Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。 本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。
今回ご紹介するのは、2026年に70周年を迎える北海道の総合企業、北電興業株式会社のコーポレートリブランディングの道のりです。多角化する事業に一つの筋を通したブランドメッセージ”「もっと」をつくる。”はどのように生まれ、どのような想いが込められているのか。その物語にご注目ください。
▼北電興業株式会社ブランドムービー
北電興業株式会社 ステートメントLP:https://www.hokudenkogyo.co.jp/statement/
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「何の会社か伝えにくい…」多角的な事業展開がゆえのブランディングの靄
―― 北電興業が今回リブランディングに取り組むことになった背景と、抱えていた課題についてお聞かせください。
吉倉さん: 私たち北電興業は、ほくでんグループの一員として、1956(昭和31)年に設立しました 。2026年には70周年を迎える歴史ある会社です。本店を札幌に置き、道内に2事業所、3営業所、2事務所を構えています。もともとは保険やビル管理といったグループ本社のサポート業務から始まり、そこから電柱広告、不動産開発、建築、土木など、様々な事業を展開してきました。現在では不動産事業本部、広告部、商事部、土木環境部、建築部、燃料部、資源事業部、そしてこれらを統括する企画・管理部と、組織構成だけでも非常に多岐にわたっています。
一方で、この多角化こそがひとつの悩みでした。外部から「何の会社ですか?」と聞かれた際に、「これも、これも、これもやっています」と言うことはできるのですが、一言で「我々はこういう存在です」という自己紹介がうまくできないという課題があったのです。グループ外取引を拡大しようと過去から取り組んできていますが、何の会社かというシンプルな問に対し説明できないことが、ひとつの足かせになっていました。
永吉さん: 社内の実態はもっと深刻なところから始まりました。社名やロゴの表記に明確なルールがなく、丸ゴシックを使ってみたり、別のフォントを使ってみたり、といった具合でした。「そんな会社あるか!」と常々思っており、ある時に同じグループ会社の中を見回すと、グループ内でも当社が劣後していることは明白で、危機感を覚えました。ロゴが決まっていない、ウェブサイトがスマホ対応していない…。そんな状態を、誰も気にしていないところからのスタートだったのです。
吉倉さん: 特に採用は、当社にとっての最重要課題と言っても過言ではないほどの状況になってきています。この数年、特に技術系の新卒採用が芳しくない状況が続いており、退職が進む一方で技術継承ができないことに強い危機感を持っていました。当社のウェブサイトのページ管理運営も受け身の体制で、自ら何かを主体性を持って攻めの運営をしていこうという意識は正直欠けていました。その結果、採用課題という現実を身に染みて感じることとなっていきました。
同じ事業会社の立場で、「自分ごと」としての伴走
――Sony Acceleration Platformとの出会いを教えてください。
吉倉さん:きっかけは、私がSony Acceleration Platform様のウェブサイトから飛び込みで直接メールを送ったことでした。最初は社内で新規事業の機運を高めるために、アイデアソン研修を実施していただいたのですが、その評判が非常に良かった。その後、広報に関する課題が浮上した際、パートナーとして広告代理店などの候補も上がりましたが、「まずはソニー様に1度相談してみよう」と考えました。
永吉さん: 社内では「なぜソニーなのか」「もっと2つ3つ(の企業を)比較してみるべきではないか」という声もありました。しかし、私たちはパートナー選びにおいては価格面もさることながら、共に課題に向き合ってもらえるという信頼関係が最も重要だと考えておりました。Sony Acceleration Platform様は、事業会社としてこれまでたくさんの事業立ち上げを実践してきた中で、企業そのものと何度も向き合ってきた経験があり、広告代理店とは異なる立ち位置から企業PRを検討してくれるであろうという期待感は、私たちにとっては非常に魅力的でした。
吉倉さん: ソニー様は自分たちも課題を解決してきている「事業会社」です。コンサルというより、「自分ごととしてどう解決するか」を考えてくれる姿勢が非常に心強かったです。広告や広報が目的ではなく、当社そのものを深く理解し、未来を一緒に描いてくれたことを強く感じられました。
荒木:ありがとうございます。たくさんのお話をお伺いし、北電興業さんの多様な事業をどう一本の線でつなぐか、非常に難易度が高く、かつ熱量の高いプロジェクトになるとその時から予感していました。
10名の「本音」を掘り起こしたアクセラレーターの視点
――プロジェクトの初期段階では、全事業部長へのヒアリングを行われたそうですね。
林原:荒木が全体のプロジェクトを管理している中で、私は今回顧客課題のインタビューを担当しました。氏家社長をはじめ、各事業のトップの方々約10名に個別インタビューをさせていただきました。北電興業さんは事業内容が幅広く、業務内容毎に働いている方のタイプも全然違います。このヒアリングの目的は、皆さんのそれぞれの想いの中に共通する「譲れない誇り」を見つけ出すことでした。
永吉さん: 事務局として同席して興味深かったのは、部門長たちが、林原さんたちの前では、自分の部門に対しての熱い思いを語り始めたことです。単独でインタビューされると、本音がよく出ていて、改めて「皆さん、それぞれの部門に対して真摯に向き合っているのだな。このエネルギーを集約することで当社はきっともっと良くなる」と思いましたね。
