2022.08.29
Sony Acceleration Platform 新規事業の基礎知識

インキュベーションプログラムとは?ソニーの活用事例もあわせて紹介

新規事業開発や起業における不安や疑問に対してさまざまなノウハウを提供し、事業化へと導くインキュベーション。誰が、どのようなプログラムを提供しているのでしょうか? ソニーグループが展開しているスタートアップの創出と事業運営を支援する「Sony Acceleration Platform」のインキュベーションプログラムを例に、具体的な支援内容をご紹介します。

こちらの記事で、インキュベーションについて詳しく紹介しています。>>起業の強い味方!インキュベーションの活用メリットとは?

インキュベーションプログラムとは?

「インキュベーション」とは、新規事業の創出と成長を目的とした支援活動全般を指す言葉です。資金面のサポートを行う投資家の出資とは異なり、新規事業創出に関するさまざまなノウハウの提供や人材支援、ラボや工場といった技術面の設備支援など、幅広い支援が含まれます。
インキュベーション支援を受けるには、ベンチャーキャピタルや企業、国、自治体、大学などのインキュベーター(=インキュベーションの提供者)が用意するプログラムを活用するのが一般的です。こうしたものを総称して「インキュベーションプログラム」と呼びます。

 

インキュベーションプログラムのメリット

資金調達の機会を多角的に得られる

プログラム自体がシードマネーや助成金を提供する場合や、プログラム運営母体がファンドを保有し、有望な参加者に出資を行うケースがあります。
プログラムの最終段階で開催される「デモデイ」やピッチイベントは、多くの投資家(エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルなど)に向けて事業を発表し、直接的な資金調達に繋げる絶好の機会となります。
投資家との個別面談の機会が設けられたり、資金調達に関する専門的なアドバイスや資料作成サポートを受けられたりすることも大きなメリットです。

各分野の専門家から実践的なメンタリングを受けられる

経験豊富な起業家、特定の業界や技術に精通した専門家、弁護士や会計士といった士業専門家など、多様なメンター陣から継続的な指導を受けられます。
事業計画の策定・改善、マーケティング戦略、製品開発、組織構築、財務戦略、知財戦略など、事業運営に関わるあらゆる側面について、具体的なアドバイスやフィードバックを得ることで、事業の方向性を修正し、成長を加速させることができます。
メンターとの相性も重要ですので、事前にどのようなメンターが在籍しているか確認することも大切です。

事業成長に不可欠な質の高いネットワークを効率的に構築できる

プログラムに参加する他の起業家仲間との出会いは、情報交換、精神的な支え、将来的な協業の可能性など、大きな財産となります。
投資家、メンター、事業提携候補となる企業、メディア関係者など、個人ではアプローチが難しいキーパーソンとのコネクションを、プログラムを通じて効率的に構築できます。
業界イベントや交流会への参加機会も提供されることが多く、人脈形成の幅を広げることができます。

 

インキュベーションプログラムのデメリット

時間的・精神的なコミットメントが求められる

多くのプログラムでは、定期的なセミナー、ワークショップ、メンタリングセッション、進捗報告会などへの参加が義務付けられており、これらに多くの時間を割く必要があります。本業との両立が難しい場合もあるため、事前にプログラムのスケジュールやコミットメントの度合いを詳細に確認し、チーム内でリソース配分を検討することが不可欠です。
成果を出すためのプレッシャーも伴うため、精神的なタフさも求められます。

株式の一部提供やその他の条件が発生する場合がある

特に資金提供を伴う民間企業のプログラムでは、支援の対価として、数%から時には10%以上の株式(エクイティ)の提供を求められることがあります。これは将来の大きなリターンを期待しての投資であるため、提供する株式の比率、評価額(バリュエーション)、付帯する権利関係(例:議決権、情報開示義務など)については、契約前に専門家(弁護士や会計士など)に相談し、十分に理解・検討することが極めて重要です。
プログラムによっては、参加費や成功報酬が発生する場合もあるため、金銭的な条件全体を把握しておく必要があります。

