2024.12.18
Sony Innovation Fund presents Remarkable Startups

株式会社トヨコー|レーザーの力で、世界中の施工現場を快適でもっとCOOLな職場に

Sony Acceleration Platformは2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。Sony Acceleration PlatformとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。

本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。

今回は、株式会社トヨコー 代表取締役CEO 豊澤 一晃さん、取締役CFO 白井 元さん、
ソニーベンチャーズ株式会社 シニアインベストメントダイレクター 鈴木 大祐の対談インタビューをお届けします。

株式会社トヨコー 代表取締役CEO 豊澤 一晃さん
株式会社トヨコー 取締役CFO 白井 元さん
ソニーベンチャーズ株式会社 シニアインベストメントダイレクター 鈴木 大祐

原点回帰から生まれた新事業

――まず、株式会社トヨコーの事業概要を教えてください。

豊澤さん:当社は、老朽化したインフラのサビや塗膜等をレーザーで除去する『CoolLaser(クーレーザー、以下CoolLaser)』の製造・販売事業と、3層の特殊な樹脂をスプレーコーティングして強靭な屋根に蘇らせる『SOSEI(ソセイ、以下SOSEI)』事業の大きく2つの事業を展開しています。「キレイに、未来へ」をミッションに掲げており、この2つの事業を通じて、作業の担い手に支持され、地球を汚さない技術を創造し、循環型社会に貢献することを目指しています。

――株式会社トヨコーのこれまでの会社の歩みについて教えてください。

豊澤さん:30年ほど前に創業し当初は塗装業を中心とした事業を行っていましたが、私が2006年に当社の経営に参画し、そこから現在のトヨコーの事業を構築しました。

まず、経営参画当時は徹底して現場のお客様のニーズに耳を傾けることに注力しました。その中で、工場施設の屋根の劣化と、それに伴う改修工事に悩まれていることを数多く見聞きし、大きなペインがあると知りました。屋根の改修や張り替え工事を入れるには、その期間の生産ラインを止めなければならないからです。さらに近年の大雨や台風などの異常気象の影響で、屋根が破損するリスクも高まっており屋根の補強へのニーズはますます強まっています。

そこで、塗料と樹脂の技術を組み合わせてSOSEIというスプレーカバー工法に使える当社独自の化学素材を開発しました。3層の特殊樹脂を使うことで、防水・断熱・補強など複数の効果を屋根に付与することができる革新的な素材であり、漏水による生産ラインおよび製品への不具合発生リスクや、夏場の熱中症リスクの低減、工場の省エネ化効果に貢献します。

SOSEIの特殊樹脂構造

SOSEIの特殊樹脂構造

そして2008年頃、今のトヨコーの主力事業であるCoolLaserの開発に着手しました。これもインフラオーナーのお客様方がサビに関する大きなペインを抱えていることから着想した新技術です。

鈴木:CoolLaser事業を立ち上げようと思ったきっかけについて、詳しく教えていただけますか。

豊澤さん:SOSEIは立ち上げ直後からご好評いただき、引き合いも多く好調なスタートを切っていました。一方で、一度SOSEIで施工すれば、基本的に20年程度は大規模な改修が不要になります。高いクオリティの製品を提供できる安定的な事業ですが、より高い成長が期待できる新事業を模索し始めたのです。

鈴木:レーザーを使ってサビを除去するCoolLaser事業は、祖業である塗装業やSOSEIからは少し遠いビジネスにも感じます。どんな想いや志を持って、CoolLaser事業に挑戦したのでしょうか?

豊澤さん:不安を抱えている時期に、当社の創業のルーツに立ち返ってみました。当社の創業の地は、東京タワーなどの日本を代表する社会インフラを塗装してきた職人を数多く輩出しており、「塗装の聖地」と呼ばれていたことを知りました。一方で、当社は公共工事に携わる仕事はやってこなかったので、自分は経営者として社会インフラに貢献できる事業にチャレンジしたいと思い始めました。その頃は、ちょうど国内でインフラの老朽化が社会問題となり始めた時期でもありました。

鈴木:レーザー技術については、どうやって学ばれたのですか?

