2026.01.30
Challengers ーイノベーションの軌跡ー

アイディオ株式会社|セキュリティに特化した通信アプリで、すべての人に「情報の安全」を

Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。
本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。

今回取材したのは、アイディオ株式会社が手掛ける高いセキュリティ性能にこだわった通信アプリ『Security Talk』です。
一般的な通信アプリとは異なる独自の技術によって物理的に情報漏えいのリスクを断つことができるため、官公庁や金融機関など機密性の高い現場で注目を集めています。

『Security Talk』の企画を担当するアイディオ株式会社の稲毛浩さんと、開発・提供を担当する株式会社グッドクリエイトの西山和広さんに、アプリ開発の経緯と情報の安全にかける想いを伺いました。

アイディオ株式会社 代表取締役 稲毛 浩(いなも・ひろし)さん
株式会社グッドクリエイト 執行役員 リレーションセールス部 ゼネラルマネージャー 西山 和広(にしやま・かずひろ)さん
ソニーグループ株式会社 Sony Acceleration Platform アクセラレーター 市川 亜紀子(いちかわ・あきこ)

 

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■目指すは究極の糸電話

―― この製品は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

稲毛さん: きっかけは、情報漏えいのリスクに対する強い危機感です。いまから15年ほど前、メッセージアプリやチャットアプリが急速に普及し始めた頃、著名人のチャット内容が流出して社会問題となるケースを目の当たりにしました。

本来、プライベートな会話やビジネスの機密情報は、当事者間だけで守られるべきものです。しかし、既存の多くのサービスは、データがサーバーやデータベースに保管される仕組みになっています。中央にデータが集積されているからこそ、そこが攻撃の標的となり、一度漏えいすれば個人の人生を壊しかねない事態を招きます。

そんな中、ある大手通信会社の講演を聞く機会がありました。もう10年ほど前のことですが、そこで「今後は巨大なプラットフォームを必要としない、端末同士が直接繋がるネットワークが主流になる」という話を聞き、情報漏えいへのリスクを軽減できると確信し、自分たちで取り組もうと考えました。中央にサーバーを置かず、端末と端末が直接つながるP2P(ピア・ツー・ピア)通信を採用すれば、中央にデータが残ることはありません。私たちが目指したのは、既存のSNSのような「共有」を前提とした場ではなく、特定のグループが安心して繋がれる、いわば「サーバーレスで繋がる究極の糸電話」です。

当時は、巨大な資本を持つ大企業でなければ電話システムは作れないと思われていましたが、技術の進化により、小規模なチームでも独自の安全なネットワークを構築できる環境が整いつつありました。
すぐに構想を練り始め、2016年頃から本格的な開発と試作をスタートさせました。

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■「サーバーに頼らない」という選択がもたらす安心

―― 『Security Talk』の具体的な機能と、独自性について教えてください。

稲毛さん: 通信アプリですので、通話やチャット、会議などのコミュニケーションが可能です。最大の独自性は、徹底した「サーバーレス(P2P通信)」にあります。通話内容やチャットデータは外部サーバーを一切経由せず、通信終了後には端末のメモリーからも自動消去される仕組みです。物理的に「漏えいする元データ」を外部に残さないというのが、私たちの考える究極のセキュリティです。

また、利用のハードルを下げるために、一般的なSNSのようなメールアドレスや電話番号の登録を不要にしました。組織の管理者が発行する「独自ID(アクティベーションキー)」を入力するだけで利用を開始できます。

西山さん: 組織利用を想定した独自の管理機能も充実させています。例えば、同一部門のメンバーだけでRoom(グループ通話)を作成できる「部門制限」機能や、設定された役職順に画面を並び替えて表示する機能などがあります。
さらに、自分より下位の部門の入室を制限するといった運用も可能です。これらは、官公庁や金融機関、医療現場など、厳格な階層構造と機密保持が求められる環境での利用を想定して設計しています。

株式会社グッドクリエイト 執行役員 リレーションセールス部 ゼネラルマネージャー 西山 和広(にしやま・かずひろ)さん2

■徹底的な議論を重ねてデザインをブラッシュアップ

―― Sony Acceleration Platformにお声がけいただいた背景を教えてください。

稲毛さん: 『Security Talk』は機能面での開発は進んでいましたが、いざターゲットユーザーや、行政・企業の意思決定者の方々にプロダクトを提示した際、UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザー体験)の完成度が大きな壁となっていました。自分たちだけで検討したデザインには、機能としては問題がない一方で、初見での洗練さや信頼感、意思決定者に伝わる説得力(インパクト)という点で、まだまだ磨き込む余地があると感じていました。

私は以前から、ソニー製品が持つ技術と思想が一体化したデザインに強い魅力を感じていました。Sony Acceleration Platformなら、私たちの熱意を汲み取った上で、ソニーならではのテクノロジーとデザインの知見を融合させてくれると考え、支援を依頼しました。

―― Sony Acceleration Platformのアクセラレーターとして、どのような支援を行いましたか?

市川: 『Security Talk』にはベースとなるデザインがありましたので、そのデザインを全体的な統一感を含めてブラッシュアップさせていただく形でご支援しました。デザインの方向性やポイントとなる機能、その狙いなどを一つ一つ言語化し、確認・整理をしながら議論を進めていきました。「誰でも使いやすいユーザビリティ」と、「インターフェースを面白いものにしたい」「リッチで魅力的なコンテンツ表現をしたい」という稲毛さんの強い思いをデザインとしてどう具現化していくか、常に目線を合わせながら取り組みました。

ソニーグループ株式会社 Sony Acceleration Platform アクセラレーター 市川 亜紀子(いちかわ・あきこ)2

―― 実際のご支援はいかがでしたか?

