Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、株式会社資生堂(以下、資生堂)。資生堂では研究開発拠点であるみなとみらい地区の資生堂グローバルイノベーションセンター(以下、GIC)にて、オープンイノベーションプログラム「fibona」に取り組んでいます。fibonaは資生堂の研究員と外部のさまざまな人と知の融合から新たなイノベーションを目指しています。
株式会社資生堂 fibonaプロジェクトリーダー 中西 裕子(なかにし・ゆうこ)さんが語る、研究所発でfibonaが立ち上がったワケ、クラウドファンディングで話題を呼んだ意外なプロダクト、資生堂が注目する新たな領域とは?資生堂のオープンイノベーションを推進する組織のリアルに迫ります。
"化粧品"に限らない"ビューティーイノベーション"を起こす
――資生堂と聞くと、華やかで洗練されたイメージを持つ人が多そうです。改めて、社風を教えてください!
社風は、時代や会社の変化に沿ってその都度変わってきているんじゃないかなと思います。私たち「fibona」が拠点を置く資生堂グローバルイノベーションセンターは、研究開発がメインということもあり真面目な方が多いです。決められたことをかっちりやる、いわゆる優等生のようなタイプです。研究分野もさまざまで、生物化学や機械工学、データサイエンス、薬学、心理学、感性工学、脳科学など、多様な分野のスペシャリストが集まっていますね。
研究所は華やかな雰囲気かと聞かれれば明言が難しいですが、男女問わずアートや美に興味がある人が多いです。例えば、「研究×美術館やギャラリー」などのコラボレーションに積極的なメンバーも多い印象です。
――研究所には研究分野を極めている方が多くいらっしゃるのですね。リードされているオープンイノベーションプログラム「fibona」は、どのようなきっかけで作られましたか?
2019年に新たな研究開発拠点として、GICが設立されました。都市型オープンラボとして、研究員とお客さまの交流や、国内外の外部研究機関とのコラボレーションを行い、「多様な知と人の融合」によってこれまでにない価値を生み出すことが目的です。この場所の設立に合わせて、オープンイノベーションを加速させるプログラムとしてfibonaを立ち上げることになったのです。
当時、資生堂は経営戦略として「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」をゴールに掲げていました。これは言い換えると、視野を日本から世界にシフトチェンジし、単なる化粧品会社ではなく“美”を追求するビューティーカンパニーに変わろう、という方針。このゴール実現に向けて、オープンな場であるGICと、イノベーションを加速するプログラムが必要でした。
――ハード(場)としてGIC、ソフト(プログラム)としてfibonaが設立されたのですね。これらが研究開発の領域で立ち上がったのがユニークです。
資生堂にはサイエンスやテクノロジーの技術やノウハウがあります。特に資生堂は“サイエンス”と呼ばれている、肌や体内のメカニズム解明などの研究が得意な会社です。例えば人は香りをどう感じるか、肌状態がどういった仕組みで変化するのか、など。これらを解明し、そのメカニズムに適用するような化粧品を作ることが強みです。
これらを使って、社外のテクノロジーとコラボレーションしつつ化粧品に限らないビューティーイノベーションを積極的に起こしていきたいという方向性のもと、研究所発でプログラムを立ち上げました。
最先端の研究施設の一部を一般開放⁉
――fibonaの活動拠点でもあるGIC、改めてどのような場かを教えてください!
GICは資生堂の研究員が勤務する最先端の研究施設でありつつ、1階から3階までは一般の方にご利用いただける美の複合体験施設を併設しています。1階~3階の低層階では複数のコンテンツを用意し、お客さまと研究員が気軽にコミュニケーションを取り、“美のひらめき”を感じられるように設計されています。
1階には、ベジセントリックな食事を楽しめる「S/PARK Cafe」、資生堂独自のメソッドに基づいたオリジナルプログラムを通じてアクティブビューティーを体感できる「S/PARK Studio」、そして、研究員がお客さまの肌を測定・解析して化粧水・乳液を作るパーソナライズスキンケアサービスなどが楽しめる「S/PARK Beauty Bar」があります。2階には、入場無料の体験型ミュージアム「S/PARK Museum」があり、美にまつわる問いかけやインタラクティブな体験などが用意されています。
――研究所の下に一般開放エリアがあるとは、珍しいです!
