2025.06.26
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【竹中工務店編 #1】竹中工務店の企業風土が育む新規事業と未来への展望

Sony Acceleration Platformによるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、Sony Acceleration Platformの担当者が大企業内の新規事業組織のトップやエースにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)の常務執行役員で新規事業をされている石崎亮司さんです。新規事業組織のトップである石崎さんに竹中工務店の新規事業についてお伺いしました。 

 

石崎 亮司さん

株式会社竹中工務店 常務執行役員

 

はじめに

――石崎さんのこれまでの竹中工務店でのキャリアについてお聞かせください。 

1986年に竹中工務店へ入社し、以来、主に財務経理部門に携わってまいりました。特に財務諸表の取りまとめをはじめ、約30年にわたり財務の領域で経験を積んでおります。 
将来の成長領域に本格的に取り組むにあたり、新規事業では経営全体を把握し、財務的視点からリスクと投資のバランスを見極められる人材が必要とされました。その背景から、財務畑で長く経験を積んできた私が、その役割を担うことになりました。 

――財務の視点がどのように新規事業に活かされているのでしょうか。

当社はこれまで建築請負工事を専業とし、その領域でお客様の信頼に誠実に応え続けることで確かな基盤を築いてきました。 その上で新たな領域にチャレンジするには慎重な判断が求められます。財務の視点では、投資の妥当性や事業の継続性を見極めることが重要であり、私はリスクとリターンのバランスを冷静に見ながら、意思決定を支えています。 

 

企業風土が育む新規事業の背景と仕組み

――竹中工務店では、新規事業をどのように捉えられていますか。

単なる事業拡大にとどまらず、将来に向けた“新たな価値創造”への挑戦と位置づけています。背景は大きく三つあります。 
第一に経営戦略上の必然です。当社では10年ほど前に厳しい経営状況を経験したことを踏まえ、建設単体ではなく“まちづくり”や“データ活用”といった新たな視点を取り入れる必然性がありました。 
第二に社会課題解決への貢献です。環境問題や人口減少など、建設請負だけでは対応しきれない課題に対して、ゼネコンとしての技術や知見を建設以外の分野にも応用すれば、社会に対してより実質的な貢献が可能になると考えています。 
第三に、社員の新たな価値創造への挑戦意欲です。職種やキャリアに関わらず、現場から日々上がる新たなアイデアが新規事業の種になります。それをどう形にするかが、新規事業に携わる私たちの大きな役割です。 

――新規事業をどのような体制で推進されていますか。

私が委員長を務める「新規事業検討委員会」と、経営企画室の新規事業推進グループを軸に、各部門がタスクフォース的に連携し、外部協業も含めて取り組んでいます。担当役員になってまだ3年ほどですが、財務の視点でリスクを確認しつつ、現場と対話しながら事業化の可能性を模索しています。

――アイデアはどのように事業化されるのでしょうか。

当社には建設という大きな事業基盤があるため、まずはその中でアイデアを試せる強みがあります。設計や施工といった本業のプロセスに自然に接続できれば、形になるまでのスピードも速くなります。本業と親和性の高いレガシー活用などは、事業化への足がかりにもなりやすいと感じています。 
全く異なる分野に飛び込むのではなく、まずは本業に近い領域から一つひとつ形にするのが当社の基本スタンスです。その一例がオフグリッド型モビリティ、いわゆる自立型モバイルハウスです。大規模現場では、作業員が現場の端から事務所に戻るだけで10分以上かかることがあり、その移動負担が業務に影響していました。 
そこで社員が「現場内でそのまま作業できる環境をつくれないか」と考え、移動可能なプレハブ型モバイルハウスを開発。ソーラーパネルや蓄電池、クーラーやWi-Fiを備え、その場で快適に業務を行える仕様にしました。結果として、現場の効率化に大きく貢献しています。 
このように、現場の具体的課題から着想を得て、試行と検証を重ねながら事業化に結びつける“現場発”アプローチが、当社の新規事業の大きな流れです。藤井が推進するリユース事業も、この現場発の取り組みの一つです。 

