Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。
本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。
今回ご紹介するのは、カシオ計算機株式会社が、新規事業提案プログラムを通じて生み出したサウナー専用腕時計「サ時計」です。この製品は、どのようにして生まれたのか。
後編では、社内の最終審査を乗り越えるまでの軌跡を追うとともに、新規事業の醍醐味についてお話を伺いました。



■最も革新的でサウナらしいデザインを選択
―― Step3の「ビジネスの実現性検証」では、具体的にどんなことに取り組んでいきましたか?
山田さん: 試作品の製作とより具体的なビジネスモデルの構築です。試作品については、既存のG-SHOCKを改造し、ソフト開発の同期にプログラムを書き換えてもらう形で、サウナモード(12分計)や時刻モードを搭載したプロトタイプを用意しました。これをサウナーの方々に使っていただき、フィードバックをいただきながら、ブラッシュアップしていきました。

――サウナーの方々とは、どのような形で関係性を築いていったのでしょうか?
山田さん:社内の人脈が広い社員に相談したところ、社外のサウナーコミュニティやサウナポータルサイト「サウナイキタイ」を運営されている方へつないでいただき、調査やテストなど多方面でご協力を得ることができました。試作品の調査では「サウナで使う上で十分な機能が揃っている」「便利で使いやすい」という声をいただき、私たちも自信を深めながら、最終的な調整に取り組むことできました。そこからさらにデザイン案を詰めていき、最終的にはカールバンドを採用した、現在の“サウナらしさ”を最も押し出したデザインに決定しました。
塚谷:カールバンドのデザインは、チームの皆さんの中でも「こういうデザインにできたら面白いよね」くらいの、そこまで現実的ではない案だったかと思います。まさか、そのデザイン案が1号機から本採用になるとは思っていませんでした。
――革新的なデザインである一方、実際に製造していくのは大変だったのではないでしょうか?
山田さん:大変でした(笑)。カールバンドを採用した腕時計はカシオにはなかったため、製造できる部品メーカーを探すところから始めました。また、イメージしていた透明感や色合いがなかなか出ず、この点は最後の最後まで試行錯誤を重ねて生産の直前で完成したんです。

■こだわりとコスト管理の両立を目指して奮闘
――ビジネスモデルの構築は順調に進みましたか?
山田さん:いえ、ここが最大の壁だったかもしれません。具体的な販売経路や販売価格、利益計算などをしていくと、想定よりも多くの製造コストがかかることが判明したんです。また、当初は家電量販店での店頭販売を計画していましたが、そのために必要な営業コストも思っていた以上に多くかかることが分かり……。新規事業とはいえ、社内の最低限の基準を満たした利益を確保できなければ、販売は認められないということになり、なかなか最終審査をクリアすることができなかったんです。
――どのように最後の壁を乗り越えたのでしょうか?
山田さん:とにかく、関係各所に相談をして、コストを抑える方法を一緒に考えていただきました。組み立てをお願いしている中国の協力会社の工場にも直接相談に行きました。また、販売方式も店頭販売からクラウドファンディングによるWeb販売に切り替え、ミニマムスタートにすることで、何とか最終審査を突破することができました。

■自分たちの想いを込めたプロモーションを
――Webサイトやイベントなど、プロモーション活動はどのように行いましたか?
山田さん:Webサイトや広告、イベント、プロモーションビデオなどの企画は、サ時計の魅力がしっかりと伝わるようにチームメンバーで行いました。特に、プロモーションビデオの制作は、企画から絵コンテの作成、現場の立ち合いやエキストラでの参加まで一通りおこない、楽しみながら貴重な経験を積むことができたと感じています。また、全国12箇所のサウナ施設で「サ時計」をいち早く体験していただけるイベント「サウナの時間」の開催や、新宿マルイ本館で開催された「サウナ物産展2024」への出展など、販促イベントにも力を注ぎました。
プロモーションビデオの制作、販促イベントでは、「サウナイキタイ」の皆様に全面的にご協力いただき、本当に感謝しております。そして、新規事業における共創パートナーの重要性を改めて実感しています。

――クラウドファンディングの結果は、いかがでしたか?
山田さん:約2200本が、わずか9分ほどで完売してしまいました。実際にどのくらい売れるのかは分からなかったので、本当に嬉しかったですし、達成感も味わえました。2025年の秋からは一般販売も開始し、こちらもご好評いただいており、ありがたい限りです。
――今後のサ時計の展望をお聞かせください。
山田さん:今後は生産力をさらに高め、お客様の声にしっかりと耳を傾けていきながらサ時計のアップデートを図り、サウナーの皆さんの期待に応え続けていきたいです。そして、「サ時計」をサウナーにとっての定番アイテムにしていければと思っています。
■約4年の挑戦で得られた学び
――アクセラレーターから見て、今回のプロジェクトを牽引した山田さんはどう映っていますか?
塚谷:山田さんは物腰が柔らかく落ち着いた印象ですが、内に秘めた情熱や人柄が、役員や上長、チームのメンバーの方々にしっかりと伝わっていたのが印象的でした。お話を聞いていると、やはり普段から周りの方々との対話を大切にされており、それが多くの人たちを良い形で巻き込んでいく要因になっていたように思います。
――今回の新規事業開発は、山田さんにとって非常に大きな経験だったと思います。このプロジェクトを通じて、山田さんが学んだことは何でしょうか?
山田さん:ゼロから事業を作ることでビジネスの全体像をつかめたことや、社内外を問わず協力・共創することの大切さを学べたことはもちろんなのですが、一番は「自分でつくった仕事は楽しい」という実感です。最初から最後まで分からないことだらけでしたが、その苦労がすべて吹き飛ぶくらいの楽しさが新規事業にはあると感じています。
今後も、カシオから革新的な新規事業が生まれていけばいいなと思っていますし、私自身もゆくゆくは、また新規事業の創出に挑戦したいと考えています。
