Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。 本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。
今回ご紹介するのは、航空宇宙分野をはじめ、エネルギーやインフラ分野で社会の安全や産業の発展を支える株式会社IHIの取り組みです。同社は今、激しい環境変化の中で変革をリードできる「経営人財」の育成に力を入れています。
>> 株式会社IHI #01|「何を成し遂げたいか」を常に問う、未来の経営人財の非連続な成長を導いた半年間
実際に、経営人財育成プログラムに実際に参加した人たちは、正解のない世界で、どのようにチームの衝突や自身の壁と向き合い、「自己変革」を遂げていったのでしょうか。多様なバックグラウンドを持つ3名の参加メンバーへのインタビューを通じて、自己変革のリアルな軌跡を紐解きます。






多様なバックグラウンドを持つ「次世代のリーダー」たち
――皆さんのご経歴や担当されている業務について教えてください。
窪田さん:私は2019年に入社し、営業を担当しています。最初の4年間はグループ会社のIHI物流産業システムで、自動車向けのプレス機をはじめとした産業機械の営業をしていました。その後、社内のキャリアチャレンジ制度を利用して、現在の車両過給機(ターボチャージャー)の部署へ異動しました。現在は浜松に駐在し、自動車メーカー向けの営業を行いつつ、事業開発統括本部に所属し、新規事業創出に向けた地域情報収集・発信に取り組んでいます。ちなみに、今回のプログラムの前日には人生で初めて足を骨折してしまい、松葉杖をついて参加するという波乱のスタートでした(笑)。
清水さん:私は2016年に入社しました。大学と大学院で機械工学を専攻しており、自分の技術を社会に活かしたいという思いでIHIに入りました。事業分野としては、窪田さんと同じ車両用過給機に10年間携わっています。最初の8年間は設計を担当し、お客様要求を製品に落とし込む業務に取り組んできました。 その間には、アメリカの工場への出向も経験し、設計だけでなく生産技術や新規サプライヤ立上げなど、生産に関わる幅広い業務も担当しました。その中で、より良い製品を設計するためには「実際のモノづくりを深く学ぶ必要がある」と強く認識し、直近の2年間は生産技術部門へ異動しました。現在は、製造と設計の橋渡しをミッションに、サプライヤの方々との共創活動を推進しています。
齊藤さん:私は2011年に入社しました。東日本大震災直後に原子力SBUに配属され、変化の大きい環境のなかでキャリアをスタートしました。 管理部門、関係会社への出向や海外プロジェクト部門での契約実務など、さまざまな立場から原子力事業に関わりました。2020年度からは本社部門で経済安全保障に関する全社的な課題への対応を担当し、今回のプログラム受講期間中は航空・宇宙・防衛事業領域において宇宙分野の新たなビジネスの可能性を模索していました。今年2月からは再び原子力SBUに戻り、原燃サイクル事業のプロジェクト推進に取り組んでいます。
―― 皆さんが経営人財育成プログラムに参加した理由を教えてください。
窪田さん:私の動機は大きく2つあります。1つ目は、社会課題をいかに事業機会として捉えるか、その「検討のフレームワーク」を習得することです。私が所属する車両過給機の分野は内燃機関を前提とするキーパーツであり、電動化やカーボンニュートラルの流れの中で事業環境が大きく変わりつつあります。その中で、既存事業の延長ではない新たな事業機会を捉え、形にしていく力を高めたいと考えました。
2つ目は、「社内ネットワークの構築」です。以前、新規事業を検討した際、特定の技術に詳しい社内の専門家を探すために、電話帳を眺め、知り合いや関係がありそうな部署に片っ端から電話をかけていました。IHIには素晴らしい技術やアセット、そして優秀な人財が揃っています。だからこそ、このプログラムに参加するような志の高い方々と深く繋がり、未来の事業を共創する土台を作りたかったのです。まさか、その繋がりの中でこれほどまでに自分自身を見つめ直すとは、当時は想像もしていませんでしたが…。
清水さん:私が参加を決めた最大の理由は、「顧客価値とは一体何なのか」を本質的に学びたかったからです。私の普段の業務である生産技術や設計は、目の前にある明確な問題を解決していく「答えのある世界」になりがちです。しかし、現代の社会課題は「何に困っているのか」さえ曖昧なものが溢れています。