豊澤さん:新たな事業を検討している時期は、私が個人的にさまざまなエネルギー分野に興味を持っていた時期でもありました。同じ静岡県内の浜松市が「光の尖端都市」宣言をして、光産業に力を入れ始めたことを知り、会社を経営しながら、光産業創成大学院大学へ通うことにしました。そこで、レーザーと社会インフラへの貢献、工事の現場での課題を照らし合わせることで、CoolLaser事業の基礎を練り上げました。その後ドイツに行き、現地の技術者との情報交換を経て、技術開発を進めていきました。

相応に時間はかかりましたが、同じ用途のレーザー機器は世界を見渡しても1kWから最大でも2kWしか出力がなく、現場に使える製品になり切れていないと考えています。

かたや、今年から納品開始したCoolLaser初の市販モデルである『CoolLaser G19-6000シリーズ』は、世界最高峰のレーザー出力5.4kWを誇り、塗替工事の現場で、クリーンに早く作業を進めることができます。長い時間をかけ現場での実証も重ね、その数は150を超えました。現場でのオペレーション方法や、複数年単位で既存工法との比較優位な点も立証してきました。その結果、多数の受注を頂いている量販マーケットインフェーズに入った第2世代の『CoolLaser』には、これまでの試行錯誤から得たノウハウが詰め込まれています。今後も、第3世代、第4世代……と現場ニーズ、顧客ニーズに即した技術革新、商品開発を続けてまいります。

CoolLaser G19-6000シリーズ

CoolLaser G19-6000シリーズ

CoolLaserのサビ除去の原理

CoolLaserのサビ除去の原理
一点に集光された高い強度のレーザービームを高速回転させながら円状に走査(スキャン)させ、表面にある塗膜やサビ・金属を瞬間的に溶融、蒸散、熱破砕により除去します。加えて、塩分の除去できる、産廃量が少ないという特徴があります(特許第5574354号、US-9868179)

想いと志と熱量を共有できるスペシャリストを仲間に
世界に誇れるオンリーワンの技術と確固たる実績をもとに、売上拡大のフェーズへ

――事業化に向けて開発を進めるためには資金調達と投資が必要になったと思いますが、どのように乗り越えてきましたか?

豊澤さん:CFOの白井さんを中心とした、新たな人材に加わっていただいたことが大きいですね。大手監査法人で公認会計士をされていた白井さんが仲間となることで、資金調達や投資の面でさまざまな局面を乗り越えることができたと思っています。

鈴木:白井さんが、トヨコーさんでチャレンジするという覚悟を決めたポイントをぜひ教えてください。

白井さん:私は監査法人時代からVCやスタートアップのサポートをさせてもらっていたのですが、CoolLaserというニッチでありながらも、世界のトップを取れる技術を持っている点に魅力を感じました。あとは、豊澤さんと波長が合うという部分も大きなポイントですね。豊澤さんは元々デザイナーだったこともあり、柔軟でユニークな発想を持っている人です。そして、確固たる信念を持っており、10年以上にわたって粘り強く『CoolLaser』の開発を続けてきた点にも魅力を感じました。

豊澤さん:白井さんの他にも、当社には非常に頼りになる人材が数多く仲間に加わってくれています。鈴木さんから現在のCOOもご紹介いただき、知見と行動力と人間力をフルに発揮して活躍してもらっています。

鈴木: やはり、想いや志でつながった人たちは、心でつながり絶対に良い仕事ができます。ご紹介させていただいたCOOはこういった価値観を大切にされている方なので、絶対に良いチームができると直感的に感じていました。

――SIFはトヨコーのどこに注目していますか?

注目しているポイントは3点あります。

1.世界で唯一無ニのレーザー技術 2.業界ニーズの高さと社会貢献性 3.1.2兆円の事業ポテンシャル

1つ目は、やはり世界で唯一無二のレーザー技術です。先ほど豊澤さんからもお話しいただきましたが、作業現場でスピーディかつクリーンに作業することを念頭におき、実際に150以上の現場で実証を行い、既存の工法と比較して優位点も立証できています。

2つ目は、高い業界ニーズと社会貢献性です。CoolLaserとSOSEIは、施設や作業現場の課題解決を起点に生まれた事業であり、建築土木業界における社会貢献性が非常に明確な点も魅力だと考えています。

3つ目は、1.2兆円の事業ポテンシャルです。現在、インフラのサビの除去には、ほとんどの現場でショットブラスト(以下、ブラスト)という砂を噴射する機器が使われており、世界全体でブラストの市場規模は、年間1.2兆円です。そのため、世界中のブラストをCoolLaserに切り替えることができれば、大きな社会貢献を果たし、多くの収益を獲得することができます。

――施工現場において、CoolLaserが具体的にどのような変革をもたらしていけるのか、さらに詳しくお聞かせください。

鈴木:現在インフラ業界がサビに関して抱えるペインはものすごく大きく、非常に大きな市場規模が想定される分野です。先ほどもお話しした通り、インフラのサビの除去には、ほとんどの現場でブラストという砂を噴射する機器が使われています。サビを落とすほどの強力な噴射なので、使う側の作業員は、作用反作用の法則で負荷がかかり、腕が疲労します。当然、粉塵やサビが現場に舞うため、人体にも良くない環境です。加えて、廃棄物も増えるため地球環境にも好ましくないと言えます。

