2026.04.20
Challengers ーイノベーションの軌跡ー

株式会社IHI #01|「何を成し遂げたいか」を常に問う、未来の経営人財の非連続な成長を導いた半年間

Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。 本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。

今回ご紹介するのは、航空宇宙分野をはじめ、エネルギーやインフラ分野で社会の安全や産業の発展を支える株式会社IHIの取り組みです。 
同社は今、激しい環境変化の中で変革をけん引するリーダー人財の育成を喫緊の課題として掲げています。そのための大きな取り組みとして、2023年に発足した「IHIアカデミー」。IHIグループの変革をリードする“グローバルで活躍する経営・専門人財”の育成・強化のため、Sony Acceleration Platformの人財育成プログラムを導入。若手社員を対象に、自身の「Will(志)」を起点としてゼロから新事業を構想する、約半年間の実践的な育成プログラムを実施しました。 

単なるスキルの習得にとどまらず、なぜ「ゼロイチ」という過酷なプロセスを人財育成の手段として選んだのか。そして、事務局とアクセラレーターがどのように伴走し、参加者の非連続な成長を引き出したのか。同社のプログラムを牽引した事務局の皆さんと、Sony Acceleration Platformのアクセラレーターに、その舞台裏を聞きました。 

 

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変革をリードする「個」の確立を目指して

――「IHIアカデミー」の役割と、事務局の皆さんが抱いていた課題意識について詳しく教えてください。

平井さん:IHIアカデミーは2023年、社長直下の組織として誕生しました。我々のミッションは、経営人財や専門人財の育成を柱とし、単なる研修で終わらせず、サステイナブルな取り組みとして機能させることです。人財の発掘から育成、登用までをトータルでマネジメントする機能を持っており、これは一般的な人事組織の中でもかなり踏み込んだ形と言えるでしょう。

特に我々が大切にしているのは、個々人の「経験のデザイン」という考え方です。 その人がどのようなキャリアを歩み、今、どんな経験を付与すべきか。世の中一般でいう「タフアサイン」のような側面もありますが、その人の人生にも関わっている話なので、本人が何をしたいのかを把握した上で経験をデザインしていく。非常に責任が重いですが、逆にそれをデザインできることは、誇れる業務だと思っています。

小出さん:背景には、変化の激しい現代に「変革を自らリードできる人財」が不可欠だという強い危機感がありました。 これまでと全然違うことをやっていかなければならない中で、既存の発想にとらわれず、異なる視点から発想し、周囲を巻き込みながら世界をリードできる人財を育てたい。それを、若手のタイミングからしっかりと育成していきたいと考えたのが今回の出発点です。

平井さん:私は前職でグローバルHRや経営人財育成を担当していましたが、そのご縁で2023年6月からIHIアカデミーに加わりました。将来、経営に携わることを目指す人のファーストステップとして、どんな知識やスキル、そして能動的に動くためのコンピテンシーを持つべきか。ビジネスのベースとなる基礎を体系立てて学べるプログラムが必要でした。

 

「0から1」という手段と「Will(志)」の共鳴

――パートナーとしてSony Acceleration Platformを採択された決め手は何だったのでしょうか。

小出さん:出会いは、2023年秋、事務局メンバーがWeb広告を目にしたことがきっかけでした。その後、ソニーさんのイベント「Creative Morning」への参加や拠点訪問を重ね、双方のマネジメント層も交えた議論を経て、導入を決定しました。決め手は、私たちが最も大切にしたかった「自分のWillを持つ」という姿勢と、ビジネスの基礎を学びながら、自身と会社・社会をつなぐSony Acceleration Platformのプログラムが完璧にフィットしたことです。

平井さん:単にビジネスの武器(スキル)を教えるだけではないんですよね。 自分の意志を言語化するプラットフォームを持ちつつ、コーチングやメンタリングを組み合わせて、「複合的に経営人財の基礎を育てる」というアプローチに深く共感しました。

