Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。本連載では、新しい商品や技術、サービスアイデアの事業化を行う会社や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。
常陽銀行は、2026年4月より新規事業開発機能を一元化した「事業協創グループ」を新たに発足させました。これまで別々に推進されてきた「行内公募(インキュベーションプログラム)」と「外部協創(オープンイノベーションプログラム)」をひとつの大きな流れに統合。従業員の熱量と外部企業のノウハウやリソースを掛け合わせ、社内公募制度とオープンイノベーション取組みを融合させた“統合型プログラム”として再構築されました。
今回は、常陽銀行 事業協創グループの高橋さん、中居さん、そしてSony Acceleration Platformのアクセラレーター塩川の3名にインタビュー。新たなフェーズを迎えた常陽銀行のイノベーションの舞台裏と、地域発の事業創出にかける熱い想いに迫ります。
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めぶきフィナンシャルグループおよび常陽銀行の経営企画部に所属。支店で法人営業・個人営業に9年間従事したのち、経営企画部でグループ会社管理や経営統合関連業務を担当。その後、営業企画部で新規事業開発を6年間担当し、複数のサービス・事業の立上げを経験。本部組織再編により2026年4月より経営企画部事業協創グループに異動となり、ステージゲート制度の整備やめぶきFG連携、各部の事業開発サポート等に従事。

めぶきフィナンシャルグループおよび常陽銀行の経営企画部に所属。入行から5年間、支店で法人営業や融資業務、預かり資産などの業務を担当。トレーニー制度を活用し、本部DX部門でのトレーニー経験で行内のDX企画などに携わったのち、経営企画部に転籍し5年ほど従事。現在は、主にインキュベーションプログラムの企画運営、CVC活動など、新規事業の開発の業務に携わる。

通信事業会社およびコンサルティングファームを経て、ソニーグループ株式会社に入社。コンサルティングファームではDX戦略の策定・実行支援、組織変革プログラムの推進など、企業のデジタルトランスフォーメーション実現に貢献。現在はSony Acceleration Platformのアクセラレーターとして、業種を問わず多様な企業の新規事業に関する企画立案や制度設計、ビジネスコンテストの企画・運営支援、事業開発に関するトレーニングやメンタリングに従事。

新組織「事業協創グループ」の発足と、一元化による変化
――2026年4月1日に「事業協創グループ」が新設されました。まず、今回の組織再編の背景と狙いについて教えてください。
高橋さん:これまでは、中居が担当していた行員発で内部アセットを活用し新規事業を開発する「インキュベーションプログラム」と、私が担当していた外部スタートアップ企業との協業を探る「オープンイノベーション」の取り組みが、組織的にも機能的にも分かれていました。
それぞれで新規事業開発に取り組んでいたものの、互いに「一貫性を持った取り組みとしてできていないのではないか」「個別でやっていても、何か大きな成果が生まれているわけではないのではないか」という強い課題意識がありました。
今回事業協創グループとして一元化した最大の狙いは、新規事業創出の加速です。本部の限られたリソースの中で、全社的な「戦略(ヘッド)」を描く機能と、各部署の事業開発を手取り足取り「実働支援(アーム)」する機能の両方を兼ね備えた組織が必要だと考え、2025年の年末頃から構想して立ち上げました。
具体的には、当行の新規事業創出プロセスを可視化・標準化するため、新たにステージゲート制度を導入しています。この仕組みを再現性のある新規事業創出アプローチとして定着させ、意思決定や事業化に向けたスピード感を一層引き上げていく狙いです。
こうした全社横断的なリソース配分やFG内連携、アライアンスの機能を当グループへ集約したことで、全社的な視点から中立的に各部の支援を行えるようになりました。さらに、中居たちがインキュベーションで育んできた人材を、実際の事業開発の最前線へアサインしていくという「人材のワンストップ循環」を自分たちで直接企画・実行できるようになり、組織全体で新規事業を推進する環境が大きく整ってきています。
