Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。
前回の記事では、2026年に70周年を迎える北海道の総合企業、北電興業株式会社のコーポレートリブランディングプロジェクトにおいて、ブランドメッセージ「『もっと』をつくる。」が生まれるまでの物語をお届けしました。
第二弾となる今回は、実際の制作の裏話や秘話など、制作物に込められた想いをお届けします。また、本プロジェクトでは、Sony Acceleration Platformのソリューションパートナー(通称「ソルバー」)と共に制作を手掛けました。
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「生の写真は違う」テレビ塔90メートルからの挑戦
――ここからは、リブランディングを形にした「制作」の裏側を伺います。メインビジュアルの朝焼けは、どのように撮影されたのでしょうか。

吉倉さん: 実は社内では「北海道内どこかの朝焼けの素材写真を使えばいいんじゃないか、わざわざ天候リスクのある時期に撮らなくても」という話も出ていたのです。でも、実際に出来上がった写真を見て、素材サイトのものとは全く違う、生の写真はこれほどまでに伝わる力が違うのかと痛感しました。
古川さん: 意味を込めすぎず、見た人それぞれが感じ取れるようなビジュアルを目指しました 。北海道の朝焼けをテーマに、札幌の街が目覚める瞬間を切り取りたいと考えました 。撮影場所は、さっぽろテレビ塔の地上90メートルにあるタラップ(非常階段)です。
永吉さん: 営業開始前の午前3時から、暗いタラップを重い機材を持って登って撮影してくださったと聞いた時は、本当に驚きました 。撮影スタッフのある方の持ち前の人間力でテレビ塔のご担当者様と交渉し、特別に許可を得てくださったおかげで実現したと伺っています。朝焼け(の撮影)はギャンブル要素が強いと思っていましたが、一発でベストショットに出会えたのは、スタッフの皆さんが「持っているな」と感じました。
吉倉さん: 出来上がった写真は、私たちが住んでいる北海道、札幌の街そのもので、本当に愛着が湧いています。街を俯瞰して見渡し、この地域を支えているという当社のメッセージと、このビジュアルが完璧にマッチしていました。テレビ塔の建設が始まったのが当社設立年と同じ1956年というのも運命的なものを感じます。
8事業、それぞれの「もっと」へのこだわり
――「もっと」をつくる。を体現する各事業部を紹介するポスター制作でも、現場のこだわりが非常に強かったと伺っています。
永吉さん: 8つの事業部それぞれに、「売りにしたいところはどこか」を絞り込んで撮影に臨みました。私はすべての撮影に立ち合いしたのですが、印象深かったシーンのひとつが、広告業の電柱前での撮影です。電柱の種類についても細かく指定がありました。当社が管理している電柱でないと、当社の仕事としては嘘になってしまう、と。

古川さん: 「この場所じゃないとダメだ」という広告部さんのこだわりには、私たちも全力で応えました。単に綺麗な公園の横の電柱で撮ればいいという話ではなく、電柱の種類や高さ、並び方などの環境が仕事の実態に即しているかどうか、何度もロケハンを重ねて場所を特定しました。話を伺ううちに、たしかに条件が整う場所は、そこしかあり得なかったんです。
永吉さん: 苫小牧港東港の燃料事業の石炭運搬船前での撮影も凄かったですね。特に安全面での規則が非常に厳しく、係留ワイヤーの真下や直線上に立ってはいけないなど、安全上の制約が多い中での撮影でしたが、撮影スタッフの皆さんは、現場の制約をしっかりと汲み取りながら、巨大な船と人の距離感をどう美しく収めるか、機器の限界に挑戦してくれました。

永吉さん:撮影当日は、私が都度モニターを確認して「OK」を出すという流れで進んでいました。この「OK」を出すのが責任重大で緊張していたのですが、この港の現場はチームのみなさんもどこか難しさを感じながらの撮影になっていることが素人目にも伝わっておりました。そのような中、伝えた「OK」のあとにそれは起こりました。現場立ち合いをいただいた他社の方が一言「興業さんの取り扱う船は大きいってことが伝わらないといけない」と。この瞬間、現場に緊張が走りました。
古川さん:あの時は、永吉さんが「OK」を出してくださった後でしたが、私の中でもう一つ、別の角度からの可能性が消えていなかったんです。そこに立ち会っていた他社の方がポロッとこぼした言葉が、実は本質を突いているかもしれない。そう思った瞬間、「もう一回やりましょう」と言っていました。クライアントを待たせること、モデルを呼び戻すことの申し訳なさはありましたが、それよりも「最高のカットを逃す後悔」の方が、私にとっては怖かったんです。永吉さんがそれを受け入れてくれた瞬間に、このチームは本当に良いものを作れると確信しました。
永吉さん: 私は正直、制作チームに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。本来は私が言うべきことは「OK」ではなかったのです。でも、古川さんは現場で考えられる可能性を最後まで排除せず、最善を尽くしてくださいました。そして結果的に、その撮り直したテイクが最終的に採用されたのです。決して妥協しない真摯な姿勢に、プロの仕事とは何かを教わりました 。
荒木: 11月に港での撮影でしたので、海風も吹き荒れ、非常に寒かったのですが、最後の撮影のときに北電興業のみなさんがモデルさんの風よけとなりながら体を張って頑張ってくれました(笑)。現場が一体となって最高の一枚を仕上げた瞬間だったなと思っています。
吉倉さん:出来上がった画を見ると、小型船とは明らかに違う、あの重厚なスケール感がしっかり表現されていて、現場にいた誰もが納得の仕上がりになったと思います。
――他にも、撮影時に苦労した場所やエピソードはありますか?
永吉さん:土木緑化事業の撮影については、冬も間近な時期に、緑化事業のイメージを映像として撮影しなければならないということでビニールハウス内での撮影になりました。ハウス前の撮影のために残雪を除けたり、枯れ木を素早く伐採したりと、ここでも現場の全員で撮影環境を整えました。この日、屋外は非常に寒かったので、温かいハウス内に避難しながら撮影をやり切りました。

