自社の事業開発や研修プログラムに、アイデアソンを活用する企業が増えています。
アイデアソンは、参加者同士が協力して新しいアイデアを創出し、具体的な解決策や製品・サービスのプロトタイプまで作り上げる共創イベントです。
この記事では、アイデアソンの基本的な定義やメリット・デメリットから、初心者でも安心して取り組める具体的な進め方のステップ、そしてアイデアソンを成功に導き成果を最大化するための秘訣。さらに、実際にアイデアソンで成果を上げた企業の成功事例もご紹介します。
アイデア創出の注目メソッド「アイデアソン」
「アイデアソン」とは?
アイデアソンとは、「アイデア(Idea)」と「マラソン(Marathon)」を組み合わせた造語で、特定のテーマについて多様なバックグラウンドを持つ参加者がチームを組み、制限時間内に集中的な議論や共同作業を通じて新しいアイデアを創出し、その成果を発表するイベント形式のプログラムです。単なる思いつきではなく、具体的な形にまとめ上げることまでを目指すのが特徴です。
アイデアソンが注目される背景
近年、市場の変化が速く、既存の事業モデルだけでは持続的な成長が難しくなっています。このような時代背景から、企業や組織においては、新しい価値を創造するためのイノベーションの重要性がますます高まっています。アイデアソンは、組織の垣根を越えた多様な知見や視点を集め、短期間で集中的に新しいアイデアを生み出す有効な手法として、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進や新規事業開発、社内課題解決、人材育成など、様々な目的で注目されています。
アイデアソンとハッカソンの違い
アイデアソンとよく比較されるものに「ハッカソン」があります。ハッカソンは「ハック(Hack)」と「マラソン(Marathon)」を組み合わせた言葉で、主にエンジニアやプログラマーが中心となり、実際に動作するプロトタイプやアプリケーションを開発することに主眼が置かれます。
一方、アイデアソンは、必ずしもIT技術やプログラミングを前提とせず、より広範な分野で新しいアイデアやビジネスモデル、解決策そのものを創出することに重点を置きます。成果物も、具体的な企画書やコンセプト、ビジネスプランなど多岐にわたります。
アイデアソンを行う3つの目的
優れたアイデアを創出する場であるアイデアソンですが、アイデアを出すだけにとどまらないさまざまな目的のもとで活用することができます。
事業開発・問題解決のアイデア創出
視点の異なる多様なアイデアを持ち寄ることで、発想の転換を促し、特定のテーマに対する有効性の高い解決策を見つけます。新規事業開発はもちろん、既存事業の改善策検討や、社会課題の解決などにも役立てられます。
異業種間の交流・コミュニケーション
アイデアソンの大きな特徴は、職種や専門分野を超えた多様な参加者によってグループが構成されることです。普段はあまり接点のない人とアイデアを交わすことで、深い交流や共創体験を生み出しやすくなります。
スキルアップトレーニング
決められた時間の中で多様な人と意見を交わし合い、一つの目的に向かって協業することで、ディスカッション力や論理的思考能力、主体性を養うことも可能です。そのことから、人材育成の一環としてアイデアソンのワークショップが行われることもあります。
アイデアソンを実施する主なメリット
アイデアソンには、企業や組織、そして参加者個人にとって多くのメリットがあります。
1.新規事業や革新的なアイデアの創出
多様な知識やスキルを持つ参加者が集まることで、既存の枠にとらわれない斬新なアイデアや、新しいビジネスモデルの種が生まれやすくなります。短期間で集中的に取り組むことで、効率的にアイデアを形にできます。
2.従業員のスキルアップとモチベーション向上
参加者は、問題解決能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力など、様々なスキルを実践的に学ぶ機会を得られます。また、自らのアイデアが形になる達成感や、チームでの共創体験は、モチベーション向上にも繋がります。
3.組織の活性化と企業文化の変革
部門や役職を超えた参加者同士の交流は、組織内の風通しを良くし、縦割り意識の解消やコミュニケーションの活性化に貢献します。イノベーションを奨励する企業文化の醸成にも繋がります。
4.既存課題への新しい解決策の発見
社内で長年解決できなかった課題や、見過ごされてきた問題に対して、外部の視点や新しいアプローチを取り入れることで、突破口が見つかることがあります。
5.外部との連携強化・オープンイノベーションの推進
