Sony Acceleration Platformは2022年8月より、革新的なテクノロジーをもつスタートアップに投資しビジネスをサポートするSony Innovation Fund(SIF)と協業し、SIFの投資先スタートアップ企業に支援提供を開始しました。Sony Acceleration PlatformとSIFはこの協業により、有望なイノベーションを育み、豊かで持続可能な社会を創り出すことを目指しています。
本連載では、SIFの国内投資先スタートアップ企業を1社ずつご紹介します。各スタートアップ企業の知られざるストーリー、今注力するビジネスとは?スタートアップ企業の軌跡と未来に迫ります。
今回は、コングラント株式会社 代表取締役CEO 佐藤 正隆さん、執行役員COO 高橋 敦彦さん、ソニーベンチャーズ株式会社 マネージングダイレクタージャパン 北川 純、インベストメントダイレクター 深田 陽子の対談インタビューをお届けします。




起業のきっかけは、ソーシャルセクターが抱える「寄付の壁」
――まず、コングラント株式会社の事業概要を教えてください。
佐藤さん:当社は、NPOや非営利団体といったソーシャルセクター向けに、ファンドレイジング(寄付募集)を支援するシステムを提供しています。サービス名でもある「コングラント 」は、寄付募集ページの作成からオンライン決済、支援者管理、領収書の発行まで、ファンドレイジングに必要な全ての機能をワンストップで備えたプラットフォームです。「寄付のDX化」を実現する国内No.1のサービスとして、現在3,300以上の団体にご利用いただいており、累計流通額は100億円を超えています。
また、2025年5月より、スマートフォンからさまざまな団体へ手軽に寄付ができるスマート寄付アプリ「GOJO」をリリースしました。寄付者とソーシャルセクターをつなぐだけでなく、企業との共創による社会課題解決を目指しています。

――コングラント社を起業した経緯を教えてください。
佐藤さん:2008年に、病院やNPO業界向けにWebサービスやITソリューションを開発・提供するリタワークス株式会社を創業しました。多くのNPO法人と関わる中で目の当たりにしたのが、資金調達に不可欠な「寄付」の制度や仕組みが整っていないという現実でした。例えば、「Webサイト上でクレジットカード決済による寄付を受け付けたい」と考えても、多くの団体ではカード審査を通過すること自体が難しく、通過してもシステムへの組み込みには専門知識が必要で、非常にハードルが高かったんです。
そこで、ソーシャルセクターが簡単にオンライン寄付を受け付けられるようにと開発したのが「コングラント」です。当初は試験的な取り組みでしたが、3年ほどで利用団体は300を超え、ニーズの高さを実感しました。「コングラント」は利益を上げている事業ではなかったものの、「覚悟を持って挑めば、きっと手応えを得られる領域だ」と確信し、2020年5月にリタワークスからスピンオフする形でコングラント社を設立しました。
――マネタイズの難しい領域に挑むことを決断された背景には、どのような思いがあったのでしょうか?
佐藤さん:10年以上にわたりさまざまな団体の方々と関わってきましたが、社会全体におけるソーシャルセクターの位置付けは変わらず「マイノリティ」です。ダイバーシティが重視される現代において、その実態を見過ごし続けて良いのだろうかという思いが根底にありました。
制度面や税優遇における課題を団体自身が発信すれば、批判の矛先が彼らに向かってしまう恐れがあります。だからこそ、私たちのような第三者がその声を代弁し、社会を変える役割を担うべきだと考えました。ソーシャルセクターを私たちがネットワークし、中間支援組織となることで、領域を取り巻くさまざまな問題を提言し、変革を促すことができるのではないかと信じています。
高橋さん:現在の日本の税収では、全ての社会課題に十分な支援を行うのは難しい状況です。企業が取り組むにもマネタイズが難しい領域であることを考えると、寄付こそが唯一の解決手段だと感じます。その前提に立ったとき、寄付をする人の割合が非常に低い現状を変えるには、寄付への動機づけや動線づくりが不可欠です。私は2024年2月に入社するまで金融業界にいたため、ソーシャルセクター側のミクロな視点というよりもマクロ的な捉え方になりますが、そうした思いがあって参画しています。