プログラムとのミスマッチが事業停滞を招く可能性も

提供される支援内容が自社の事業フェーズや真のニーズと合致していなかったり、メンターの専門性やアドバイスの方向性が期待と異なったりする場合があります。また、プログラムの運営方針や他の参加者とのカルチャーが合わないと、モチベーションの低下や時間の浪費に繋がることもあります。
ミスマッチを防ぐためには、応募前の徹底的な情報収集(説明会への参加、過去の参加者の声の確認、運営者への直接質問など)が不可欠です。選考過程でプログラムの雰囲気を感じ取ることも重要です。
 

インキュベーションプログラムの選び方

インキュベーションプログラムは、企業がビジネスサービスとして展開している場合や、行政や大学が助成金付きのプログラムを公募している場合など、さまざまな種類があります。インキュベーターの専門領域や得意分野によって支援内容も異なるので、目指す事業に合ったプログラムを選ぶことが大切です。

  • 民間企業・団体のインキュベーションプログラム
    それぞれの得意分野や専門領域に特化した支援を行っています。企業がインキュベーション事業部を持ち、ビジネスサービスとして展開しているケースもあります。
     
  • 大学のインキュベーションプログラム
    大学によるインキュベーションは、大学の研究をビジネスに結び付けることを前提としています。学内ベンチャーとして、助成金付きのプログラムを公募している場合が大多数を占めます。
     
  • 行政や中小企業支援機構のインキュベーションプログラム
    地域の特性に合った事業の支援を行います。地域産業の活性化につながる新規事業創出を支援するほか、地元企業との協業イベントなどを展開している場合もあります。

事業フェーズと必要なサポートから選ぶ

やみくもにプログラムを探し始める前に、まずは自社の現状とニーズを深く理解することが、最適なプログラム選びの第一歩です。以下の点を明確にすることで、プログラムに求めるものが具体化し、ミスマッチを防ぐことができます。

事業のフェーズ

アイデア構想段階なのか既にプロトタイプがあり、初期ユーザーのフィードバックを得ている段階なのか。
あるいは、既に製品・サービスをリリースし、本格的な市場拡大を目指すシード期・アーリー期でしょうか?
事業フェーズによって、必要とされる支援内容は大きく異なります。

抱えている課題とプログラムに期待すること

資金調達が最大の課題なのか、それとも専門的なメンタリングによる事業計画のブラッシュアップか。
あるいは、特定の業界へのネットワーク構築、技術的な課題解決、オフィススペースの確保など、具体的にどのようなサポートを最も必要としているのかをリストアップしてみましょう。

事業の目標と期間設定

プログラム参加を通じて、短期・中期的にどのような目標を達成したいのか(例:半年以内に資金調達を完了する、1年以内に〇〇人の顧客を獲得するなど)を具体的に設定しましょう。これにより、プログラムの期間や内容が目標達成に適しているか判断しやすくなります。

提供できるリソースとコミットメント

プログラムにどの程度の時間や人的リソースを割けるのか、また、株式譲渡などの条件を受け入れられるのか、自社の状況を整理しておきましょう。

これらの自己分析を通じて、プログラムに求める条件の優先順位が明確になり、より効率的に情報収集や比較検討を進めることができます。

_

 

ソニーグループのインキュベーションプログラムとは?

ソニーグループが展開しているスタートアップの創出と事業運営を支援する「Sony Acceleration Platform」では、新規事業の立ち上げを目指す企業などを対象に、多彩なインキュベーションサービスを展開しています。新規事業創出の経験を持つSony Acceleration Platformのアクセラレーターが伴走し、必要なノウハウと環境をタイムリーに提供。事業化や事業運営に関する課題を可視化し、その解決に必要な支援プログラムを提供することで、新規事業の立ち上げから販売・拡大までをサポートします。
Sony Acceleration Platformのインキュベーション支援プログラムは、大きく以下の3テーマに分かれます。