吉倉さん: あとは資源事業の火力発電所の灰を溜める「石炭灰サイロ」前での撮影ですね。ここはひっきりなしにダンプトラックが入ってきて、その都度「(車が)来ました!」と言ってモデルさんが道路わきにはける、撮影位置に戻る…の繰り返しでした。短い時間制限の中での撮影でしたが、技術感が出ていてワクワクするシーンになりましたね 。

永吉さん:商事業の車両の撮影も、テスラの充電器がある場所を設定したのですが、当日一般のお客さまが使っていたら撮影できないという条件付きの工程でした。幸いどなたも使っておらず、奇跡的に撮影が成功しました。撮影チームのみなさんの徳のなせる業かと思います。また、不動産事業のビル撮影時のことです。ビル全体でのスチール撮影を一通り終え、ムービー撮影に移行している間、大通公園の逆側の遠いところからビルを収める新たな画角をを見出し、このショットが見事採用テイクに。季節柄、街路樹が落葉していたのが逆に建物が垣間見える効果も生み、天候リスクさえもプラスに転じたことには、ただただ驚嘆でした。

吉倉さん:撮影一発目だった建築事業のビルの屋上での撮影は晴れていたものの、非常に寒かったのですが、モデルさんはそれを全く感じさせない魂の撮影を見せてくれました。私たちが所属するコーポレート部門の会議室での撮影も、イメージ通りの撮影を行うことができ、タイトなスケジュールの中で、すべての事業部門で納得のいくビジュアルを撮りきることができました。今回は11月末の北海道という天候リスクのある中での強行日程でしたが、天候に恵まれ続けたことは非常にラッキーだったと感じました。

