2026.03.17
Challengers ーイノベーションの軌跡ー

アインズ株式会社|環境対応型インキ『eLinks®』 最高賞受賞の舞台裏

Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。
本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。

今回は、1年前に本連載でご紹介した 、アインズ株式会社(以下、アインズ)が開発した新発想の環境対応型インキ『eLinks®』のその後に迫ります。      
VOC(揮発性有機化合物)排出の一因となる石油由来の溶剤や、プラスチック原料となる合成樹脂を一切使わず、環境への負荷を極限まで減らした印刷インキ  『eLinks®』。
その大気環境改善への貢献が高く評価され、アインズは、「第2回Clear Skyサポーターアワード(東京都環境局・公益財団法人東京都環境公社主催)」において、最高賞であるグランプリを受賞しました。

「1年で必ず結果を出す」という不退転の決意で臨んだプロジェクトは、いかにして最高賞に輝いたのか。
『eLinks®』の営業推進を担当する林田頼将さんと、技術開発を担当する松岡正宏さんに、グランプリ受賞の舞台裏と今後の展望を伺いました。

アインズ株式会社 東京支社 林田頼将さん
アインズ株式会社 新規事業グループ 松岡正宏さん

 

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■当日まで知らされなかったグランプリ受賞

―― 大気環境の改善に貢献する企業の優れた取り組みを表彰する「第2回Clear Skyサポーターアワード」のグランプリ受賞、本当におめでとうございます。率直な感想を教えてください。

林田さん: 率直に嬉しかったです。開発に3年ほどかかりましたので、ようやく報われたという思いでした。実は、最終候補の3社に選ばれていることは事前に知らされていたのですが、どの賞をいただけるかは授賞式当日まで全く分からなかったので、ずっとソワソワした緊張感が続いていました。

松岡さん: 私も当日までは、(準グランプリである)敢闘賞に違いないだろうと少し控えめに考えていました。ところがいざグランプリの発表で「アインズ株式会社」と呼ばれた瞬間、感動して感極まるものがありました。これまで一歩ずつ前進してきたことが、こうして大きな賞という形で実を結んだことに大変安堵しつつも、さらに良い製品にしていかなければというプレッシャーも同時に感じています。

授賞式に登壇するアインズ株式会社の谷口彰代表取締役社長
授賞式に登壇するアインズ株式会社の谷口彰代表取締役社長

■「実績づくり」の飛び込み営業が、グランプリへの扉を開いた 

―― そもそも、このアワードにエントリーされたきっかけは何だったのでしょうか?

林田さん: 2025年4月に『eLinks®』の販売を開始した頃、まずは自治体のトップである東京都庁で実績を作るため、環境局へ飛び込みで営業をかけたのが始まりでした。そこで対応してくださった担当の方に、大気汚染の原因物質であるVOCやPM2.5削減に向けた各社の取組を表彰する「Clear Skyサポーターアワード」をご紹介いただき、すぐにエントリーを決めました。

―― エントリーから受賞までの道のりはどのようなものでしたか?

林田さん: 最初の1次投票には15社ほどがエントリーしていました。そこから7、8社と半分くらいに絞られ、最終の決戦投票で3社に絞り込まれるというプロセスでした。
実は4月に『eLinks®』の本格的な営業をスタートした際、会社からは「1年で広がらなければ撤退も考えないといけない」という条件付きでのスタートだったんです。何としてもブランド力を高めたいと考えていた中でのグランプリ受賞だったので、本当に嬉しいニュースでした。

アインズ株式会社 東京支社 林田頼将さん2

■「プラゼロ・VOCゼロ」インキの誕生 

―― 1年前の取材では、ちょうど『eLinks®』が「樹脂ゼロ」インキとして完成したばかりのタイミングでした。そこから製品の変化などはありましたか?