これまで、事業部の新規事業開発チームに参画し、事業の枠を越えて社会課題の解決を目指して活動した経験もありますが、顧客価値の考え方や新規事業の進め方について知識やスキルが大きく欠けていることを痛感しました。だからこそ、一度既存の枠を飛び出し、多様な部門の方々の知見を交え IHIが持つ技術やアセットをより深く理解し、「技術をもって社会の発展に貢献する」 ための考え方を学びたいと強く感じていました。
齊藤さん:私の出発点は、「新規事業開発の型をきちんと体系立てて学びたい」という思いでした。IHIは長年技術に裏打ちされたモノづくりを強みとしてきた一方で、近年はそれらを活かしたサービスやソリューション、いわゆる「コト売り」の取組みを進めつつあります。その中で、従来のモノ売り中心の発想に慣れた社内の皆さんと、コト売りならではの価値や時間軸をどう共有し、共感の輪を広げていくかに難しさを感じていました。だからこそ、Sonyさんの新規事業の進め方やマインドセットに触れながら、事業領域もキャリアも異なるIHIの仲間と議論することで何か突破口を得たいと考えました。
渡部:IHIアカデミー事務局の皆さんと議論を重ねて、このプログラムを設計する際に最も重視したのは「非連続な成長」です。既存の研修のような座学での知識習得ではなく、新規事業創出という正解のないものに挑む体験を通じて、自分自身を根本から見つめ直していただきました。だからこそ、あえて厳しい環境を用意し、教えすぎずに参加者自身が仲間やアクセラレーター、コーチとの関わりを通じて自律的に考え行動するプロセスを重要視しました。
深夜の激突と崩壊の危機。見失った「北極星」を取り戻すまで
―― 本プログラムはワークショップとフィールドワークのサイクルで、顧客起点の事業創出を体験していただきました。皆さんそれぞれ別のチームでしたが、推進していく中でどのような苦労がありましたか?
清水さん:私が所属したチームの一番の危機は、プログラム後半に顧客へのインタビューを重ね、いよいよ事業の形を作り始めようとしたタイミングでした。チーム内で、激しい衝突が起きたんです。
これまで幾度となく「サプライヤとの共創」や「顧客価値」といった同じ言葉を使って議論してきたはずなのに、いよいよ事業の形を作ろうというタイミングでメンバーそれぞれが描いているイメージが全く噛み合わなくなりました。連日何時間もTeamsを繋いで、時には激しい議論となるのに、一向に前に進まない時間が続きました。ファシリテーター役だった私も「これ、本当にまとまるのか?」と投げ出したくなる瞬間もありました。
その時、チームの先輩メンバーが「事業をどう作るかは一回忘れて、自分たちのミッション・ビジョン・バリューをもう一回突き詰めて話さないか?」と声をかけてくれたんです。
そこから数時間、事業案の議論をストップし、「このチームはそもそも何を成し遂げるために集まったのか」「北極星(目指すべき方向)はどこにあるのか」を全員が納得できるまでとことん議論をしました。この激しい衝突と徹底的な対話があったからこそ、チームの結束はとても強固なものになりチーム全員が心の底から納得し自信を持てる事業案を作り上げられました。最終コンペで表彰こそされませんでしたが、プログラムが終わった今でも、たびたび「あの発表に何が足りなかったのか」を議論し、衝突を経て互いを認め合いチームとして結束するというまるで少年漫画のような本当に貴重な経験ができた時間だったと語り合うほど本気で向き合えました。これは一生の財産です。
伊藤:清水さんのチームが激しく意見をぶつけ合っている時、私たちメンター陣はあえて介入を抑え、見守るスタンスをとらせていただきました。日本企業の中では、どうしても「波風を立てない」「空気を読む」ことを優先することが多くなります。しかし、本物のチームになるためには、互いの違和感や衝突から逃げずに乗り越えるプロセスが不可欠です。自分たちの「北極星」を見失わず、ドロ臭く合意形成をしていく経験こそが、既存の縦割りの壁を越えて繋がる「バウンダリースパナー」への第一歩になるからです。
挫折の先で見つけた「自分だけの武器」と他者貢献
―― 個人の「自己変革」という点では、どのようなストーリーがありましたか?