社外の参加者を招くことで、企業や大学、地域社会との新たなネットワークを構築し、オープンイノベーションを推進するきっかけになります。
アイデアソン実施における注意点・デメリット
多くのメリットがある一方で、アイデアソンを成功させるためにはいくつかの注意点も理解しておく必要があります。
1.アイデアだけで終わってしまう可能性
イベントで良いアイデアが生まれても、その後の実行計画やフォローアップ体制が整っていなければ、具体的な成果に繋がらず「アイデア倒れ」になってしまうことがあります。
2.質の高いファシリテーションの必要性
参加者の多様な意見を引き出し、議論を円滑に進め、時間内に成果をまとめるためには、経験豊富なファシリテーターの存在が不可欠です。適切なファシリテーションがないと、議論が発散したまま終わることもあります。
3.参加者のモチベーション維持の難しさ
特に長時間のアイデアソンの場合、参加者の集中力やモチベーションを維持するための工夫が必要です。テーマ設定やチーム編成、プログラム構成などが重要になります。
4.準備と運営の負担
質の高いアイデアソンを実施するには、目的設定、テーマ選定、集客、会場手配(またはオンライン環境整備)、資料準備など、相応の準備期間と運営リソースが必要です。
5.成果の評価と活用方法の事前検討
生まれたアイデアをどのように評価し、その後の事業やサービスにどう活かしていくのかを事前に検討しておかないと、イベントの成果が曖昧になる可能性があります。
アイデアソンを実施するには

アイデアソンの運営体制
アイデアソンを効率的に行うには、企画・運営を行う事務局スタッフの他にも、アイデア創出のノウハウやメソッドを持つ人が参加することが望ましいです。
下記にご紹介するのは、一般的なアイデアソン運営体制の一例です。社内だけでは体制が組めない場合は、外部講師や支援サービスを利用する方法もあります。
運営事務局
アイデアソン全体の企画や参加者の管理、会場準備、当日の記録などを行います。企業で行う場合は、新規事業開発セクションの担当者や、人材開発担当者が企画・運営を担うことが多いようです。
司会・ファシリテーター
アイデアソンを進行し、全体の時間管理や話しやすい雰囲気づくりを担います。総合司会とは別に、グループごとのリーダーも決めておくと、議論をスムーズに進められます。
メンター・アクセラレーター
ファシリテーターと同様、アイデアを出しやすい流れをつくるとともに、発想方法や議論の進め方などを講師的な立場からアドバイスします。アイデア創出のノウハウやワークショップの講師経験を持つ人が適任です。
有識者・専門家
専門的なテーマを扱う場合、有識者や専門家がそのテーマや課題に関する正しい知識をインプットします。
当日までに必要な準備は
アイデアソンで重要なのはテーマ設定です。事前にテーマと開催する目的を明確化し、参加者にしっかりと伝えられるようにするのがよいです。当日の会場には、特別な機材や道具は必要ありません。規模に応じた広さや話しやすさを優先した会場選びがおすすめです。
テーマ設定
アイデアを出すテーマを明確化し、アイデアソンのゴールを設定します。
ゲスト選定・参加者の募集
必要に応じて、テーマに詳しい有識者や専門家などのゲストを選定して登壇を依頼します。テーマや概要が決まったら参加者を募集し、当日までにチーム分けをしておきます。
開催時間の設定
多くのアイデアソンが、2時間~3時間を目安に行われます。
会場準備・手配するもの
昨今はオンライン会議システムを使用して開催されるケースも多いですが、オフラインで開催する場合は、グループでディスカッションしやすいテーブルがある会場が望ましいです。グループごとにA4用紙や模造紙、ペンや付箋など、アイデアを書き留められる文具を用意します。発表用のプロジェクターがあると便利です。
いよいよ実施! アイデアソンの進め方
一般的なアイデアソンの手順
アイデアソンの一般的な流れは下記のとおりです。

①チーム分け
1チームが5~6名の少人数になるように設定します。交流に重きを置く場合は所属組織や部署の異なるメンバーで構成し、スキルアップを目指す場合はベテランと若手をミックスするなど、目的によってふさわしいメンバー構成は変わります。事前に参加者が確定している場合は、それぞれのスキルや専門性などに配慮してあらかじめチーム分けを考えておくとよいでしょう。
②テーマ説明
アイデアソンのテーマと目的を全員に説明します。
③問題定義
ざっくりとしたテーマを伝えるだけでは、全員が議論の方向性をイメージできない場合があります。テーマについての課題はどこにあるのかなど、解決すべき問題点を共有することでゴールに向けたアイデアを出しやすくなります。
④インプット