松岡さん: はい、やるからには究極を目指そうと、これまでの「樹脂ゼロ」の知見をベースに、さらに用途を広げるための開発を進めました。その過程で、印刷の作業性や皮膜の強度を極限まで高めるためには、インキの核となる「結着剤(ワニス)」の役割が極めて重要であるという原点に立ち返ったんです。そこで、単に成分を抜くだけでなく、あえて「天然由来の樹脂」を最適に配合するアプローチを採りました。石油由来の合成樹脂を一切使わないことで、「プラスチックゼロ(プラゼロ)」を定義しつつ、従来のインキに劣らない実用性を両立させたのです。この改良により、添加剤に含まれる微量なプラスチック成分も排除した「完全プラゼロ」を実現。同時に天然成分への置き換えで「VOCゼロ」も達成することができました。

―― 市場へ出す際、お客様の反応に変化はありましたか?

林田さん: 非常に大きかったですね。当初「樹脂ゼロです」とご説明しても、この分野に詳しい購買担当の方、いわゆるプロの方々には驚かれますが、一般のお客様は全くピンときていませんでした。そもそも「インキの中に樹脂が入っている」ということ自体が知られていないため、「だから何?」となってしまうんです。
一方、世間の関心が高い「プラゼロ」「VOCゼロ」というキーワードに切り替えて提案したところ、一気に伝わりやすくなりました。結果として、業界向けではなく、一般の消費者や企業に向けて広くアピールできる製品に進化させることができましたし、今回のグランプリ受賞にもつなげることができたのではと考えています。

■「絵の具のようなインキ」 現場の猛反発と、それを覆したグランプリの称号

―― 開発の過程で、現場ではどのような苦労がありましたか?

松岡さん: 生産現場の技術者たちは、プラゼロのインキを使った場合にどんなトラブルが起こるか容易に想像がつくため、当初は現場のモチベーションを保つのが非常に難しかったです。周りから見れば苦労にしか見えず、「あんなことしたくない」「なぜわざわざ大変なことをするのか」という反発もありました。私は開発と現場の間に立って繋ぐ役割だと思っているので、悲観的なモードに入らないよう、「ここまでできた、次は何ができる?」と前向きな声をかけ続けました。結果が出ないうちは苦しみを感じることもありましたが、今回アワードでグランプリを取り、世の中に認められたことで、現場のモチベーションが劇的に上がりました。これまで「やりたくない」と言っていた職人たちも、自分たちが苦労して印刷したものが評価されたことで、今はやりがいを感じてくれています。社内のベクトルが一つになったことが、このアワードに参加した何よりの成果だと思っています。

アインズ株式会社 新規事業グループ 松岡正宏さん2

■「究極のエコ」水なし印刷への挑戦

―― 『eLinks®』の導入状況と、今後の展望について教えてください。

林田さん: すでに東京都のチラシやポスターなどに『eLinks®』が採用されています。また、東京都での採用をきっかけに、他の自治体からの引き合いも増えてきました。今後は、環境配慮が強く求められるアニュアルレポート(年次報告書)やCSR関連の印刷物などにも用途を広げていきたいです。
当社は2027年に創業150周年を迎えますので、これまでになかった発想から生まれたこの新しい技術を、さらに世に出していきたいと思っています。

松岡さん: 次なるステップとして、水なし印刷の『eLinks®』バージョンを開発したいと考えています。当社はこれまで30年近く水なし印刷に取り組んできました。水なし印刷はそれ自体が環境に優しい技術ですが、そこにプラゼロ・VOCゼロを組み合わせることができれば、「究極のエコ」になります。素材との組み合わせや、添加剤の調整など、実現には非常に高い壁がありますが、今回のグランプリ受賞で現場のやる気が増していますので、新たなものを作り出す「攻め」の姿勢で仲間と共にこの「究極のエコ」の実現に向けて突き進んでいきたいと思っています。

アインズ株式会社 新規事業グループ 松岡正宏さん(左)アインズ株式会社 東京支社 林田頼将さん(右)

 

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新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2026年2月末時点)

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