2021.09.30
Sony Acceleration Platform 新規事業・事業開発の基礎知識

プロトタイピングとは?新規事業開発を加速させるためのプロセスとその活用方法を紹介

「プロトタイピング」という言葉はご存知でも、「新規事業のアイデアをどう具体化すれば良いのだろう?」「DX推進プロジェクトで、どうすれば手戻りを減らし、開発効率を上げられるだろう?」といった課題をお持ちではないでしょうか。

変化の速い現代のビジネスにおいて、アイデアを迅速に検証し、ユーザーの真のニーズを捉えるプロトタイピングは、プロジェクト成功の鍵を握る極めて重要な手法です。適切なプロトタイピングは、開発リスクを低減し、コストを最適化しながら、最終的な製品やサービスの価値を最大化します。

この記事では、プロトタイピングの基本的な定義や目的はもちろんのこと、具体的なメリット・デメリット(次章で詳述)、種類ごとの特徴と選び方、そして実践的な進め方のステップ、さらには成功のための注意点まで、初心者の方にも体系的にご理解いただけるよう、網羅的にわかりやすく解説します。この記事を読めば、あなたのプロジェクトでプロトタイピングを効果的に活用するための知識と道筋が見えるはずです。
 

プロトタイピングとは

プロトタイピング(prototyping)とは、実際の製品・サービス開発を始める前に、簡単な機能やデザインのみを実装したプロトタイプ(試作品)を作り、デザインや使い心地、工程などを検証することを指します。その都度フィードバックをもらい、知見を得ながら、軌道修正を行う開発プロセスとして、建築、インダストリアルデザイン、ソフトウェアデザインなど、幅広い分野で実践されています。モノづくりだけではなく、新たなサービスを作り上げる際にも有効とされています。また近年、ビジネス上の課題を解決する手法として広まっているデザイン思考のプロセスの中でも「プロトタイピング」というワードが認知されるようになり、ビジネスに取り入れられることも増えているようです。このように用いられる分野が多岐にわたるため、プロトタイピングには多くのアプローチやツールがあります。

 

プロトタイピングの目的とメリット

プロトタイプを作る目的は、早い段階で製品・サービスの改善点や問題点を見つけ出し、よりよい製品につなげるためです。また新しいアイデアに対しては、プロトタイプを作成し、実物のイメージを見える形にすることで、実現性を高められます。プロトタイピングを行わずに量産した場合、開発時に気づかなかった問題が市場に出てから露呈し、顧客の満足度を下げてしまう可能性もあります。このため開発においてプロトタイピングは重要なプロセスといえます。次にプロトタイピングを行うメリットを挙げます。

完成後の手戻りが防げる

完成物に対してイメージを持ちやすくなり、顧客(ユーザー)が望む製品とのズレや不具合に気づきやすく、完成してからの手戻りを防ぐことができます。ユーザーテストによって仮説が正しいのかを検証し、不具合や浮かび上がった新しい課題の解決策を次のプロトタイプに反映し、徐々に顧客ニーズに近づけた製品にブラッシュアップしていきます。

チームメンバー間の認識のズレを防げる

さらに開発チームメンバー間での認識のズレも防ぐことが期待できます。要件定義書だけでは、最終形のイメージに齟齬が生じているかもしれません。プロトタイプを作ることで、デザイナーやエンジニアが課題を共有したり、互いに合意を取ったりしながら開発を進められます。このようにメンバーが一体感を持って開発を進められることもメリットの一つといえます。

コスト(時間と費用)削減につながる

開発工程が進むにつれ、方向性を変えることが困難になりえます。プロトタイピングによって、開発の後工程で変更の発生を減らすことができ、効率的な開発が行えます。時間と費用の低減につながることもあります。

仕様の最適化が図れる

プロトタイプのユーザーテストでは、評価の優劣が分かれたり、評価されない機能が出たりすることもあります。最初に仮説の優先順位をつけ、何がソリューションの核となるかを決めておくと、評価の判断がしやすくなり、仕様の最適化が図れます。ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上にもつながります。

新規事業におけるプロトタイピングの役割については、こちらの記事をご覧ください>>#34新規事業開発に必須のスキル、プロトタイピングの進め方

 

プロトタイピングのデメリットと、それを軽減するポイント

多くのメリットをもたらすプロトタイピングですが、その効果を最大限に引き出すためには、いくつかの潜在的なデメリットと、それらを軽減するためのポイントを事前に理解しておくことが大切です。

作成に時間とコストがかかる場合がある

プロトタイプ、特に視覚的な完成度を高めたり、実際の機能に近いインタラクションを盛り込んだりするハイフィデリティなものを作成する場合、その設計や実装には相応の時間とコスト(人件費、場合によってはツール費用など)が必要となることがあります。

これらの負担を軽減するには、プロジェクトのフェーズや検証したい目的に応じて、プロトタイプの忠実度(フィデリティ)を適切に選択することが重要です。例えば、アイデアの初期検証段階では、手軽に作成できるペーパープロトタイプやシンプルなワイヤーフレームから始めることで、時間とコストを抑えられます。
全ての機能を盛り込むのではなく、検証したいコアな部分に絞ってプロトタイプを作成することで、効率的に進めることができます。

プロトタイプが最終製品であると誤解されるリスクがある

特に見た目が洗練されていたり、実際の製品に近い操作感を持つプロトタイプの場合、開発チーム外の関係者やテストに参加したユーザーが「これがほぼ完成品だ」「すぐにこのままの形でリリースされる」と誤解してしまう可能性があります。これにより、過度な期待を抱かせたり、まだ検討段階の仕様が確定事項として捉えられたりするリスクが生じます。