しかし、これらの課題がCoolLaserであれば、すべて解決できるという点が最大の魅力です。過去を振り返れば、ブラストも30年ほど前に出てきた際は、それまで電動工具(サンダー等)で物理的にゴリゴリと削っていた従来のやり方を一気に置き換えてきたわけです。今後はそのブラストよりも、クリーンで、塩分除去等の効果が高く、現場フレンドリーなCoolLaserが次世代の技術として徐々に置き換えられていくという未来像を持っています。

また、ソニーも同じくレーザー技術を有していますので、将来的にはソニーとのビジネスや技術の親和性もあり得るかもしれません。

CoolLaserによるサビ除去のBefore & After

豊澤さん:加えて、最近インフラ業界や施工現場では、人材不足が大きな課題となっています。CoolLaserを普及させることによって、労働環境の改善と人手不足の解消にも貢献していければと思っています。

――SIFのサポートに対する印象は?

豊澤さん:ここ1〜2年は、資金調達や協業先の探索など厳しい状況が続いていましたが、これらの課題を乗り越えることができたのは、鈴木さんをはじめ、SIFの皆様のご支援のおかげだと思っています。

白井さん:研究開発フェーズの終盤では、資金があと半年しか持たないという時もあったので、CFOの私としてもそんなときにいつも傍でサポートいただいたのは、本当に心強かったです。

鈴木:CoolLaserのようなディープテック、先端技術を使った事業は、①「製品・ソリューションとして形にできるか」、②「形にできた物をしっかりと世界に大きく売ることができるか」という2つの山があると考えています。

当社はすでに大手の電力会社や鉄道会社、通信キャリアでの実証運用を重ね、国土交通省所管の土木研究所と4年間の長きに渡り行った共同研究では、サビのみならず塩分まで除去する力と、これにより施工後のサビの再発が抑制される点において、ブラスト以上の結果も示されています。これらの実績を元に、現在は売上拡大のフェーズに入ることができています。

ディープテックによる新規事業で、売上と利益をしっかりと出せている企業は本当に稀有だと思います。

開発と並行して、業界内の新たなルールも構築

――CoolLaserを事業化していく上で、資金の確保や開発以外の部分で注力したことはありますか?

豊澤さん:CoolLaserの開発と並行して、国内、業界内でルールづくりにも、長年力を注いできました。日々の経営とは別に、一般社団法人レーザー施工研究会という業界団体を立ち上げ、レーザーを施工現場に取り入れるためのルールを、政府や大学などの各研究機関と連携しながら進めてきました。結果、レーザーに関するJIS規格も制定し、法的な問題のクリアや、安全ガイドラインの公表による施工時の安全性確保などを実現できています。

世界中の3K(キツい、汚い、危険)な施工現場を、CoolでCleanでCreativeな現場へ

――トヨコーさんの今後の事業の展望や、皆さんの目標をお聞かせください。

豊澤さん:一般的にレーザーは精密な光学機器であるため、濡れる、汚れる、揺れる等の場面が多い土木や建設の現場は最も不向きとされ、当社も過去、数多くの装置を故障させてはその都度壊れないモノづくりの改良・改善を粘り強く行ってきました。

この分野で最後まで現場の課題解決に真摯に向き合い続けることができたのは、「キレイに、未来へ」というミッションを掲げ、「CoolでCleanでCreativeな現場へ(3Kを3Cに)」という強い想いと志を持った仲間が集まっている、私たちだからできたと自負しております。

この信念を大切にし続け、日本、そして世界中で施工現場を快適で、さらにCOOLな職場へと変えていき、日本をカメラに次ぐ光学大国として世界をリードしていきたいです。

鈴木: CoolLaserは製品の優位性も確固たるものであり、今後の成長が非常に楽しみです。今後も、私にできること、SIFにできることは最大限のサポートを継続させていただきたいと思っています。

また、事業内容はもちろんですが、経営者の人柄やマインドも企業を大きく成長させていく上で重要なポイントだと考えています。豊澤さんは家族や仲間、会社、地域をすごく大切にされている方であり、そういった想いが事業と共に大きくなっていくことで、日本、そして世界に貢献できる企業が築き上げられていくと思っています。

当社のソリューションに興味を持っていただけた方は、ぜひ一度お問い合わせください。

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連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

※本記事の内容は2024年12月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、780件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年12月末時点)

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