2025.09.16
Sony Acceleration Platform 新規事業・事業開発の基礎知識

バウンダリースパナーとは?ソニーのオープンイノベーション支援サービス事例も紹介

「社内外の連携がうまくいかない」
「新規事業が停滞している」 
上記のような課題の突破口となるのがバウンダリースパナーの存在です。
バウンダリースパナーの存在は、変化の激しい時代においてイノベーションを生む原動力となります。

本記事では、バウンダリースパナーの意味や役割をわかりやすくまとめました。
ソニーグループの実践事例も紹介しており、理論と実践の両面から理解を深めることができます。ぜひご参考ください。

また、バウンダリースパナ―の活動を促進することを目的とした、ソニーが提供するマッチングサービス『Boundary Spanning Service(バウンダリースパニングサービス)』にご興味のある方は、以下より詳細をご覧いただけます。
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バウンダリースパナーとは

バウンダリースパナー(Boundary Spanner)とは、異なる組織や専門領域をつなぎ、協働を推進する橋渡し役の人材です。
英語の「Boundary(境界)」と「Span(越える)」を組み合わせた言葉で、直訳すると「境界を越える人(越境者)」となります。
特定の役職や部署の名前ではなく、異なる組織間の連携を生み出すスキルや姿勢を持った人を指します。

新規事業やオープンイノベーション活動では、組織間の壁や断絶が障害になりかねません。そこで活躍するのがバウンダリースパナーです。
たとえば、技術部門が持つ高度な専門知識を営業部門にわかりやすく伝えたり、外部パートナーのニーズを社内の開発チームにフィードバックしたりと、縦横無尽に動くことでプロジェクトを推進する存在です。 単なる情報の中継役ではなく、新しい発想や協働を引き出すきっかけを生み出してくれます。 

バウンダリースパナーが注目される3つの背景

新規事業やオープンイノベーションが加速する中で、バウンダリースパナーへの注目は日々強まっています。 

具体的には、以下のような理由から需要が高まっています。 

  • 組織のサイロ化によって情報の分断が進んでいる 
  • オープンイノベーション型ビジネスの拡大により外部連携が不可欠になっている 
  • 異質な知見をつなぐ「翻訳者」としての役割が重要になっている 

 それぞれを詳しく見ていきましょう。 

①組織の「サイロ化

サイロ化とは、部門が独立しすぎて情報や目標が閉じ込められ、横のつながりが断絶してしまう現象です。 
組織の成長とともに部門ごとの役割は明確になりますが、サイロ化が進みやすくなります。 

たとえば、開発部門が画期的な技術を生み出しても、営業部門がそれを知らなければ市場投入のタイミングを逃しかねません。
バウンダリースパナーは、サイロ化によって生まれる部門間の壁を越えて情報を流通させ、分断を乗り越える役割を果たします。 

②オープンイノベーション型ビジネスの拡大

オープンイノベーション型ビジネスが広がることにより、異なる組織間の連携を生みだすバウンダリースパナーの重要性は高まっています。

社内のリソースや知見だけでは限界があり、事業の競争力を高めるには、外部パートナーとの協働が欠かせませんが、文化や目的の違いから協業が滞ることも多いです。 
バウンダリースパナーが関わることで、企業同士の相互理解が進み、オープンイノベーションのスピードと質が大きく向上します。

新規事業担当者や事業開発リーダーにとって、自社にバウンダリースパナー的な人材をどう確保し活用するかがオープンイノベーション時代の大きなテーマとなっています。 

③異質な知見をつなぐ「翻訳者」としての役割の必要性

異なる業界や専門領域では、用語や文化がまったく異なるため誤解やすれ違いが生じやすく、翻訳者としての役割が必要です。
ここでいう翻訳者とは、単に言葉を言い換える人ではありません。
異なる立場の人々の意図や背景を理解し、それを相手に伝わる表現に置き換える役割を指します。

たとえば、製薬会社とIT企業が協働する場合、医薬の専門用語や規制の背景をIT企業側が理解できなければ正しい判断はできません。 
逆に、IT企業のスピード感や技術仕様を製薬側が理解できなければプロジェクトは停滞します。