プロトタイプを提示する際には、必ずその目的(何を検証するために作成したのか)、現在の開発フェーズにおける位置づけ(あくまで試作品であること)、そしてこれが最終製品ではないことを明確に伝え、関係者間で共通認識を持つことが不可欠です。
必要に応じて、プロトタイプの画面内に「開発中のサンプルです」「最終デザインではありません」といった注釈を入れることも有効です。

フィードバックの収集と分析にスキルや工数が必要

プロトタイプを通じてユーザーから質の高い、本質的なフィードバックを得るためには、適切な質問の設計、テスト環境の準備、そして参加者が本音を話しやすいようなコミュニケーションスキルが求められます。また、収集した多種多様なフィードバックを客観的に分析し、製品改善に繋がる具体的なアクションへと落とし込む作業も、専門的なスキルや一定の工数を要する場合があります。

フィードバック収集の目的(何を知りたいのか)を事前に明確にし、検証したい仮説に基づいて質問項目を絞り込みましょう。
ユーザーテストの経験が浅い場合は、まずは少人数からテストを開始したり、経験者の協力を仰いだりすることも検討しましょう。
収集したフィードバックは全てをそのまま受け入れるのではなく、プロジェクトの目的や制約条件に照らし合わせ、優先順位をつけて取捨選択する視点が重要です。

スコープ(範囲)の管理が難しい場合がある

プロトタイピングを進める中で、新たなアイデアが生まれたり、改善すべき点が多く見つかったりすることは、それ自体は非常に有益なことです。しかし、それら全てに対応しようとすると、当初の目的から逸れてしまい、プロトタイプのスコープが際限なく拡大し、結果として時間やコストが想定以上に膨らんでしまう可能性があります。

プロトタイピングを開始する前に、そのプロトタイプで「何を検証するのか」「どこまで作り込むのか」というスコープを明確に定義しておくことが重要です。
プロジェクトの進行に合わせて、定期的にスコープを見直し、本当に必要な機能や検証項目に絞り込む勇気も必要となります。

これらのデメリットと軽減策を念頭に置くことで、プロトタイピングをより戦略的かつ効果的に活用し、プロジェクトを成功に導く可能性を高めることができます。
 

プロトタイピングの注意点

プロトタイピングには数々のメリットがありますが、注意すべき点もあります。

目的を曖昧にしたままプロトタイピングを進める

たとえば良いアイデアを思いつき、プロトタイプも上手く作れたのでユーザーテストや検証に十分な時間を割かず製品化する、というような場合、何のためにプロトタイピングをするのか目的が曖昧なため、短期間で製品化できても結果的に失敗のリスクが増すかもしれません。プロトタイピングは目的を持ち、それによって何を解決したいのか、仮説と検証を繰り返すことで、効率的な製品開発を実現できます。

ユーザーの様々な要求を聞いてしまう

プロトタイプのテストでは、ユーザーから様々な意見が得られます。これらを取り入れながら次のプロトタイプをブラッシュアップさせますが、すべての意見が重要なわけではありません。多くの意見の中で本質的な要求はどれか、反映すべき要求の抽出は、目的と合致しているかを見極めながら行うことが重要とされています。

プロトタイプに時間をかけすぎる

プロトタイピングは1度やって終わり、というものではありませんが、検証を繰り返して時間をかければかけるほど、コストの増大につながります。プロトタイプ制作において生じやすい問題の一つに費用(予算)があるといわれますが、プロトタイプは早く、費用を抑えて作ることも重要なポイントとなります。

 

プロトタイピングを中心とした開発プロセス

プロトタイピングのプロセスは、それぞれのプロトタイプの目的や目標、仮説などによって異なってきます。ある仮説をユーザーテストで検証するには、テストしたい仮説を決めてプロトタイプの範囲を設定します。
たとえば、ごく初期段階なら、頭の中にあるアイデアを見える形にすればよいという点で、スケッチやペーパープロトタイプのようなシンプルなもので表現することもできます。また、プロトタイプで特定の機能を伝えたいという場合は、その機能が誰にとってメリットがあるのか、ターゲットを見極めることも必要です。
プロトタイピングで重要な点は、スピード感を持って可視化することです。ポイントは最初から完璧なものを求めようとせず、プロトタイプのユーザーテストで何が価値ある機能やサービスなのかを確認し、デザインやUXを改善し続けることです。そして言語化されていないユーザーのニーズもつかみながら、その先を見通したアイデアを創出できれば理想的といえます。
プロトタイピングをスムーズに行ううえで、アイデアを早期に形にできる環境を持つことも重要な点です。適切な環境があれば、ブラッシュアップしながら完成させるといった一連の流れを滞りなく進められます。Sony Acceleration Platformなら、アイデアを具体化する時間とコストを大幅に短縮する、独自の開発プラットフォームをご提供できます。

Sony Acceleration Platformの事例より:Possi開発におけるプロトタイピング「プロトタイピングでアイデアを形に」

Possi概要

「Possi」は、デザイン・音楽・テクノロジーを融合させた、音が出る子どもの仕上げ磨き用歯ブラシです。Sony Acceleration Platformの新規事業開発支援により、京セラ株式会社、ライオン株式会社の共創で開発されました。「仕上げ磨きを嫌がる子どもに、楽しませながら歯磨きできないか」との思いが開発のきっかけでした。プロトタイピング支援では、口に入れて使い心地をテストしてもらうという、難しい条件があるなかでプロトタイプを制作し、「歯ブラシから音楽が流れる」機能と、仕上げ磨き用としての歯ブラシ部分のデザイン、二つの側面からプロトタイピングを行い、約1年で事業化の道筋をつけました。

>>事例について詳しくはこちら

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、910件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年8月末時点)

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