻き込んで自社の境界線を越えていく「バウンダリースパニング」のアプローチは、地方企業の新規事業開発として非常に素晴らしいモデルだと感じています。
塚谷:お話を伺っていて感銘を受けたのは、計画を描くだけでなく、自分たちでマニュアルを作り、現場に立って地道に「実行し切る」足腰の強さです。田中さんと森下さんは、自ら体育館の現場に立ち、各パートナー企業と細かな調整を行いながら、保護者の方々と対話を重ねていかれました。森下さんの現場での高いコミュニケーション力や、田中さんのマーケティング視点での客観的な観察力。お二人のキャリアが見事に噛み合い、その実行力と熱量があったからこそ、社外のパートナー企業様も本気で動かすことができたのだと思います。

実地検証での学びと、集客アプローチの精緻化
―― プレスクール運営(実地検証)において、どのような検証を行い、壁を乗り越えていったのでしょうか?
田中さん:実地検証では、「提供価値に対する料金体系の受容性」と「集客方法」の2点を重点的に検証しました。既存のスポーツ少年団のようなボランティア運営と、手厚い教育指導を提供する民間スクールの中間に位置するサービスとして、継続して通いやすい価格帯を設定・検証しました。体験に来ていただいた方からは「映像技術や非認知能力の指導が入ってこの内容なら、十分価値がある」と受容性を確認でき、満足度100%という高い評価を得ることができました。しかし、認知ゼロの状態において、そもそも「体験会に来てもらうための最初の接点」を作るのが非常に大変でした。最初はSNS広告やポスティング、WEBマーケティングといった手法を試しましたが、思うような成果に繋がりませんでした。
森下さん:そこで試行錯誤を重ねて辿り着いたのが、教育委員会を通じて地元の小学校から全児童へ直接チラシを配布していただくアプローチでした。「地域の子どもの心の育成」「部活動地域展開への貢献」という事業の本来の趣旨をご説明し、ご理解をいただいたことで体験会の申込へと繋がりました。長年ケーブルテレビ局として地元行政や学校現場と築いてきた信頼関係というアセットが活きた瞬間でしたね。
中田:自社が持つ「隠れた資産」に目を向けることは非常に難しいものです。CMSさんがWeb上の施策だけに頼らず地元の学校と連携したアプローチは、長年地域で積み重ねてきた「教育機関や行政からの高い信頼性」という最大の強みへ改めて目を向け、活用できたからです。地域密着企業にとって素晴らしい先行事例になると感じています。
塚谷:検証の過程でポスティングに固執せず、素早く学校連携へと舵を切ったアジャイルな判断力も素晴らしかったですね。自分たちの強みに気づき、集客導線を精緻化できたことが大きな転換点になりました。
「映像×非認知能力」が促す、子どもたちの変化と現場のリアル
―― 実際のスクール現場では、子どもたちや保護者の方々にどのような変化が見られますか?
森下さん:練習では一般的なバスケットボール教室と異なり、技術練習の合間にグループで「今日の目標」や「どうすればチームで協力できるか」を話し合うセッションを設けています。指導にあたっても一方的に教え込むのではなく、子どもたちに問いかけ、挑戦したプロセスそのものを笑顔とリアクションで肯定してあげることを意識しています。できない子の輪に入って「次どうしてみようか?」と一緒に考える空気づくりを大事にしています。