バウンダリースパナーは双方の言葉を咀嚼し、共通理解に落とし込むことで協働を成立させます。単なる言語スキルではなく、相手の立場や文化への深い洞察を伴う役割です。

イノベーションの現場では、翻訳者として機能するバウンダリースパナーの存在が成功を左右します。 

バウンダリースパナーの役割と求められる3つのスキル

バウンダリースパナーは単なる調整役ではなく、組織内外の人や情報をつなぎ、新しい価値を生み出す推進役です。
部門間や社外との間にある溝を埋めることで、オープンイノベーションのプロジェクトを前に進める力を持っています。

バウンダリースパナーには特定のスキルが必要であり、これらを備えて初めて本来の価値を発揮できます。
とくに重要とされるのが、以下の3つのスキルです。 

  • 共通言語を構築する力
  • コンテキストを理解する力
  • 折衝力・調整力 

以上のスキルを高いレベルで備えた人材こそが、組織の境界を越えてオープンイノベーションを実現します。 
次の章で順に解説します。 

①「共通言語」の構築力

部門や業界が異なれば、使う言葉や前提は大きく異なります。違いを埋めるために必要なのが、共通言語を構築する力です。

たとえばエンジニアが「APIの仕様」と説明しても、エンジニアリングの専門知識を持たない営業担当には意味が伝わらないことがあります。 
バウンダリースパナーが間に入れば、両者の立場を理解したうえで共通言語へ変換できます。
単なる言い換えではなく、相手の背景や前提を汲み取った上でのわかりやすい言語化への調整が必要です。
共通言語を築く力は、信頼関係を深め協働を一気に前進させる土台となるのです。 

②発生した事象のコンテキストの理解力

発言や行動の表面だけでなく、その背景にある事情を理解する力もバウンダリースパナーには不可欠です。

たとえば、技術者が「この開発は難しい」と言った場合、純粋な技術的限界なのか、予算やリソースの制約によるものなのかで、取るべき対応は異なります。

物事の背景を正しく把握できれば、問題に応じた最適な解決策を選択することが可能です。 
文脈を理解し物事の本質的を見抜く力は、プロジェクトを正しい方向へと導く鍵となります。 

③折衝力・調整力

異なる立場にある人々を結びつけ、関係性を育てる力も欠かせません。  

たとえば、新規事業開発の現場では、現場社員のリアルな課題と経営層の意思決定の橋渡しをする必要があります。  
双方の視点を持ち合わせることで、戦略性と実行性を兼ね備えた事業推進が可能です。  

また、利害が対立する場面で求められるのが折衝力や調整力です。新規事業や社外パートナーとの協業では、摩擦を避けられません。
 バウンダリースパナーはその摩擦を調整し、双方が納得できる着地点を見つけます。社内外を問わずキーパーソンと接点を持ち、信頼を育てながら協働の場をつくり出せるバウンダリースパナーこそ、プロジェクトを推進する原動力となります。

重要なのは、短期的な妥協で片づけることではなく、各組織の文化や目的を理解したうえで、長期的にプラスとなる関係性を築くことです。
折衝力・調整力を発揮できる人材がいることで、連携は一時的な取り組みではなく、持続的な成果へと発展していきます。 

バウンダリースパナーを活用する3つのメリット

バウンダリースパナーを組織に取り入れると、単なる調整役を超えた大きなメリットが得られます。 
特に新規事業や協働プロジェクトにおいては、以下の3点が顕著な効果として現れます。

  • 革新的アイデアやオープンイノベーションの起点になる
  • 組織内外の連携促進・強化役として機能する
  • 意思決定のスピードと精度が高まる

これら3つの効果の積み重ねで、組織は従来の枠を超えた成長のチャンスを掴めます。 

①革新的アイデアやオープンイノベーションの起点になる

異なる業界や専門分野の知見を結びつけることで、新しい発想が生まれやすくなります。従来の枠内では見えなかった可能性が、異なる強みの組み合わせによって顕在化するためです。 

たとえば製造業とITの融合で誕生したスマートファクトリー(IoTやAIを活用して工場の生産性や柔軟性を高める仕組み)は、境界を越えた連携の代表例です。 従来の枠組みでは想像もできなかった事業が、異分野の知識の掛け合わせから生まれています。

バウンダリースパナーは連携を促し、会話の中から革新的な着想を引き出します。 
社外のパートナーと関わることで、自社だけでは気づけなかった市場ニーズや社会課題に気付ける点も大きな価値です。 
イノベーションを求める企業にとって、バウンダリースパナーは欠かせない存在だと言えます。 