――そのようなアイデアを事業化する上で、難しさはありませんか。

長い歴史を持ち、加えて、建設事業が経営全体の大部分を占めているため、意志決定に時間がかかるのは事実です。その中で多くのアイデアをどうすくい上げ、形にしていくかが常に課題になります。 
新規事業を考える際は、本業の周辺領域や将来の成長領域に目を向け、現場の声を拾うことを大切にしています。その一方で、実務範囲で対応したほうがよいものや、法制度の制約から会社を新設したほうが動きやすいケースもあります。アイデアをそのまま事業に乗せるのではなく、性質に応じて見極めながら進める必要があると感じています。 

 

企業風土が新規事業を育む理由 

――社員の皆さんがアイデアをたくさんお持ちなのは、社風によるものなのでしょうか。

社風もありますが、それ以上に、建築の課題に対して「もっと良くできないか」と自発的に考える、改善意欲の高い社員が多いことが大きいと感じます。設計や技術に関わるメンバーには、「ここを変えたら効率が上がる」「こんな仕組みがあれば楽になる」といった発想を日常的にする人が少なくありません。そうした気づきが社内の仕組みやサービスのアイデアにつながるケースも多いのです。

――企業風土はどのように育まれているのでしょうか?

竹中工務店には、「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という経営理念と、それを支える4つの社是があります。

  • 正道を履み、信義を重んじ堅実なるべし
  • 勤勉業に従い職責を全うすべし
  • 研鑽進歩を計り斯道に貢献すべし
  • 上下和親し共存共栄を期すべし

私自身も、「正道を履み、信義を重んじ堅実なるべし」を常に意識しています。 
入社1年目の社員は寮での共同生活を通じて、こうした理念や社是を自然に学びます。一見独特な文化に映るかもしれませんが、それだけ理念を重視してきた証でもあり、今の企業風土につながっていると感じます。 

――多くのアイデアがある中で、事業として「これはいいな」と思うものに共通する点はありますか?

事業として「これはいいな」と感じるアイデアには、共通して“熱意”があります。アイデアそのものの魅力も大切ですが、それを語る人の思いや覚悟がどれだけ感じられるかが、判断の大きな要素です。リユース事業などのテーマでも、話を聞いているうちに自然と熱がこもる瞬間があります。そうした“本気度”が伝わると、事業として育つ可能性が高いと感じます。

――軌道修正が必要な場合もあるのですか。

はい。流行にばかり目を向けすぎると、継続的なニーズにつながらない恐れがあります。だからこそ、冷静に立ち止まり、本当の価値を見極めながら現実的な方向へ軌道を整えることが重要です。まずは社内での実用性を高め、いずれは業界全体に広く展開できるモデルに育てていきたいと考えています。 

 

今後の展望と人材育成

――今後、竹中工務店としてどのようなことを目指していますか。

現在は「レガシー活用・まちづくり領域」「環境関連領域」「建設周辺・デジタル領域」の3つを新規事業の柱としています。まずはそれぞれの領域で実績を積み上げ、将来的には建設の枠を越えて社会課題の解決と収益基盤の多様化につなげていきたいと考えています。 

――建設業界での人材不足というお話もありますが、新規事業に携わる人材についてはいかがでしょうか。

新規事業に適した人材はまだ限られていますが、新しい価値創出に真剣に向き合う社員が少しずつ成果を上げています。今後は、挑戦しやすい環境を整え、多様な人材を迎え入れながら、建設以外の領域にも事業を広げていきたいと思っています。

 

最後に

――最後にメッセージをお願いします。

建設業界や社会のさまざまな課題を解決できる、あるいはニーズがあって他社に使っていただける可能性があるなら、それを“事業化”という形にしていくことが肝要だと考えています。 
ゼネコンというと閉じた企業体質のイメージを持たれがちですが、私たち自身、時代の変化に応じてその姿を少しずつ変えてきました。いまはより開かれた形で、さまざまな視点からものづくりに関わるフェーズに入っていると感じています。 
竹中工務店には、新しいものに前向きな社員が数多くいます。歴史ある大きな組織ではありますが、だからこそ社内の多様なアイデアをどう活かすか――それを考え続けることが私の役割だと思っています。

 

 

いかがでしたか?竹中工務店のあたたかな企業風土が伝わる、石崎さんのインタビューでした。
次回は、竹中工務店で生まれる新規事業全般を管理され、新規事業を発案者と一緒に育てられているリーダーの鈴木さんにお話しいただきます。お楽しみに! 

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、860件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年5月末時点)

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