塚谷:私も高松の現場にもお邪魔して実際の練習風景を見せていただいたのですが、まず体育館の熱量がすごかったですね。指導者の方が上から指示を出してやらせるような形ではなくて、子どもたち自身に「どうしたらいいと思う?」と問いかけながら、できたことをすごくポジティブに褒めて盛り上げているのが非常に印象的でした。
コートのすぐ横でプロのカメラクルーが入って撮影されていて、映像配信と現場のスポーツが組み合わさった独特の空間ができあがっていました。練習の映像を切り出して成長のポイントと一緒に保護者の方へ届ける『スクールレポート』の取り組みも、子どものちょっとした変化や頑張りが親御さんにもちゃんと伝わる仕組みになっていて、すごく価値があると感じました。加えて、チームワークと個別学習を両立している点も、このスクールの強みであると思います。
当日はコート脇でご覧になっていた保護者の方にも直接お話を聞かせていただきましたが、習い事としての満足度や子どもたちの変化について生の声を聞けて、この事業の手応えを改めて実感しました。
【保護者の声:小学3年生男子の母親】
通い始めたきっかけは、家のポストにチラシが入っていたことでした。子どもが初めて「バスケをやってみたい」と言い出したタイミングでした。スポーツ少年団だと仕事との両立や関わりが難しいのですが、習い事としてきちんと指導していただけるのがありがたいですね。家で家事をしながらスマホで練習のライブ配信が見られるのも助かっています。スクールが終わると帰る車の中で、子どもから自発的に「今日も楽しかった!」と会話が始まるのが親としてもすごく嬉しいです。自分以外の視点から子どもの成長を分析してもらえるのも新鮮ですし、のびのび通えています。
【保護者の声:小学4年生女子の父親】
元々は学校の授業参観などで手を挙げるのをためらうような子でした。それがこのスクールに通い始めてから、家でもはっきりと自分の意見を喋るようになり、学校の授業でも自然と手が挙がって声が出るようになりました。カメラで「見られている」という適度な意識が良い経験になっているようです。コーチが失敗を責めず「どうやったらできると思う?」とプロセスを肯定してくれるので、親としても子どもへの接し方や声掛けの意識が変わりました。

地域社会に根ざす「持続可能な人づくりプラットフォーム」へ
―― 正式開校を経て、今後の展開や収益化に向けた計画、将来の展望について教えてください。
田中さん:プレスクールから7月の正式開校を経て、まずは高松市内での拠点を着実に増やし、将来的には香川県全域へと拠点を拡大していくロードマップを描いています。会員数の拡大とあわせて、小学生だけでなく中学生になっても通い続けられる継続クラスの整備や、バスケットボール以外の競技、さらにはダンスや文化活動などへの横展開も視野に入れています。
私たちが目指しているのは単なるスポーツクラブの運営ではなく、子どもたちが「自ら未来を切り拓く力(非認知能力)」を身につけられる、地域の人づくりプラットフォームを構築することです。
森下さん:一歩一歩作り上げてきたノウハウを仕組み化し、自分たち以外の指導者でも同じ価値を提供できる体制を整えていくことが現在の挑戦です。自分たちの手でゼロから立ち上げたこの事業を、地域の未来を担う子どもたちのためにしっかりと育てていきたいと思っています。
塚谷:事業開発において「情熱」と「収益性」を両立させることは容易ではありません。しかし、チームには地域の子どもたちを育てたいという強い情熱があり、それを実現するための足腰となる現場に根ざした実行力があります。今後、このモデルが香川からさらに広がり、地域社会を支える持続可能なプラットフォームへと成長していくことを期待しています。
<スクールの様子をご紹介>

四国電力さんの広い体育館でのびのびとスポーツができます。

その日の活動のテーマや個人の目標をしっかり確認しながら練習に励みます。

練習中は、子供たちがお互いに声を掛け合っている様子がたくさん見られます。

スポーツが苦手なメンバーも、コーチと共に個々人のペースで技術力を伸ばすことができます。

ミニゲームも複数学年混合で実施しています。低学年のメンバーには高学年のメンバーが自然とフォローに入るようなチーム作りができており、安心してプレーに入ることができます。

終礼でその日の学びを確認し、コーチから一言。しっかり挨拶をして終わります。

最後は、保護者への「ありがとうございました!」の挨拶もし、気持ちよく練習を終えます。
練習の最後には、それぞれのメンバーが、自分以外の誰がどういった観点で良かったかということを発表する時間がありました。「練習の最後に周りのメンバーの良いところを発表するぞ」ということを念頭に練習に取り組むと、皆自然と周りに目を配りながらプレーをします。
スポーツに必要なメンタルや技術の習得に留まらず、たとえば上記のような「他人がどういった動きをしているのか、その中で自分はどう行動すればよいのか」といった、日ごろの生活のどのような場面でも必要になるスキルをあらゆる形で吸収することができる仕掛けが、週1回の数時間の中にさりげなく、そしてしっかりと組み込まれている点が秀逸で、魅力的なスクールです。
STARsスポーツスクールの詳細はこちら
本記事は2026年6月時点の情報です。