今日お越しいただいているこの場所も、社外の方が入館証無しで入って来られる構造になっています。社外の方々とワークショップをしたり研究員が作ったプロトタイプを見てもらったりなど、オープンにコミュニケーションしやすい環境なんです。
また、1階の「S/PARK Beauty Bar」には製造施設が併設されています。このラボは、国から正式な化粧品製造業許可を受けた製造施設です。新規プロジェクトでは簡易的なプロトタイプを作ったり実験をしたりする必要があるので、ラボはfibonaの活動でもかなり役立っています。また、この場所で研究員がお客さまの肌を解析・カウンセリングし、個々人に合った化粧品を作るサービスもご用意しています。
このようにGICの中のS/PARKには、研究員とお客さまが接点を持ち、触れ合えるきっかけがあります。
約20人の兼務メンバーで挑む、新たなビューティー分野の開拓
――fibonaではどのような活動をしていますか?
fibonaをスタートするにあたり、資生堂が自社にはない化粧品の研究開発能力や、それ以外のビューティーソリューションに対するケイパビリティを獲得するために必要だと考えたのは「お客さま視点でのモノづくり」と「テクノロジー持つスタートアップ企業との協業」。当時はメーカー視点のモノづくりが多く、研究員がお客さまに直接触れ合いニーズを汲み取れる仕組みはありませんでした。また国内外問わずアカデミアとの共同研究は多く行われていましたが、スタートアップ企業とのコラボレーションはなかなかできていませんでした。
この状況を変えていくべく、主に以下の4つに取り組んでいます。
- スタートアップ企業との共創をめざしたアクセラレーション(Co-Creation with Startups)
ビューティーテック業界を中心とするスタートアップ企業とコラボレーションを行うべく、スタートアップ企業を対象としたアクセラレーションプログラムを実施 - お客さまとのコミュニケーションを通じた共創(Co-Creation with Consumers)
S/PARKの施設やコンテンツを活用し、商品体験などを研究員と生活者が直接コミュニケーションし、お客さまと一緒に商品・ソリューションを開発 - 挑戦的なプロトタイピングとβ版のローンチ(Speedy trial)
1.や2.より生まれたアイデアを含め、アジャイルに開発して早期に市場に導入するために、クラウドファンディングサービスの活用などを積極的に実施 - 社内外問わず開かれた風土づくり(Cultivation)
ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップなどを行い、ビューティーイノベーションを生み出す人の熱意やアイデアを刺激
スタートアップ企業を対象としたオープンイノベーションプログラムは過去に4回実施し、これまで「Beauty Wellness」や「Medical Beauty」をテーマに連携しPoCなどを実施してきました。
――4つの軸で活動されているのですね。fibonaには何人くらいのメンバーがいるのでしょうか。
現在、約20名のメンバーがfibonaに在籍しています。実はメンバー全員、兼務なんです。ちなみに私も兼務で、他の仕事としては、担当領域の戦略立案、アカデミアとの共同研究を企画を業務にしています。
――中西さんご自身も含めて、fibonaのメンバー全員が兼務だということには驚きました!メンバーはどうやって集めたのですか?
それぞれがfibonaで得た知見を所属部署に持ち帰り、資生堂全体のイノベーションを加速してほしいという理由もあり、あえて全員を兼務にしています。
メンバーは基本的に、fibonaに興味を持って自ら希望を持って集まっています。立ち上げメンバーは私が声を掛けてアサインし、それ以降はfibonaが行ったイベントに参加した方、メンバーの知り合いで関心を持ってくださった方などがいます。研究所のメンバー以外に、事業やパッケージデザインなどに携わっているメンバーもいたりします。
>>次回 【資生堂編 #2】物理化学の研究員が、ゼロから「fibona」を立ち上げるまで につづく
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※本記事の内容は2023年5月時点のものです。