テーマに関する必要な知識や情報を、有識者や専門家からインプットします。課題に対して過去にどんな対策が取られてきたか、市場や当事者からはどういった声が上がっているかなど、テーマに対する最新の正しい認識を持つためです。メンバーの情報レベルを揃えることでイメージや認識のズレもなくなり、議論がスムーズになります。
⑤アイスブレイク
いきなりディスカッションを始めるのではなく、まずは自己紹介や雑談的な会話から始めて緊張を解きほぐします。簡単なクイズやゲームをして、思考の準備体操をするのもおすすめです。
⑥アイデア出し(ブレインストーミング)
アイデアを出し合う際のポイントは、口頭で済ませるのではなく「可視化」することです。まずは5分ほど自由に話し合い、そのあと10分ほど各自で自分のアイデアを書き出し、それが終わったらすべてのアイデアを全員で共有します。
⑦アイデアの絞り込み
出されたアイデアからブラッシュアップするものを決めていきます。それぞれがいいと思ったものにマークを付け、マークが多かったアイデアの中から内容が重複しているものを整理してアイデアを絞り込む「ハイライト法」などがよく用いられます。
⑧ブラッシュアップ
アイデアを絞り込んだら、グループで改善しながら発表用に仕上げていきます。パソコンで見やすいスライドを用意することは重要ではありませんので、模造紙に手書きするだけでも十分です。最初に発表する人を決めておくと、ブラッシュアップをしながら心の準備ができます。
⑨プレゼンテーション
各チームのアイデアを発表します。プレゼンするアイデアは、必ずしも一つに絞る必要はありません。
⑩審査
審査員が各グループへの講評を行い、その中から優れたアイデアを選出します。審査があると参加者のモチベーションになりますが、選出されたアイデアだけが優れているとは限りません。終了後、すべてのアイデアを全員が共有できるようにしておくと、その後のプロジェクトにそれらのアイデアが役立つこともあります。
アイデアソンを成功させるポイントは?

ポイント① 開催目的を明確に
何のために開催するのか、解決すべきことは何か、アイデアソンの目的をきっちりと定めます。目的がわかることで、参加者の意識やモチベーションも変わります。
ポイント② テーマ設定を曖昧にしない
アイデア出しを行う際、たくさんのアイデアが出れば良いものが見つかるだろうと思いがちですが、良いアイデアを引き出すには的確な「問い」が必要です。テーマが不明瞭で、解決すべき課題の本質を共有できていないと、アイデアを絞り込むための指針が持てず迷走してしまう場合もあります。
ポイント③ できるだけ多様な人を集める
普段は異なる分野や部署で活動するメンバーが集まって、多様な視点からアイデアを出し合うのがアイデアソンの醍醐味。企業内で行う場合もできるだけ社外からの参加者を招いたり、部署を超えて参加者を募ったりすると、アイデアにも幅が生まれやすくなります。
ポイント④ アウトプットのイメージを揃えておく
グループによってアイデアの精度や発表方法にばらつきがあると、審査のしづらさにもつながります。最終的にブラッシュアップするアイデアの具体性レベルや、盛り込むべき条件、発表方法をあらかじめ設定しておくとよいです。
ポイント⑤ 出されたアイデアを否定しない
相手の意見に対し反対意見を唱えることで討論を展開するディベートとは違い、アイデアソンの基本は「ディスカッション(議論)」です。自分の意見が否定されると、アイデアを積極的に出しづらくなり、活発な議論に発展しない可能性が高くなります。
ポイント⑥ アイデアソンの“次”を考えておく
アイデアソンを行ったものの、一過性のイベントで終わってしまうケースがしばしばみられます。せっかく出したアイデアを事業や次のステップで活かしていけるようハッカソンにつなげたり、交流を目的に定期的に開催したり、実施後の展開も含めてアイデアソンを企画するのがおすすめです。
ポイント⑦ 参加規約・権利の取り扱いは慎重に
所属や立場の違う人たちが集まってアイデアを出し合うので、アイデアを誰のものとするかといった権利の取り扱いを定めておくことは、後々のトラブルを防ぐためにも非常に大切です。
ポイント⑧ 企画やファシリテートにはプロの力も借りて
アイデアソンのテーマ設定やファシリテートには、アイデア創発やブラッシュアップのスキルやノウハウが必要です。特に新規事業創出に向けたアイデアソンの場合は、いかに現実的な事業化に結び付けていけるかといったビジネスの視点が欠かせません。実際にイノベーションや新規事業開発の経験があるメンターやプロのアクセラレーターをアサインしたり、支援プログラムを利用したりすることで、より有意義なアイデアソンを行うことが可能です。