②組織内外の連携促進・強化役として機能する

多くの企業では、優れた技術やアイデアがありながらも、既存事業との兼ね合いや縦割り組織の壁が障害となり、新規事業の創出に繋がらないという課題を抱えています。この膠着状態を打破する鍵として、バウンダリースパナーは、多様な関係者の調整役として組織内外の連携を促進・強化します。

例えば、清水建設株式会社の新規事業「Hydro Q-BiC Lite」の立ち上げを、ソニーの支援プログラムSony Acceleration Platformが支援したケースです。 
同社には優れた技術シーズはあったものの、それをスピーディーに事業化するための社内体制や専門ノウハウが課題となっていました。バウンダリースパナーとして介在したSony Acceleration Platformは、単なる外部アドバイザーにとどまらず、プロジェクトを「自分ゴト化」するほどの当事者意識で深く関与、清水建設の担当者と同じ熱量で課題に取り組む「伴走支援」を徹底しました。これにより、組織の内外という垣根を越えた一体感のある強力なチームが形成されました。

さらに、Sony Acceleration Platformは、ソニーが培ってきた豊富な事業開発ノウハウやプログラムを客観的な視点から提供。事業計画の策定からマーケティング戦略に至るまで、内部の論理だけでは至らなかったであろう視点をもたらし、プロジェクトの実現性を高めることができました。 

事例記事全文:清水建設株式会社「Hydro Q-BiC Lite」支援事例|伴走支援によって築き上げる血の通った新規事業 

バウンダリースパナーが介在することで、事情や背景を理解したうえで議論を整理できるため、協業へと発展しやすい環境を築くことができ、プロジェクトが停滞せずに前進するため、信頼関係の強化にもつながります。 
単なる調整ではなく、持続的な連携の基盤を築ける点がバウンダリースパナーの大きな価値です。 

③意思決定のスピードと精度が高まる

バウンダリースパナーが介在することで、経営の意思決定は速く、正確になります。現場と経営層の間で情報を集約・翻訳、判断に役立つ視点を提供できるためです。 

経営層が必要とするのは現場のリアルな情報ですが、情報が届くまでに時間がかかると意思決定は遅れます。
新規事業のようにタイミングが命となる領域では、この遅れが成功と失敗を分けると言っても過言ではありません。 

バウンダリースパナーは多角的な意見を整理し、迅速かつ正確な判断を支えます。情報の翻訳者としての存在が、経営の質そのものを引き上げるのです。 

バウンダリースパナーを育成・活用するためのポイント

バウンダリースパナーを有効に機能させるには、適切な人材を見出すだけでは不十分です。 
 組織として育成し、活用する仕組みを整える必要があります。 

特に以下の3点が重要です。 

  • 専門性と越境力の両方を評価する 
  • 評価制度や配置で仕組み化する 
  • 外部人材や副業制度を活用する 

 以上の取り組みを組織的に実践することで、バウンダリースパナーは一部の個人に依存せず、企業全体に根づく存在となります。 

専門性と越境力の両方を評価する

バウンダリースパナーには専門性だけでなく、領域を越えて関わる「越境力」が欠かせません。 
そのため、評価制度においては両者をバランスよく評価する仕組みが必要となります。
専門知識に優れるだけでは、自分の分野に閉じこもりがちになり、他部門や社外との橋渡し役を担えないからです。

たとえば、「社外パートナーとのオープンイノベーションを通じて新しいアイデアを社内に持ち帰った」といった活動は、通常のKPIには表れにくいものの、長期的には事業に大きなインパクトを与えます。こうした成果を可視化し、評価に組み込むことが重要です。

専門性と越境力の両方を正しく評価できれば、個人の挑戦が組織全体に広がり、持続的に価値を生み出すバウンダリースパナーが育っていきます。 

評価制度や配置での仕組み化が重要

バウンダリースパナー的な行動を任意に委ねるだけでは、組織全体に広がらないため、制度として支える仕組みが必要です。
制度に組み込まれなければ、活動は一部の個人の熱意に依存し、持続的に拡大することが難しいからです。