林原: 皆さん、自分の部門のことを本当に真剣に考えていらっしゃるのです。ただ、それを社内の共通言語として表現する方法を持っていなかった。私は10名分のお話を伺いながら、ある共通のキーワードを探していました。それは多様なことをやっている刺激や学び合い、そして「地域への貢献」という想いでした。グループ会社の中でも多様な意識を持っているのが自分たちの特徴であり誇りであると感じられたので、これを言葉にできればバラバラに見える事業がつながると確信しました。
永吉さん: 林原さんたちがヒアリングの内容を振り返った時に、びっしりメモが出てきて。極めて限られた時間の中で膨大な情報を吸収してくださり、一緒に議論できたことがありがたかったですね 。自分たちでも気づいていなかった会社の良さを、外部の視点で再定義してもらった感覚でした。
ワークショップで深化した、複数視点からのブラッシュアップ
――その後に実施した若手ワークショップでは、意外な展開があったとか。
林原:個別インタビューを進める中で、「これからこの会社で長く働いてくれる社員の声を大切にしたい」という意見が複数挙がったのです。そこで8月に、当初の予定にはなかった若手・中堅社員を集めたワークショップを実施することにしました 。
吉倉さん: 経営層のイメージする「新しいこと」「高みを目指す」という攻めの姿勢をベースにワークショップの論議では新たな視点が提起されました。それは攻めの姿勢に加え、「等身大の当社をしっかり伝えるべき」というもので、この後の検討はより難しいものになっていったのです。「新たなチャレンジ」と、「ありのままを等身大でPRしたい」という一見すると相反する意見のバランスを取るのは、なかなかにやりがいのある課題でした。
林原: 若手社員からは「今まで積み上げてきた地道な仕事を、もっと表に出してはどうでしょうか」という意見も出ました。自分たちが誇りに思っている仕事をなぜもっとアピールしないのかという純粋な疑問と切実な声です。
永吉さん: ワークショップではワークライフバランスの話なども出てきて、たとえば「良いとこ取りのイメージ」だけを打ち出してしまっては、会社に入ってからのギャップが感じられて辞めてしまうのではないか、と危惧する声などもありました。このような立場や視点の違いをどのように揃えて着地させるかが、今回検討にあたり非常に苦労したポイントでした。このように若手・中堅の声を聞くべしとした経営層の判断が契機となり、結果してワークショップ開催により取り組みの質が向上していったのです。
「もっと」をつくる。に込めた強い想い
――そうした中、新しい企業メッセージ"「もっとをつくる。"はどのように決まったのでしょうか。
荒木: 当初、何案かをベースに事務局のみなさんと議論を重ね、「〇〇をつくる。」の構想は初期段階から存在していました。〇〇の部分には様々な候補ワードがあった中、最終的に浮上したのが、より本質的な「もっと」というキーワードでした。
吉倉さん: 「もっと」のワードは、高校野球の応援歌である「アゲアゲホイホイ」で、攻撃中に「もっと!もっと!」と連呼される場面があって、野球好きな私にとっても非常に親近感のあるワードでした。どの世代にも響くし、今の仕事にも未来の仕事にも共通する 。仕事だけじゃなく、姿勢として「そうありたい」と思える言葉です 。
荒木: 今日までの事業基盤となっている電力サポート事業から、もう一歩踏み出していく。その「姿勢」はこれまでの仕事でも、そしてこれからの「新たなチャレンジ」という会社の目指す方向性にも共通するのでは、という結論に至りました。
吉倉さん: ステートメントの文面については、経営層からも「最後の部分の主体性が弱いのではないか、もっと自分たちが生むという表現にすべきでは」という問いが出ました。
永吉さん: そこで「主観的な言い回しから始まるが、文章の中でカメラが引いていくかのように、最後は客観的な表現にあえてすることで、地域の方々と共に新しいものが『生まれていく』という共創の状態を表している。ビジュアルイメージの北海道の朝焼けも地域共創の象徴的なもの」と意図を丁寧にお伝えしました。ステートメントについては何度もやり取りを重ねて、最終的には経営層からも了承を得て、事務局としても納得感のある仕上がりになりました。
変わろうとしたことを、形にして見せたかった
――今回のリブランディングを通じて、社内にどのような変化を期待していますか。
吉倉さん: 今までほとんど手を付けていなかった全社広報を動かすことで、「何かを動いてみたら、こういう風に会社が変わるんだ」ということを、まずは社内に見せたかったのです 。こういうことが会社の中でもできるんだということを示して、社内の雰囲気を変えたかった。
永吉さん: ワークショップに参加した若手たちが、「自分も参画したんだ」という意識を持ってくれたことが収穫です。ワークショップ後に個別にメールをくれる者が何人かいて、「どうせやるならこれも変えたらどうか」などとアイデアが出てきたりもしています。自分たちが秘めていたものを外に出すいい機会になったと思います。
林原: 私もこのプロジェクトを通じて、北電興業さんの「人」の良さを何度も感じました 。個別インタビューでも誠実な佇まいが伝わってきました。
吉倉さん: ソニー様はコンサル的な第三者ではなく、自分ごととして一緒に向き合ってくれました 。その姿勢があったからこそ、この「もっと」という言葉に、私たちの誠実さと一歩踏み出す挑戦の両方を表す魂が宿ったのだと思います。
永吉さん:そうですね。当社の課題に共感いただき、当社に真摯に向き合い、当社を理解した上で制作・撮影に臨んでくれました。撮影現場での姿勢や取り組みを見て、「これは必ず良いものになる」と強く感じました。今回のプロジェクトは、当社の雰囲気を変え、抱えている課題の解決への大きなきっかけになったと後に語り草になる、そう信じて止みません。

いかがでしたか?
次回は、実際の制作の裏話や秘話など、制作物に込められた想いをお届けします。