【支援①】事業化判断のための支援

ビジネスモデルの確からしさを検証し、事業化・投資判断ができる状態まで支援するプログラムです。

<プログラム例>

  • PoC(※)実行
    事業アイデアの実現性や収益性を検証するため、商品やサービスの紹介資料やプロトタイプを作成し、想定顧客やビジネスパートナーに対してヒアリングを実施。顧客ニーズを満たしているか、いくらなら買うかなど、事業として成立するかを確認します。>>詳しくはこちら
    ※ PoC:実際の商品・サービスに近い形のプロトタイプを用いて、実現性とニーズの双方を検証すること
     
  • 事業計画策定
    あらゆるステークホルダーの共感を呼び起こすストーリー作りのノウハウをお伝えします。客観的なエビデンスを備えた収益計画や活動計画に、説得力のあるストーリーを織り交ぜ、ステークホルダーに響く事業計画の策定をサポートします。>>詳しくはこちら
     
  • PM育成
    新規事業の経験が十分でないPM(プロジェクトマネージャー)を“付きっきり”でサポートします。ToDoの整理・見直しから、スケジュールの可視化、プロジェクト全体の工程管理、分析などの実行支援まで一貫しサポート。短期間で成果を可視化します。>>詳しくはこちら

【支援②】事業立ち上げのための支援

事業開始までに必要なリソースやプロセスを可視化し、最短で事業開始の準備を支援するプログラムです。

<プログラム例>

  • 量産立ち上げ
    ソニーの外注先をはじめとする、信頼できるODM(設計・製造の委託先)をご紹介します。商品ごとに行うべき量産試作計画(生産ばらつきの確認)や、生産工程や評価の内容、確認事項をアドバイスします。>>詳しくはこちら

【支援③】事業運営のための支援

事業開始後におけるさまざまな事業運営の課題解決や、事業拡大に向けたノウハウ、販促支援などを提供するプログラムです。

<プログラム例>

  • 品質支援
    新規事業の立ち上げから社会実装までの各工程において、適切なタイミングで必要な項目について品質確認イベントを実施。法令、コンプライアンス、セキュリティーなど配慮すべき品質項目を洗い出し、それぞれの品質基準を策定します。>>詳しくはこちら
     
  • 経営管理/オペレーション
    管理業務全般において必要とされる機能を洗い出し、具体的に何を行うべきかをご提案します。大企業の中で多数の新規事業立ち上げ支援を行ってきたため、各関連部門からの要望対応や社内連携方法など、大企業ならではの事情を熟知したうえでサービス提供が可能です。>>詳しくはこちら
     
  • 販売マーケティング
    事業化経験のあるマーケターとデザイナーが、お客様の企業ブランドやフィロソフィーを踏まえたうえで、効果的な戦略立案やプロモーションアイテム制作を支援します。>>詳しくはこちら

 

お悩み別おすすめのSony Acceleration Platformインキュベーションプログラム         

どのプログラムを活用したらよいかわからない場合は、いま抱えているお悩みから考えてみることをおすすめします。よくあるお悩みと、それに対応するインキュベーションプログラムの例をご紹介します。

【お悩み①】「事業アイデアはあるが、事業性の判断ができない」

事業性を判断するための検証結果が欲しいけれど、検証を進めるリソースとノウハウが不足している。そんな場合は、「PoC実行」をご活用ください。市場性や競合分析および想定顧客とのPoCを実施し、客観的に投資判断ができる事業性検証レポートを提示します。

【お悩み②】「初めての新規事業開発、何から始めてよいかわからない」

経験不足でプロジェクトを進めるノウハウや自信がない場合は、「PM(プロジェクトマネージャー)育成」がおすすめです。Sony Acceleration Platformのアクセラレーターが貴社のPMの補佐役となり、プロジェクトの進捗、課題の可視化、関係者へのレポーティングなどを支援。プロジェクトを加速させるとともに、プロジェクトマネジメント人材を育成します。

【お悩み③】「どのレベルの品質を目指すべきかわからない」

新しい商品やサービスで担保すべき品質項目がわからない場合は、「品質支援」をおすすめします。品質項目ごとの進行管理、レビュー、課題抽出など、新しい商品・サービスを展開するにあたって配慮すべきポイントをコンサルティングします。

