Sony Acceleration Platformは2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。Sony Acceleration PlatformとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。
今回は、株式会社Pictoria代表取締役 CEO明渡 隼人さん、
ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメント ダイレクター 松島 弘の対談インタビューをお届けします。


VTuberからAITuberへ。AIの力でキャラクターの可能性を広げる
――まず、株式会社Pictoriaの事業概要を教えてください。
明渡さん:Pictoriaは、AIとキャラクターをかけ合わせることによるコンテンツの提供を主軸とした会社です。「推せる未来をつくる。」をミッションに掲げ、現在は①コンテンツ事業、②ソリューション事業、③AIキャラクター研究開発の大きく3つで事業を展開しています。
①コンテンツ事業では、当社が生み出したキャラクターを独自に開発したAIで動かし、会話させることで、自律型VTuber(AITuber)としてライブ配信などを提供しています。
②ソリューション事業では、AIで自律させたキャラクターを活用して、企業の課題解決やマーケティングの推進などをサポートさせていただいています。これまで、AIキャラクターによる問い合わせの窓口対応や施設の案内係、既存のIP(キャラクター)をAIで動かし、ファンと対話させるなどのサービスを提供しています。
③AIキャラクター研究開発では、当社の事業の柱の一つであるキャラクターとAIをかけ合わせる独自の技術力をさらに磨いていくため、大規模言語モデル(LLM)、合成音声技術を含む最先端AI技術の研究開発を行っています。
――これまでの会社の歩みや、現在の事業を展開するようになった理由を教えて下さい。
2017年に会社を設立し、当初はVTuberの開発と運営から事業をスタートさせました。まずまずの成果を上げ、黒字化もできていたのですが、もっと新しいことに挑戦したいと思い、AIに注目してVTuberやキャラクターにAIをプラスするコンセプトと構想を掲げ、現在の事業を立ち上げました。

――直近で特に力を注いだ事例や施策があれば、ぜひ教えてください。
明渡さん:1つは、外部の既存IP(キャラクター)とのコラボレーションです。アニメやマンガなどの人気キャラクターをAIで自律させ、ファンと対話できるサービスを展開しています。3月22日に開催された世界最大級のアニメイベント「AnimeJapan 2025」では、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の『僕とロボコ』の主人公ロボコをAIで自律させ、みなさんにAIロボコをお披露目させていただきました。さらに、LINEでロボコとやりとりができるサービスも展開していきます。既存のキャラクターをAIで自律させるのは難しい点も多いのですが、それを当社に任せていただけたということで、社員たちにとっても大きな自信となっています。
もう1つは、AITuberによるASMR特化コンテンツの拡充です。高い音声技術をもった海外の企業と共同で開発を行い、リアルタイム音声合成技術を生かした没入感の高いASMR配信を展開しています。ASMRにフォーカスを当てたのは、より深みのあるコンテンツを提供することで、AITuberへの愛着度を高めたいと考えたからです。ASMRは作業中や睡眠中に聴くなど習慣化されている人が多いため、愛着度を高めるという点において、非常に効果的なコンテンツだと考えています。実際に、現在展開しているASMR音声配信は、通常の配信と比ベて4倍近い再生回数となっており、手応えを感じています。
AIキャラクター創出における稀有な実績と、ビジネス・活用領域の拡大戦略
――SIFとしては、Pictoria社のどこに注目していますか?
松島:Pictoria社のポイントは大きく3点あると考えています。