窪田さん:私はこのプログラムを通じて、入社以来味わったことのない「挫折」を経験しました。私は営業として自分が旗振り役となってプロジェクトや課題解決に向けて力強く引っ張っていくスタイルを得意としてきました。
しかし、0から1を生み出す事業開発の場においては、自分よりも遥かにスマートに思考し、アイデアを形にできるメンバーがチームに揃っていたんです。「この優秀なチームに対して、自分は一体どういう価値を提供できるのか?」とひたすら悩み、一時は自信を喪失しました。
ですが、「今のチームに不足しているものや見落としている視点はないか」「自分にしかできないことは何か」と自問自答を繰り返す中で、少しずつ視点を切り替えることができました。そこで私は、評価軸を見直して補強すべきポイントを整理・共有したり、想定質問に対するQ&A集を徹底的に作り込んだりと、誰も手が回っていなかった泥臭い裏方の役割に徹することに決めたのです。
自分が常に前に出ることだけがリーダーシップではない。一歩引いて客観的にチームの状況を捉え、足りないピースを埋めることで貢献する姿勢もまた、リーダーシップだと気づきました。この「他者貢献志向」の視点を持てたことは、現在の営業や事業開発の業務にも直結する大きな成長だったと感じています。
渡部:窪田さんが「自分が旗を振らなきゃ」ではなく、チームの勝利のために何ができるかを考え始めた瞬間、窪田さんの表情や発言の質がガラリと変わりました。それはまさに、周囲をエンパワーメントし、チームのパフォーマンスを最大化させるリーダーシップの芽生えでした。窪田さんの強みであるエネルギーが、独りよがりではなく「チームの推進力」へと転換された瞬間でしたね。
プロのコーチングが暴いた「無意識の癖」と、真の傾聴
―― プログラムには、プロフェッショナルコーチによるコーチングが組み込まれていました。この時間は、皆さんにどのような変化をもたらしましたか?
清水さん:私の人生を変えるほどのインパクトがありました。私はコミュニケーション力にはある程度自信があったのですが、コーチから客観的に指摘を受けました。「清水さん、人の話を聞いている時に、次に自分が何を言うか考えているでしょう。100%相手の話を聞くことに集中できていないのが伝わってきていますよ」と鋭く見抜かれたんです。さらに「話が盛り上がると、相槌が早く、言葉が被せ気味になる。それでは話しにくいと感じる人もいる」という厳しいダメ出しもいただきました。 最初は図星すぎてショックを受けましたが、この率直なフィードバックを素直に受け入れ、「聞く時は100%聞く」ことを徹底的に意識しました。その結果、先ほどお話ししたチーム崩壊の危機においても、メンバーの言葉を遮らずに最後まで聞き切り、表面上は対立する意見であっても「なぜそう考えたのか」を丁寧に引き出すことで、ファシリテーターとして多様な意見をまとめることができたのです。もしあのコーチングがなければ、私は自分と違う意見は聞き入れず、自分の事業案を押し付けてしまい、チーム全員が自信を持てる事業案を作り上げるには至らなかったと思います。
IHIの「常識」を破壊する。メンタリングとAIの融合
―― 事業創出に向けたメンタリングでは、Sony Acceleration Platformのアクセラレーターが厳しいフィードバックを行いました。事業案を練り上げる過程で、どのような気づきがありましたか?