田中さん:私は、当社でマネジャーを経験する中で人財育成に関心が移り、2年前に自ら手を挙げてIHIアカデミーの運営に参画しました。当社には「技術が好き」という強い想い(Will)を持った社員が実はたくさんいます。「技術をもって社会の発展に貢献する」という経営理念に共感して入社している人が多く、やりたいことを尊重してくれる文化もあります。 しかし、これまでの自事業のビジネスモデルの中で、目の前のお客様の声に応えることだけでなく、変化の激しいこの環境で自ら「どんな社会課題があるのか」「自社には何ができるのか」をゼロから考える挑戦が足りていなかった。ソニーさんのプログラムは、まさにそこを補完してくれる確信がありました。

 

――立ち上げにあたり、事務局として特にこだわった点はどこですか。

小出さん:入口は「公募制」を採用しました。単なる「やりたい人集まれ!」という公募ではありません。まずエントリーパスとして、リーダーのベースとなる経営管理の基礎知識や思考力を問うアセスメントを設けたうえで、これに合格した人だけが本プログラムに応募できる仕組みです。エントリーパスと、本プログラムの公募を突破した本気度の高い人だけが、次のプログラムに進めるようにしました。

渡部:この構造が本当に素晴らしい。公募は時に「暇な人が来る」と懸念されますが、IHIさんは「ここをパスしないと進めない」という強度の高い作り込みをされています。事務局の皆さんが魂を込めて、ハードルを高く設定して設計されているので、我々も非常に高い熱量で応えることができています。

――半年間のプログラムを組む上で留意したポイントを教えてください。

小出さん:中心は「0から1の新事業創出体験」ですが、事業を作ること自体が目的ではありません。目的はあくまで、その「プロセス」を通じた個人の変容です。自社の強みと社会課題を繋げていくプロセスを半年間継続し、社外の言葉でフィードバックを受けながら内省する。この「社内外の視点の往復」の密度を上げることに注力しました。

渡部:設計上、意図的に「余白」を多く作りました。 教えすぎず、メンタリングでも「どうしたいですか?」と問いベースで進める。あえてチームリーダーを決めない、全員にアウトプットさせてから合意形成させる。これはリーダーに必要なスキルやマインドセットを体得してもらうための、僕らなりの「揺さぶり」でした。

 

 

あえて助けず、変化を待つ。もどかしさを「見守る」事務局の覚悟。

――実施中、運営として大変だったことや、印象的なシーンはありますか。

小出さん:答えのないものに挑むプロセスは大変です。メンバー同士の意見が対立することもあります。事務局としては、参加者がいかにもがいているかを知っているだけに、助け舟を出したくなることもありましたが、そこはグッとこらえて「見守る」ことに徹しました。

田中さん:特に顧客インタビューの場面が印象的です。自分たちの考えた仮説をぶつけに行って、打ち砕かれる。社内の「暗黙の空気」や価値観が通じない外の世界で、「自分たちが考えたことが全てではない」と気づくプロセス。これを経験してもらうことが不可欠だと考えていました。最終的に、課題の進捗が遅れていたグループもメンタリングのフォローを得ながらやり切った姿には目を見張るものがありました。

渡部:僕は、途中で「目立つ人」が入れ替わるのが面白かったですね。最初は控えめだった人が、ある瞬間から覚醒する。この機会を最大限に活用し始める。事務局の皆さんも、そんな一人一人の変化を本当に丁寧に見守っていましたね。

小出さん:運営として心強かったのは、ソニーの皆さんの誠実さです。私たちが感じている「まだ言葉にならない違和感」を相談すると、渡部さんはじめアクセラレーターの皆さんは、それを丁寧に汲み取って「こういうことですよね?」と的確に言語化し、プログラムに反映させてくださいました。 私たちの意図を、ソニーの皆さんを通して伝えてもらうことで、より意味を持つ瞬間もありました。

渡部:事務局の皆さんが、僕らを単なる「取引先」としてではなく、高い要求を出し合いながら共に作り上げるパートナーとして信頼してくださった。事務局の皆さんが非常に強いWillを持っているので、「こうしたい」というメッセージですり合わせができる。 この「使いこなし」の上手さが、参加者に質の高いメッセージを届けることに繋がったのだと思います。

平井さん:実際に講義を見ていても、渡部さんたちは言いたいことを端的に参加者に伝えてくれる力を持っていました。社内の人間だけではどうしても作れない場の空気を提供していただいたのはありがたかったです。