稲毛さん: 正直に言うと、最初はかなり激しい議論を交わしました。ソニーのプロフェッショナルの方々は、単に見栄えを整えるだけでなく、徹底的に「ユーザーシナリオ」に基づいたロジックを求めます。
私が直感的に「この色がかっこいい」と言っても、「その色は認識しやすいか」、「このボタン配置は誤操作を招かないか」など、客観的な根拠を元に議論を進めます。

当初は、私たちの持っていたこだわりと、求められる設計思想との間で、意見が鋭くぶつかる場面もありました。
しかし、対話と検証を重ねる中で、単なる好みや感覚ではなく、ユーザー体験としての必然性に落とし込まれていき、結果として私たちの思いが「ソニークオリティ」のデザインとして再構築されていく手応えを強く感じました。
このプロセスそのものが、私たちにとって Sony Acceleration Platformとご一緒する最大の価値だったと感じています。
新規事業に取り組む中で重要なのは、一人で抱え込まず、適切な視点を持つパートナーと議論できる環境を持つことだと思います。

西山さん: Sony Acceleration Platformの皆さん、常にフラットな姿勢で私たちの話を聞いてくださいました。大企業と中小企業という垣根を超え、一つの対等なチームとしてプロジェクトを進められたことが非常に印象に残っています。1時間の支援時間が、まるで10分に感じるほど濃密な時間だったと感じています。

―― ご支援の中で、特に印象に残っていることを教えてください。

稲毛さん: 今回『Security Talk』をデザインする上で、「電話帳のエンタメ化」に最もこだわりました。従来の電話帳は、単なる名前の羅列で無機質なものだったため、これをどうにか面白くできないか議論を重ねました。
その中で生まれたのが、電話帳の顔写真部分に3秒間の動画を表示する「マイサムネイル」という仕組みです。

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西山さん: 単なる静止画ではなく、ちょっとした表情の変化や動きが見えることで、つい気持ちが和らぎますよね。このマイサムネイルという名称もSony Acceleration Platformの方々と一緒に考えたものです。私たちの要望を丁寧に汲み取り、デザインを具現化してくれました。単に綺麗な絵を作るだけでなく、動く要素をどう配置し、トラフィックへの影響をどう抑えるかといった技術的な詰めも、お互いに勉強しながら進めることができました。

市川: マイサムネイルについては、「機能・役割から考えるとこの名前」「ワクワクする名前ならこれ」といったように10個くらいの名称をご提案し、議論させて頂きました。稲毛さん、西山さんと「大事にしたいポイントは何か」を整理しながら議論を深め、最終的に辿り着いた名称です。

稲毛さん: 今回の支援によって納品されたのは「デザインデータ」だけではありませんでした。デザインを作る過程や考え方、つまり「ノウハウ」そのものをインプットしてもらえたことが最大の収穫です。
今後は自分たちでクオリティを上げ、ソニーのデザインと自分たちのアイデアを合体させた新たなプロダクトを作っていける自信がつきました。

アイディオ株式会社 代表取締役 稲毛 浩(いなも・ひろし)さん2

■「純国産」の誇りと、国土強靱化への展望

―― 『Security Talk』の反響と、今後の展望について教えてください。

稲毛さん: 現在トラフィック数は着実に伸びており、不動産や証券、官公庁や自治体など、情報の秘匿性が極めて高い業界から多くの引き合いをいただいています。

今後は、AIを活用した手話翻訳機能や多言語対応といったプラットフォーム機能の拡充に加え、日本の「国土強靱化」に通信の側面から貢献したいと考えています。災害などで既存の通信インフラがダウンした際でも、独立したP2Pネットワークで安否確認ができる仕組みを構築していきたいです。

また、日本の通信環境が海外資本に依存しがちな現状に対し、私たちは「日本発、純国産」のセキュリティ通信アプリとして、自分たちで安全を守り抜くライフサイクルを確立したいと考えています。その先には、スマートフォンを超えたウェアラブルデバイスへの展開も見据えています。

西山さん: 日本だけでなく、すでに世界市場への展開も動き出しています。場所を選ばず、自然な形で人々のプライバシーが守られる世界を『Security Talk』で実現し、安心・安全なコミュニティを広げていきたいです。

―― 最後に、新規事業や事業開発など、イノベーションの創出に挑もうとしている方々へメッセージをお願いします。

稲毛さん: もし「やりたい」という気持ちが少しでもあるなら、迷わず挑戦すべきです。仮に失敗しても、その過程で得られる仲間や、自らの限界に挑んだ経験は決して失われません。
最初は孤独を感じたり、自分の立てた仮説が否定され、自信を失ったりすることもあるかもしれません。しかし、一歩踏み出せば、Sony Acceleration Platformの皆さんのように、客観的な視点で伴走し、時には真剣な議論を交わしながら一緒に高みを目指してくれるプロフェッショナルに出会えます。

大事なのは「一人ではない」と知ることです。思い切って飛び込めば、必ず手を差し伸べてくれる仲間が現れます。
私たちもまだ道半ばですが、仲間と共に信じた道を突き進むことが、新しい価値を創造する唯一の道だと信じています。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、970件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年12月末時点)

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