──インキュベーションプログラムのこれまでの成果と手応えについてはいかがでしょうか。
中居さん:2023年から新規事業プログラムを開始し、これまでに延べ246名もの行員が参加してくれました。当行の全職員数の約1割にあたる行員がプログラムに携わったことになります。また、過去のプログラム参加者の満足度も98%と非常に高い水準を維持しております。まずはこの数字自体が非常に大きな成果だと感じています。
実際に、2024年に最優秀賞を受賞したメルマガ広告サービスが事業化されるなど具体的な成果も生まれており、行内にも「自分たちの現場の気づきや悩みからでも、新しいビジネスが作れるかもしれない」という意識や手応えが着実に広がってきました。
もうひとつ大きな手応えとして実感しているのが、人材育成の側面です。プログラムを通じて起案したアイデアが仮にその場で形にならなかったとしても、挑戦した経験そのものが糧となり、現在では約6名のプログラム参加者が本部に異動して新規事業開発の現場で活躍しています。
事業創出の面はもちろんですが、挑戦する行員が増え、次なるチャレンジの場へと繋がっていくという「挑戦する組織風土の醸成」の両面において、3年間で着実な成果が出ていると確信しています。
塩川:常陽銀行さんのインキュベーションプログラムは2023年度から始まって今年で4年目、第4期を迎えます。数々の企業様の事務局に伴走してきた経験からお話しすると、実は社内インキュベーションは3期目あたりで壁にぶつかることが非常に多いです。応募件数が目に見えて減ってしまったり、効果が出ないからとやめてしまったり、苦しまれる企業様が多いのが現実です。
その中で常陽銀行様は、3期目を終えた時点で全行員の1割近くが参加し、しかも応募の勢いや熱量が衰えていない。実はこの結果に、私自身も驚きました。それくらい、3年間で文化として行内に浸透し、継続して成果が出ているというのは本当に素晴らしいことです。
──なぜ常陽銀行様では、3期を超えても応募の勢いが衰えないのでしょうか。
塩川:ひとつは、初年度から事業化案件(メルマガ広告サービス)が生まれたことで「本当に事業化できるんだ」というイメージが行内に共有されたこと。そしてもうひとつは、行員の方々のマインドセットや、それを応援する周囲の雰囲気が非常に良いことだと思っています。
中居さん:支店現場での素晴らしい事例も生まれています。ある営業店では、支店長自らがチームリーダーになって若手行員とチームを組み、毎年応募してくださっているのです。
その支店長は、プログラムの募集が始まると支店内で自発的に勉強会を開き、「若手がチャレンジする場としてこのプログラムは最適だから、みんなでアイデアを考えてみよう」と声をかけてくださっていて。毎日忙しい営業現場の中でそうやって時間を作り、若手を育てる場としてプログラムを活用していただいています。さらに素晴らしいことに、その支店は昨年度下半期の営業実績においても、大変優れた成績を収めております。
──新規事業への挑戦が、本業の営業活動や店舗の雰囲気にも相乗効果を生んでいるのですね。
中居さん:まさにその通りです。日常業務に追われる営業店の行員にとって、新しい事業を考える余裕を作るのは簡単ではありません。しかし、そうして自発的にチャレンジする場を作ることで若手が生き生きとし、活気が生まれて本業の成果にも繋がっていく。プログラム事務局としても非常にありがたいですし、継続してきたからこそ見えてきた素晴らしい変化だと感じています。
「インキュベーション」と「オープンイノベーション」の統合されたプログラムの狙い
──今回の最大のアップデートである、行内公募と外部公募のプログラム統合について伺います。なぜこのタイミングで統合を決断されたのでしょうか。 また、狙いを教えてください。
高橋さん:行内のチャレンジ精神が醸成されてきた一方で、事業化や事業をスケールさせていくフェーズにおいて、我々銀行やグループ会社のリソース・ノウハウではどうしても技術面や開発スピードでの限界があることも見えてきました。