1つ目は、「自社キャラクター運用とBtoBtoC展開」です。すでに、AIによって独自のIPを開発し、ファンを獲得しています。Pictoria社の開発した「紡ネン」は、YouTubeの登録者数が10万人を超えており、非常に稀有な実績となっています。また、これらの実績と高い技術力によって、大和証券グループ本社ほか3社と協業しAIオペレーター「KOTO(コト)」を開発し、BtoBでの実績も積んでいます。
さらに、先ほど明渡さんからのご紹介あったロボコの事例のように既存のキャラクターをAIで自律させるサービスなど、BtoBtoCにまで事業領域を拡大できています。
2つ目は、「リアルの場での活用実績」です。釧路空港にて実装されているAIアバターによる多言語対応の案内サービスや、カラオケルーム「ビッグエコー」にてPictoria社が開発したAITuber「月夜野アルマ(つきよのあるま)」による店頭呼び込みサポートの実証実験を開始するなど、インターネット上だけでなく、リアルでの活用事例を増やすことで、AIの認知とビジネスの拡大に向けた施策を展開できていることもポイントです。
3つ目は、「先端技術をエンタメに最適化する体制」です。歌やゲーム実況、さらにはマルチモーダルAI※1生成の実験を行うための研究開発チームを設置しています。ASMRやローカルLLM、リアルタイム対話や音声合成も内製化しています。

子どもの頃に夢見た未来の世界を、自らの手で
――明渡さんが起業をするに至った原点は、どこにありますか?
明渡さん:私は和歌山県出身で、あまり遊ぶところが無い土地で育ったのですが、小学5年生の時に駄々をこねて親にパソコンをもらったんです。それからオンラインゲームを始めてインターネットの世界を知るようになっていくわけですが、そこで自分の知らないところで、世の中が目まぐるしく動いていることを実感しました。そして、高校を卒業したら東京に行って、進歩していく世界を自分の目で見たいと思うようになっていきました。
――VTuberの開発・運用から事業をスタートさせた理由を教えてください。
明渡さん:元々私はオンラインゲームやアニメが大好きなヲタクなので、VTuberが世に出始めた時に「自分がゲームやアニメの中で見ていたSFの世界がやってきた」「これが世界の進歩」だと感じ、“この分野に挑戦したい”と思いました。
松島:VTuber 事業で一定の成果を収めることができていたと思うのですが、VTuberとAIを掛け合わせようと思ったきっかけを教えてください。
明渡さん:VTuberの運用自体はやりがいがあったのですが、自分自身が携わる中でキャラクターの“裏側に人がいる”こと実感し、これは本当に自分が見たかったSFの世界なのかな?と思うようになりました。また、自分と同じようにVTuberにSF的な世界を期待していた人たちもいるだろうと感じていたいんです。そんな時に、当時注目を集め始めていたAIに目が留まりました。そこから、「VTuberの中身ってAIでもいいんじゃない?」という話を社内のエンジニアとしながら、VTuberやキャラクターにAIをプラスするコンセプトと構想を練り始めたんです。同時に、VTuber運用における企画や脚本作りなど、配信を行っている運営側の負担が大きいという業界内の課題も見えていたので、そこにも需要があることを感じ、現在の事業を立ち上げました。
――現在、Pictoria社にはどんな人材が集まっていますか?
明渡さん:各業界の第一線で活躍していた人材が集まっています。一方で、以前の仕事にマンネリを感じていて、新しいことに挑戦したいというベンチャーマインドが強い人が多い傾向にあるように思います。全員、退屈が一番嫌いなんですよ。当然、AIと2次元のキャラクターが事業の中心にあるので、エンタメ好きのオタクも多いです。中には、アニメグッズの商品開発プロデューサーを経験していた人材もいます。