渡部:IHIの皆さんは非常に真面目ですが、だからこそあえて「揺さぶり」をかけました。 「違和感を持ったら口に出して混ぜ返そう」と言い続け、忖度せずにぶつけ合える姿勢を求めました。最終プレゼンで、全員が自分の言葉で堂々と発表している姿を見たときは、皆さんの成長に事務局の皆さんと一緒に感動しましたね。全員が輝いていて、審査員の皆さんからの問いに対してしっかりと回答できていたのが本当に嬉しかったです。

その後の参加者同士の懇親会も印象的でしたね。IHIアカデミー長である野口聡一さんに対し、参加者が急遽エレベーターピッチを披露する場面がありました。究極の「越境者」である野口さんを前に、1分間という限られた時間で自分の想いをぶつける。あの場で見せた参加者の熱量こそ、このプログラムで得られた最大の成果だったと感じています。

IHIアカデミー長の野口聡一さん:懇親会でのご挨拶の様子

 

 

組織に広がる「熱量」と波及効果。学びを「実践」へ昇華させる仕掛け

――プログラムを終えて、どのような変化を感じていますか。

平井さん:人財育成なので即座に数字が出るものではありませんが、参加者が学んだことを「自分自身の糧」として、実践でどう生かしていくかという意識は明らかに高まっています。 アンケートでも、今まさに実務で生かそうとしている熱い言葉が多く並んでいます。

小出さん:参加したメンバーが職場に戻り、このエネルギーを職場内に広げてくれることを期待しています。一人のリーダーが育つだけでなく、その周りの部下や同僚も刺激を受ける。 「この人が受けていたから自分も受けてみよう」と思われるような、じわじわと熱量が上がる変化を、事務局として仕掛けていきたいです。

――具体的な反響や、嬉しかった声はありますか。

小出さん:他者への推奨度は平均4点(5点満点中)と非常に高く、驚いたのは「次年度以降、新しい参加者のサポートをしたい」という声が続出したことです。自分が学ぶだけで終わらせず、周囲への影響力を発揮しながら全体の成長へつなげていきたいというニーズに繋がっているのは、事務局として本当に嬉しい発見でした。

田中さん:自分が得た気づきを次世代へ伝承していきたいという声は、このプログラムが個を活かす構成になっていたからこそだと思います。誰かが絶対的に引っ張るリーダー像を押し付けるのではなく、それぞれの個性がチームの中で活かされる。そんな秀逸なプログラムだったと感じています。

 

最後に:未来を創るすべての人へ

――今後の展望をお聞かせください。

田中さん:来年度もさらにブラッシュアップして継続していきたいと考えています。 理想は、プログラムに参加した一人のリーダーが職場に戻り、そのモチベーションを周囲に広げ、職場全体が自律的に動き始めることです。 参加者の熱量を通して、周囲の方々が「自分たちも職場に変化を与えていきたい」と思ってくれることで、会社の風土がより積極的になっていくことを仕掛けていければ嬉しいですね。

小出さん:そうですね。単発の取り組みで終わらせず、プログラム修了後も参加者の成長を中長期的に見守り続けたい。 アカデミーとして、参加者の皆さんが次のステージに上がるための経験を、より精緻にデザインしていければと思っています。

――新しいことにチャレンジしたい方へのメッセージもお願いします。

小出さん:新しいことを始めようとするとき、リスクやマイナスの影響を考えて立ち止まってしまうことがあると思います。でも、実際にやってみなければ見えない景色が必ずあります。 私たち事務局も、皆さんと同じように悩みながら、今までにないプログラムに挑戦したいという想いでこのプログラムを立ち上げました。

平井さん:従業員一人一人が心境の変化を持ち始めているのは間違いありません。 自分のWillを信じて一歩踏み出せば、必ず助けてくれる仲間が見つかります

田中さん:皆さんが持っている想いは、必ずどこかで誰かの役に立ちます。 ぜひ、自分の声を外に出してみてください

※本インタビューは、2026年2月時点のものです。 

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いかがでしたか?
次回は、経営人財育成プログラムに実際に参加された参加者の皆さんの声をお届けします。 

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、1010件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2026年3月末時点)

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