齊藤さん:私は最後のピッチプレゼンテーションの準備で、これまでの常識を覆される経験をしました。
課題解決に向けて数カ月かけて挑んできた分、伝えたい想いやデータが多く、最初は発表に25分もかかる壮大な資料を作ってしまったんです。それを10分に削る必要がありました。 IHIでは後で誰が資料を読んでも内容を追えるように、比較的文字情報を多く載せて丁寧に説明したスライドが好まれる傾向があるように感じています。 しかし、Sony Acceleration Platformのアクセラレーターとのメンタリングでその資料を見せたところ、「言いたいことは分かりますが、文字が多すぎます。ストーリーとしての『緩急』が全くないですね」とバッサリ斬られました。
最初は戸惑いましたが、彼らの指摘は的確でした。そこから、絶対に伝えたいポイントとそうでないポイントを切り分け、文字を極限まで減らし、「絵(ビジュアル)」で直感的に訴えかけるピッチスタイルのスライドへと作り変える決断をしました。これは社内では絶対にやらない、非常に勇気のいる試みでした。
伊藤:齊藤さんのチームに私がお伝えしたのは、「ピッチは資料を読ませる場ではなく、共感を生み、相手の心を動かす場」ということです。IHIの皆さんは非常に論理的で丁寧ですが、それゆえに「熱量」が膨大な文字の中に埋もれてしまうことがある。齊藤さんはそのアドバイスを素直に受け入れてくださり、翌週には見違えるようなピッチ資料に仕上げてきました。あの柔軟性は、ベテランとしては驚異的でしたね。
齊藤さん:その過程で活躍したのが、プログラム内で教わった「生成AI」の活用です。スライドの構成案やメンターからのフィードバックをそのまま社内AIツールに読み込ませ、「このプレゼンの弱点はどこか」「どうすれば説得力が増すか」を分析させたり、スライド用の画像を生成させたりしました。
社内だけでは得られない「外からの視点」を受け入れ、さらに新しいテクノロジーを実践の場で使い倒しながら学べたのは、非常にエキサイティングな体験でした。チーム内でも、メンバーがYouTubeで素敵なピッチプレゼンを見つけて共有してくれて、そこで得た学びをプレゼンに反映していく動きが生まれました。こうした刺激があったからこそ、これまでには考えもしなかったプレゼンに仕上がったと感じています。
「答えのない時代」を切り拓く次世代のリーダーたちへ
―― 約半年間にわたるプログラムを終えたいま、皆さんはどのような景色を見ていますか?新たな挑戦をしようとしている方々へメッセージをお願いします。
窪田さん:挑戦すれば、必ず挫折や自分の至らなさに気づく瞬間が来ます。私自身、優秀な仲間に囲まれて自分の価値を見失いかけた時期がありました。ですが、大切なのは「そこから自分がどうチームに貢献できるか」を這い蹲って考え抜くことです。自分が主役になることだけがリーダーシップではありません。客観的に状況を見つめ、自分の役割を変化させながらチームに良い影響を与える。それもまた、新しいリーダーシップの形なのだと学びました。
清水さん:答えのない社会課題に対してチームで向かっていく時、必ず大きな壁にぶつかります。言葉が通じない、意見が合わない。その時は、表面的な解決策で妥協せず、勇気を持って「自分たちのチームのミッション・ビジョン・バリュー」という根本に立ち返ってみてください。そして、客観的なフィードバックをくれるプロのコーチやメンターの存在は、自分一人では絶対に気づけない壁を突破する力になります。恐れずに、耳の痛い言葉を受け入れてみてください。
齊藤さん:一番の学びは、「どこにでも学べる種はある」ということです。全く違う領域の仲間と本気でぶつかり合うことや、今回のように外部の視点、あるいはAIツールなどの新しい武器を取り入れることで、自分の凝り固まった思考の枠組みを外すことができます。過去の成功体験に固執せず、一度新しいやり方に「素直に染まってみる」こと。それが、自己変革の第一歩になったと考えています。
渡部:このプログラムは、ただ事業案を作ることではなく、正解のない世界において、自分なりの考えを持って周囲をけん引していくリーダーを育てるプログラムです。皆さんが既存の枠組みにとらわれず、外部のフィードバックを素直に受け入れすぐさま行動に移す姿に、我々は強く心を打たれました。この力は、イノベーションに不可欠なものです。時には厳しい言葉を投げかけることもあったかと思いますが、それらを全て血肉に変えて駆け抜けた皆さまの熱量に、心から敬意を表します。
※本インタビューは、2026年3月時点のものです。