AIの技術力×エンタメの理解力で、価値を生み出すための最適な技術を提供
――Pictoria社の3つの注目ポイントの中に「先端技術をエンタメに最適化する体制」がありましたが、具体的にどのような技術を有しているのか、またどのように技術を高めているのかを教えてください。
明渡さん:AIと一口に言ってもさまざまなレイヤーがあり、私たちが追求している技術は、ユーザーに便益を生み出すアプリケーションレイヤーです。その中でも、キャラクターの対話や対応、自主的なアクションなどに特化しています。例えば、ライブ配信と街中のデジタルサイネージでは、求められる回答のスピードが異なります。街中では当然素早い回答や反応が求められますが、ライブ配信では思考する時間がある程度許容され、深い内容の回答を求められます。こういったシチュエーションや利用目的の違いに合わせ、一番適したソフトやアプリケーションを選択し、プログラミングできる点が私たちの技術力です。そして、この技術力を磨くために、日々研究開発に力を注いでいます。
松島:研究開発を推進する上で、大切にしていることはありますか?
明渡さん:とにかく新しい技術を試すという知的好奇心を満たし続けられる環境づくりを意識しています。そのため、研究開発をしている社員たちの実験や検証を絶対に止めることはしません。トライアンドエラーを繰り返す中で、私たちの事業に生かせる技術か、生かせない技術かを見極める嗅覚や判断力を磨いてもらっています。
松島:加えて、Pictoria社の強みとして、社員の皆さんがエンタテインメントに対する高い理解度と感度をお持ちな点も、キャラクター×AIの事業における技術力の支えになっていると考えています。AIの技術だけでは、特に既存IPのコラボレーションをはじめとしたソリューション事業の展開はうまくいかないと感じています。
明渡さん:ありがとうございます。キャラクターの話し方を一つとっても、エンタテインメントのトレンドにおいてどんな話し方が求められているかを把握していないと、最終的に多くの人たちに受け入れられるコンテンツは生まれないんですよね。だからこそ、私自身も熱量を持って語れるエンタメを持っておくことを、とても大切にしています。
松島:エンタテインメントを理解した上で、状況に合わせた最適なAI技術を提供する。だからこそ、価値のあるコンテンツを届けることができるんですよね。この両輪こそが、Pictoria社の技術における唯一無二の強みだと私は思っています。
――経営者である明渡CEOについて、松島さんはどのような印象を持っていますか?
松島:私たちが投資の検討を重ねる中で、当然深く切り込む質問や意見を伝えることがあります。それでも、明渡さんは感情的になることは一切ないですし、自分の考えを自信を持って伝えてくれるんです。スタートアップで、しかも前例のない新規事業に挑戦しているので不確定なこともたくさんあるのですが、明渡さんからは揺るがない自信と覚悟を感じます。あと、良い意味でプロセスにこだわりがないですよね?
明渡さん:確かに、目標や夢は絶対に実現したいと思っていますが、そこに至るまでのプロセスに関して強いこだわりはないかもしれませんね。もっとも、プロセスにおいては、各分岐点にその分野のスペシャリストがいるので、そういった方々の意見を取り入れながら進んでいった方が良いかなと考えています。

AIで毎日を楽しく! そして、新たなつながりを通じて心の隙間を埋めていく
――Pictoria社の今後の目標や夢を教えてください。
明渡さん:まずは、AIで動くキャラクターを誰もが見たことのある状況を作ることですね。今年からは株式会社ナルミヤ・インターナショナル様とコラボレーションして、当社がナルミヤの人気キャラクターをAIコンシェルジュとしてプロデュースする企画もスタートさせました。ルミネエスト新宿のPOP UP SHOPで、ナルミヤキャラクターズとのおしゃべりができるコンテンツを提供したところ、過去最大規模の集客を記録することができました。こういったイベントや仕掛けを通じて、SNSなどでバズを生み出し、AIキャラクターの認知度を高めていきたいです。
そして、BtoBtoCビジネスにおける、Cの認知度が高まれば、当社のBtoBビジネスも、BtoBtoCビジネスもさらに成長していくと考えています。
松島:中長期的には、どのような展望を描いていますか?
明渡さん:日常生活で、AIキャラクターに触れ合わない日がない世界を作っていきたいと思っています。スマートフォンやPCはもちろん、テレビでも、街中の広告でもAIキャラクターが活躍しているような社会になっていると理想ですね。また、人との関わり方や関係性の構築が難しい時代になっている中で、AIキャラクターという絶対に自分を裏切らない存在が、多くの人たちの心の支えにもなれるとも考えています。
実社会の人間関係がうまくいっていない人、一人で生活されている高齢者、単純に何でもさらけ出せる話し相手がほしい人……。AIキャラクターが、そういった人たちの心の隙間を埋めるサプリのような存在になって、みんなを幸せにできたら、嬉しいですね。


連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2025年3月時点のものです。