【お悩み④】「新規ビジネスがスタートしたので、早く事業を安定化させたい」

事業が実際にビジネスとして動き出す際には、「経営管理/オペレーション」をご活用ください。必要となる管理業務のフロー及びフォーマットを策定・体系化し、各事業にあわせた管理業務のサポートおよびプロセスレビューを実行。管理業務全般を包括的に支援します。

 

Sony Acceleration Platformの支援事例をご紹介

Sony Acceleration Platformで3か月以上のインキュベーションプログラムを利用した方は、これまでに360名以上。120件以上の事業化検証実績があり、その中から実際の事業化に結び付いた事例も数多くあります(2022年7月末時点)。今回はその中から、2つの事例をご紹介します。

【京セラ株式会社(以下京セラ)】音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi」のオープンイノベーションを支援

ある京セラ社員の「子どもの仕上げ磨きをラクにしたい!」という思いから生まれた「Possi」は、歯磨きをしながら骨伝導で音楽を楽しむことができる子ども用歯ブラシです。本体を京セラが、歯ブラシ部分をライオン株式会社(以下ライオン)が手掛け、Sony Acceleration Platformは事業化検証や販売マーケティング戦略の立案を支援しました。

  • ポイント1:京セラ社員がソニーのインキュベーションスペースに入居
    プロジェクト開始とともに、京セラのメンバーがソニー本社内のインキュベーション専用スペースに入居。Sony Acceleration Platformのアクセラレーターと、何か問題があればすぐに話し合って解決するなど密なコミュニケーションが可能に。その結果、9か月という短い期間での開発実現につながりました。
     
  • ポイント2:ネットワークを活かしてPR戦略をサポート
    顧客調査をベースに、商品の価格や販売コンセプトなどのマーケティングもSony Acceleration Platformが支援。京セラ、ライオンの既存ネットワークを活かした展示・販売イベントの実施をサポートしたほか、ソニー社内のネットワークから著名ブロガーへ執筆を依頼したり、SNS広告に出稿したりと、幅広いマーケティングを展開しました。より詳しいプロジェクト事例紹介は以下をご覧ください。
【連載】「ソニー・京セラ・ライオン」大企業の三社共創、9か月でアイデアが形に
【連載】「ソニー・京セラ・ライオン」大企業の三社共創、9か月でアイデアが形に

【株式会社LIXIL(以下LIXIL)】猫ちゃん目線にこだわったBtoCコミュニケーションを支援

「猫壁(にゃんぺき)」は、猫ちゃんの個性に合わせてユーザーが自由にレイアウトを変更できるキャットウォールです。Sony Acceleration Platformでは、「猫壁」の一般販売に向けて、マーケティング施策の整理やコンセプトムービー・公式Webサイトなどのクリエイティブ制作を支援しました。

  • ポイント1:飼い主のニーズを徹底調査
    ペルソナ設定やカスタマージャーニーの整理をサポートし、飼い主の方にとっては「自分自身の便利さや手軽さ」よりも「猫ちゃんの心地よさ」の方が共感を生みやすいことを発見。「猫ちゃん目線」を軸にコミュニケーション設計を進めました。
     
  • ポイント2:BtoC向けのコミュニケーションをサポート
    普段BtoBサービスの発信がメインのLIXILにとって、BtoCのWebサイト構築は比較的新たな取り組み。コンセプトムービーやWebサイトの制作をSony Acceleration Platformでディレクションし、エンドユーザーである飼い主の方に届きやすいクリエイティブを目指しました。より詳しいプロジェクト事例紹介は以下をご覧ください。
#02 コミュニケーションデザインで“猫ちゃん目線”にこだわったワケ
コミュニケーションデザインで“猫ちゃん目線”にこだわったワケ

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、900件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年7月末時点)

バックナンバー

Sony Acceleration Platform 新規事業の基礎知識

ランキング