金融業界においては金利のある世界が戻りつつあり、本業で稼ぎやすくなっている環境だからこそ、新規事業に対して「どれだけリソースを投入すべきか」「どう結果を出すか」という議論が必ず出てきます。3年目を経て、しっかり結果を出していくフェーズに来ているということです。
そこで、我々銀行が持つ「地域やお客さまの抱える悩み、課題」や「信用力などの強み」という幹に、外部スタートアップの皆さまが持つ「技術力や開発スピード」を掛け合わせる。自前主義にとらわれず、内外から同時に協業アイデアを募る仕組みへと統合することで、より実現性の高い新規事業を創出することが最大の狙いです。
──行員のアイデアと外部スタートアップの技術が組み合わさることで、どのようなシナジーを期待されていますか。
中居さん:行員は日々の業務を通じて、「地域のお客さまが何に困っているか」という生の声を聞いています。そこに、外部企業が持つ革新的なアプローチや技術力を掛け合わせることで、現場が本当に求めている解決策をスピーディに生み出せると考えています。
さらに今年度のプログラムでは、アイデア内容によっては、新規事業アイデアを行員と外部企業が共同でブラッシュアップしていくプロセスも想定しています。その過程を経て、3月頃に開催する合同成果発表会に臨んでいただきます。当日は経営陣らを前に行員アイデアのピッチ・審査を行う予定ですが、外部企業とともに取り組むこの一連の体験が、行員自身にとっても大きな刺激や成長になると期待しています。
──合同成果発表会後の多様な推進ルートや、副業制度の活用など、働き方に配慮した柔軟な出口戦略についても教えてください。
高橋さん:推進ルートの選択肢を増やし、出口戦略を多様化した目的は、リソース調達の多様化により実現可能性を高めたいという点にあります。そして、このリソースの中には当然、起案者である「行員(人的リソース)」も含まれます。
行員には日々の業務繁忙により制限が伴うことも多く、素晴らしい企画・アイデアを持っていても専任で事業化に取り組むことが難しく、挑戦を諦めてしまう行員も少なくありませんでした。そこで本プログラムでは、そうした人的リソース面での制限を運用面でカバーできるような体制としました。
必ずしも起案者を専任とするだけでなく、事務局が伴走しながら本部所管部に主導権を委ねる形や、兼任・副業制度、公募制度等を活用して関わり続ける形など、多様なルートを想定しています。この組み立てには、「立場や時間の制約に関わらず、すべての行員が新しい価値創造の『源泉』であり続けてほしい」という想いを込めております。
──今回の統合プログラムにおいて、Sony Acceleration Platformはどのようなサポートを行っているのでしょうか。
塩川:これまで3年間行ってきた、ビジネスモデル構築の型のレクチャーや個別メンタリングを通じたビジネスモデルのブラッシュアップ支援は継続しています。その上で、統合プログラムへの進化に合わせたサポートを強化しました。
ひとつはテーマ設計の支援です。これまでのインキュベーションプログラムでは広くアイデアを募るためにテーマを絞りませんでしたが、外部企業からも公募を行うにあたっては、常陽銀行様がビジネスとして注力したい重点領域をシャープに定義する必要があります。事前に「テーマ設計ワークショップ」を実施し、協業テーマの絞り込みを行いました。
もうひとつは、行員の方々のマインドセットの拡張です。これまでは「自分たちだけでどう事業を作るか」という視点になりがちでしたが、今回は「外部の力を借りたら何ができるか」という前提でアイデアを考えていただきます。自分たちの発想になかった外部技術やアプローチを取り入れることで、最初のアイデアからピボットしても良いものになればそれでいい、という意識を持って臨んでいただけるようアドバイスしています。
また、外部公募の集客において、Sony Acceleration Platformが持つオープンイノベーションの知見やネットワークを活用しています。具体的には、 Sony Acceleration Platform が保有する1000社近いスタートアップへのアプローチや、東京都のスタートアップ支援事業「TIB CATAPULT」のネットワーク、ソニーグループのCVCである「Sony Innovation Fund」の出資先ネットワークなどへのダイレクトアプローチを実施します。