言葉に魂を込める―。”「もっと」をつくる。“から広がるコピー制作
――ビジュアルだけでなく、コピーの制作プロセスについても詳しく教えてください。
永吉さん: 新しい企業メッセージを「もっと」をつくる。に決めた後、それをどう文章に落とし込んでいくか、荒木さんとは、永遠に続くかのようなキャッチボールを繰り返しました(笑)。
荒木: 「もっと」をつくる。この言葉が決まった後、それをどうステートメントのメッセージとして完成形にもっていくか。吉倉さんや永吉さんとは、一文字単位での調整を繰り返しました。特に言葉や文章のボリュームなど、役員の皆様の関心も高く、議論を重ねながら慎重にブラッシュアップを進めました。最終的な案は、撮影で北電興業の従業員の皆様のお話を聞いた上で、納得できる言葉にして提出するのがよいと考えていました。ステートメント自体は夏頃から案はありましたが、最終案は撮影後に決まり、全員が納得できる着地になったと考えています。
古川さん: 採用広告のコピーについても、“「もっと」をつくる人になる。”という言葉を掲げ、北電興業様の姿勢が採用まで一気通貫したメッセージになるよう工夫しました。ポスターの文面のバランスも、街を俯瞰して見ている視点から細かい仕事の内容に入っていくようなストーリーを感じさせるものになっています。
想いをビジュアライズするプロとして
――今回の制作にあたり北電興業様の課題を聞き、どのように制作に落とし込んでいったのでしょうか。
古川さん:今回、最初にお話をいただいた時に、北電興業さんの事業の幅広さをどう見せるかという課題がありました。私が一番大切にしたのは、「1ミリの嘘もつかない」ということです。皆さんが日々向き合っている現場の空気、音、光を、そのまま切り取ること。それが企業の信頼につながると信じていました。テレビ塔の撮影もそうですが、現場主義を貫くことが、結果的に北電興業さんの誠実さを可視化することになると思ったのです。
――生まれたコピーとビジュアルをどのように結び付けていくのでしょうか。
古川さん:「もっと」という言葉が決まった時、私の仕事はその言葉に「証拠」をつけることだと思いました。言葉だけが浮いてしまわないように、日々の現場や、静かな朝焼けの光の中に、その『もっと』という姿勢が確かに存在することを写真で証明する。文章と写真が合わさった時に、初めて社員の皆さんが「これは私たちの会社だ」と思える一冊、一枚になると考えて制作を進めました。
「作業のスケジュール」から、社員を「主役」に
――プロジェクトのもうひとつのメインである採用サイトの刷新において、特に意識した点はどこでしょうか。
吉倉さん: 以前の採用サイトでは、仕事の具体的な作業イメージは伝わらない状態でした。今回のサイトリニューアルでは、どう魅力的に、かつリアリティを持って見せるかにこだわりました 。
荒木: これまでは、なぜその作業をするのか、それがどうして重要な仕事なのか、その魅力が伝わりにくい表現となっていましたが、今回は、リブランディング後のコピー“「もっと」をつくる。”に連動した新たな採用キーメッセージ“「もっと」をつくる人になる。”の作成はもちろん、掲載する内容も実際に働いている社員によりフォーカスし、仕事や人の魅力が伝わりやすい見せ方を心掛けました。
永吉さん: 刷新にあたり、当初「顔出しを嫌がる人が多いのではないか」という懸念があり、社員の写真を載せる代わりにイラストを載せる案も検討していました。ところが、いざ社員に採用サイトに掲載する記事用のインタビューを依頼してみると、意外にも13名もの社員が「会社の役に立つなら」と顔出しを快諾してくれたのです。これは驚きと共に、嬉しかったですね。
吉倉さん: インタビューと撮影の当日は、ガッチガチに緊張している者もいましたが、いざ、インタビューが始まるとみんな自分の仕事について誇らしく語ってくれました。社員の仕事に対するプライドは、我々事務局の想像を大きく上回ってくれました。社員たちがインタビューを通して自分の考えを再整理し、満足そうな表情を浮かべているのを見て、今後の広報運営にも希望が持てました。
チームで作り上げた「誇らしい」アウトプット
――今回のリブランディングにおける制作を経て、得られた気づきや感想を教えてください。
吉倉さん: 今回のリブランディングで、ようやく企業メッセージという明確な拠り所ができました。何の会社か説明できずに困っていた状況から、一つ大きなハードルを越えたと感じています。
永吉さん: 古川さんやソニー様だけでなく、コピーライターの方もおっしゃっていましたが、私たちの会社を「いい人ばかりで心地よい」と言っていただけたことが何より嬉しかったです。制作チームの皆さんは、当社のことを深く理解しようとしながら仕事を進めてくれました。
古川さん: 撮影で各事業所を回らせていただいて、一番印象的だったのは、働いている皆さんの「顔」です。最初は「顔出しなんて……」と照れていた社員の方々が、いざカメラの前に立ち、自分の仕事道具を手に取ると、スッと職人の顔になる。その瞬間が一番かっこいいんです。「この人たちが、北海道を支えているんだ」という実感が、ファインダー越しに伝わってきました。単にビジュアルを作る作業ではなく、皆さんの誇りを再確認する作業に立ち会わせてもらっているような、そんな感覚でした。
荒木: 今回のプロジェクトは企画部の皆様とスタートしましたが、やがて全社的な取り組みへと広がり、多くの皆様が前向きに、会社への想いをもって関わってくださったことが印象に残っています。
対外発表の前の社内お披露目会も大変盛り上がったと伺い、今回のアウトプットが単なる制作物ではなく、「自分たちのもの」として北電興業の皆様に受け止められたのではないかと感じました。この共感がさらに広がり、今後の取り組みへとつながっていくことを楽しみにしています。
――今後の展望を教えてください。
永吉さん: 今回できた制作物は、社員にとっては「ありたい姿」を確認できる指針であり、社外には当社の意思表示となります。北電興業のメッセージ“「もっと」をつくる。”に恥じない仕事を、私たちはこれからもコツコツとやっていく。それに限ると思います 。
吉倉さん: これからは、今回作った地盤を活かして、採用や事業拡大の課題に対し積極的に攻めていきたいですね。Sony Acceleration Platform様や古川さんと共に歩んだこのプロセスは、私たちにとって最大の財産です 。
永吉さん: 最後に北海道で働く魅力を少しだけ宣伝させてください!
スキーをこよなく愛する私ですが、自宅から車で5分の場所にスキー場があり、会社からの帰宅後にナイターへ行けます。市内に複数のスキー場を有する札幌市は、「世界で最も雪が多い大都市」と言われており、北海道にはニセコなど世界的なクオリティのパウダースノーもあります。
この記事をご覧になった全国のウインタースポーツを愛するみなさま、ぜひ当社へのご応募と北海道への移住をご検討ください!!

ありがとうございました。北電興業様の新しい挑戦の行く末が楽しみです!