たとえば、以下のような仕組みが有効とされています。

  • ジョブローテーションで異なる部門を経験させる
  • 配置転換によって新しい文化や人材に触れさせる

制度として越境を組み込むことで、偶然ではなく必然的にバウンダリースパナーの育成が可能です。

外部人材や副業人材の活用も視野に

社内だけでバウンダリースパナーを育成するのは難しく、外部人材や副業人材の活用が効果的です。 
異なる業界に触れる経験が少ないため、視野が限定されてしまうからです。
外部人材や副業人材との協働を通じて、社内にはなかった発想や文化を取り入れられます。これにより新規事業に刺激が加わり、社内メンバーにも越境的な視点が芽生えます。
外部の知見を積極的に取り込むことで、自社のイノベーション力は大きく高まっていくでしょう。

次章では、外部ネットワークを仕組み化し、異業種連携を加速させているソニーグループの実践例を紹介します。 

ソニーのBoundary Spanning Serviceによるビジネスマッチング支援

ソニーグループは、バウンダリースパナーの活動を支援するために、ビジネスマッチングサービス『Boundary Spanning Service』を提供しています。 
異業種の企業同士が出会い、オープンイノベーションのきっかけを得られるビジネスマッチングサービスです。

登録企業は自社の技術や強み、他社への期待をプロフィールに記載し、発信できます。 
検索機能やメッセージ機能を活用すれば、条件に合う相手と出会い、実際の打ち合わせに進むことも可能です。 

ソニーが提供するビジネスマッチングサービス『Boundary Spanning Service』にご興味のある方は、以下より詳細をご覧いただけます。 
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Boundary Spanning Serviceは、社内に限らず、社外にまでネットワークを広げられる仕組みとして選ばれてきました。 

 次の章では、以下の企業様の事例をご紹介します。 

  • ミズノ株式会社様の事例 
  • 株式会社バンダイナムコテクニカ様の事例 

想定外のオープンイノベーションや新規事業の具現化を後押しする事例は、バウンダリースパナーの活動を加速させる当サービスの強みを端的に示しています。 

ミズノ株式会社様の事例:想定外のオープンイノベーションを生む場として活用

ミズノ株式会社は「スポーツで人を幸せにする」というビジョンのもと、スポーツテックを通じた新規事業に取り組んでいます。スタートアップとのオープンイノベーションや出資を推進する中で、Boundary Spanning Serviceをご利用いただきました。

同社では、従来のマッチングサービスにおいて「営業色の強い売り込みが多く、真のオープンイノベーションに結びつきにくい」という課題を感じていました。 
Boundary Spanning Serviceでは、プロフィールや公募内容を踏まえた具体的な提案が寄せられる点が評価され、「共感に基づいた出会い」が実現しています。

また、スポーツと一見無関係に思える業種からの声がけを受けられる点も、メリットとして挙げていただきました。 
結果として、想定外の業界との接点が新たなアイデアや事業の芽につながり、同社にとって新しいオープンイノベーションの可能性を広げています。

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株式会社バンダイナムコテクニカ様の事例:アイデアを形にするオープンイノベーションパートナーとの出会い

株式会社バンダイナムコテクニカは、アミューズメント機器のサービス事業に加え、新規事業創出にも力を入れています。 
同社が構想していたのは、観光とエンターテインメントを組み合わせた新しいWebサービスでした。

この構想を実現するためにBoundary Spanning Serviceをご利用いただいたところ、登録直後にシステム会社など複数の企業から声がかかり、短期間で具体的な打ち合わせに進展しました。

従来のネットワークでは出会えなかった企業と繋がれた点を高く評価いただいています。 
結果として、Boundary Spanning Serviceは「単なるマッチングの場」ではなく、構想を事業へと進化させる加速装置として機能しました。 
新規事業を着実に前進させる実践的なプラットフォームであることを実感いただいています。

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まとめ:バウンダリースパナーとの連携が、次の事業機会を拓く

バウンダリースパナーとは、社内外の垣根を越えて人や情報、技術をつなぎ、新たな価値を創出する役割です。 

ソニーの『Boundary Spanning Service』は、挑戦を後押しするビジネスマッチングプラットフォームとして、企業同士の出会いとオープンイノベーションの機会を広げています。 
すでに多様な業界の企業が参加し、新しい連携やオープンイノベーションが次々と生まれています。 
 「事業アイデアを形にしたい」「共感できるパートナーを見つけたい」と考える担当者にとって、Boundary Spanning Serviceは大きな一歩になるはずです。 

2026年3月までは完全無料で利用可能です。ぜひこの機会に、お気軽にご登録ください。 

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Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、910件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年8月末時点)

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