単に広く募集するだけでなく、我々が常陽銀行様と組むメリットや地域の魅力をしっかり伝え、質の高いパートナー企業様からのエントリーを呼び込んでいきます。
インキュベーションプログラムの卒業生が手掛けた新サービス「キャリワンIBARAKI」
──先ほど中居さんから「過去の参加者から6名が本部に異動し、新規事業の最前線で活躍している」とお話がありました。具体的にどのような活躍をされているのでしょうか。
高橋さん:実は2026年8月5日にプレスリリースを出したばかりなのですが、当行で『キャリワンIBARAKI』という採用プラットフォームのサービスを開始し、地元の新聞社さんにも大きく取り上げていただきました。実はこのサービスの立ち上げメンバー2名は、インキュベーションプログラムの卒業生で、初期メンバー公募に自ら手を上げてくれて、プログラムへの参加実績も評価されてアサインされた経緯があります。
中居さん:そのうちの1人は支店にいた若手の女性行員で、過去のインキュベーションプログラムで「地域の学生と企業を結びつけるような事業をやりたい」と熱心に提案してくれていました。当時は日常業務との兼ね合いもあり途中で辞退となったのですが、非常に意欲の高い行員でした。その後、本部で関連する事業の公募があった際に「彼女ならやりたいはずだ」と声をかけたところ、手を挙げてくれて本部へ異動となり、この半年間でシステム開発からチラシ制作、プロモーションまで、まさにゼロイチで事業立ち上げを推進してくれました。
高橋さん:自分がやりたかったテーマに、本部で主体的かつ活き活きと取り組んでいる。通常の指示による人事異動ではなく、「自ら手を挙げて挑戦した経験」が原動力になっているからこそ、ここまでのスピード感で事業が形になったのだと思います。
挑戦したい人に対して挑戦できる環境や場をしっかりと提供していく。そうした人たちが主体的になって動くからこそ事業が立ち上がるのだと、事務局としても手応えを感じたエピソードでした。
挑戦を続ける行員、そして未来の協創パートナーへのメッセージ
──最後に、今年度のプログラムへの想いと、応募を検討されている行員・外部企業の皆さまへのメッセージをお願いします。
中居さん:今回のインキュベーションプログラムにも、現場から多くの熱意あるアイデアをご応募いただき本当にありがとうございます。これから一次審査を進めてまいりますが、審査を通過した起案者の皆さんとは、我々事務局も伴走者として全力でサポートし、共にアイデアを形にしていきたいと考えています。
また、選考外となった起案者の方々につきましても、「自ら課題を見つけ、アイデアを形にして応募した」というチャレンジ精神に心から敬意を表します。過去の例のように、今回の結果にとどまらず、今後も高い視座を持ち続けてさまざまな分野で挑戦を続けてほしいと思います。私たち事業協創グループは、皆さんの挑戦を今後も全力で後押ししてまいります。
高橋さん:今年度は、事業マテリアリティから一歩踏み込んだ5つの重点協創領域(預金獲得対策、地域コミュニティ、人手不足対応、マーケティング・広告支援、農業・アグリテック)を掲げています。特に「預金獲得につながる事業」や、地域の現場で切実な課題となっている「人手不足(HR/BPO/DX)」といった領域には強く注目しています。
「銀行」と聞くと保守的なイメージを持たれるかもしれませんが、現在の地方銀行は地域社会の課題解決に向けて動かせるアセットも、挑戦できる領域も大きく広がっています。常陽銀行が持つ広大な顧客ネットワークや地域での深い信用力、ポイントとなる地域の「生の課題」は、スタートアップの皆さまの優れた技術やアイデアを社会実装するための最高のフィールドです。
私たちは単なる出資者や発注者ではなく、泥臭く共に事業を作り上げる「協創パートナー」として伴走します。茨城・めぶきエリアを実証フィールドとして、一緒に新しい地域ビジネスのゼロイチに挑戦しましょう!たくさんの情熱的なご提案を心よりお待ちしております。
インキュベーションプログラム公募サイト:https://nexus-bridge2026.com/