「GOJO」が目指す、新しい寄付体験
――そうした思いが寄付者のためのアプリケーション「GOJO」にもつながっているように思いますが、改めて開発に至った経緯を教えてください。
佐藤さん:「コングラント」を展開する中で、次第に強まっていった課題意識がありました。それは、「寄付者側のDX」を進めなければ、寄付市場そのものを本質的に変えていくことはできない、ということです。「コングラント」は、団体が自らファンドレイジングを行うためのシステムであり、寄付の“入り口”を整えることはできますが、その先にいる「寄付をする人」へのアプローチは、各団体に委ねるしかありませんでした。
日常生活の中に社会課題は数多く存在しているにもかかわらず、個人との間には距離があるのが現実です。ソーシャルセクターと寄付者をつなぎ、より良い寄付体験を提供する手段として、「寄付する側」にアプローチする「スマート寄付アプリGOJO」の開発に至りました。
――「スマート寄付アプリGOJO」は、どのようなアプリなのでしょうか?
佐藤さん:「GOJO」には、さまざまな社会課題解決に取り組む活動が掲載されており、応援したい団体を選んで、1タップ100円から気軽に寄付ができます。寄付者がもっと楽に、幸せになるような「寄付者ファースト」を掲げており、寄付額に応じてポイントが貯まったり、自身の寄付のログを確認したりすることができます。私自身、ログ機能は非常に重宝しています。1年間でどの団体に、いくら寄付したかを一覧で確認できる仕組みがあればいいのに、と以前から感じていたからです。寄付の可視化によって、自身の社会貢献に改めて目を向けられるだけでなく、認定NPO法人への寄付に関しては税控除の対象額も表示されるため、確定申告時にも役立ちます。
また、将来的にはユーザーの関心に応じて活動がレコメンドされる機能や、災害などの緊急性の高い支援要請にすぐアクセスできる導線の整備など、さらなるユーザビリティの向上を目指しています。

企業とも共創しながら「日本の寄付のあり方」を変えていく
――「GOJO」を通した企業との共創においては、どのような展望を見据えているのでしょうか?
佐藤さん:「GOJO」のもう一つの軸は、企業との共創によって寄付者や寄付回数を増やし、日本の寄付市場に新たなモメンタムを生み出すことです。SDGsや人的資本経営といった潮流の中で、企業の社会課題への取り組みも変化しています。「従業員の社会貢献意欲を高めたい」と考える企業も増えている一方で、実際には従業員へのアプローチに課題を抱えているケースも少なくありません。
特に、数万人規模の従業員を抱える大企業では、従業員の居住地やライフスタイル、価値観、世代やバックグラウンドもさまざまです。そうした中で、「この寄付プログラムに賛同してください」と一方的に伝えるだけでは、もはや時代に合わないのではないかと感じています。
高橋さん:人生が会社の中だけで完結する人はほとんどいないのではないかと思います。今や「個の時代」に突入していると考えていて、例えば企業の事業だけでは解決できない社会課題に対して、社員が個人の価値観で寄付やボランティアに参加できる環境が必要だと思っています。
「GOJO」では、スマートフォンから気軽に寄付やボランティアの申し込みができ、一人ひとりのアクションを可視化することができます。社内で「身近な人が参加している」という認識が広がれば、自然と周囲を巻き込む力にもなります。社内に社会貢献が浸透することに加えて、従業員の寄付やボランティアを非財務情報として数値化できるため、対外的な開示にも利用することができます。
また、社会課題解決に向けたKPIを設定する企業も増えている中で、ソーシャルセクターの課題感を把握するための情報やツールを私たちが提供し、企業のボランティアニーズとソーシャルセクターの活動をつなぐ役割も「GOJO」を通じて果たしていきたいと考えています。

伸長する市場で築かれた唯一無二のポジション
――SIFがコングラント社への投資検討に至った経緯を教えてください。
北川:きっかけは、コングラント社の既存投資家からのご紹介です。ソーシャルセクターに関わる事業ということで、その社会的意義には強く共感しながらも、投資する以上はリターンを得ることが大前提ですから、マネタイズに向けた戦略や将来的なビジョンに対して厳しい目を持って検討させていただきました。
――その上で、コングラント社のどこに注目したのでしょうか?
深田:私たちが注目しているポイントは大きく3つあります。

深田:「コングラント」はソーシャルセクターにおける国内最大規模を誇るファンドレイジングサービスであり、さらに寄付アプリ「GOJO」ではエンタープライズ向けの展開も視野に入れています。ユニークなサービスを軸に、ビジネスとしてのスケーラビリティを備えている点は、非常に魅力的でした。これが1つ目の注目ポイントです。
2つ目は、マーケットの成長性です。寄付市場は今後、日本国内でも大きな拡大が期待される分野であり、その中で唯一無二のポジションを築きつつある点に、当初から大きな可能性を感じていました。
北川:そして、3つ目の注目点はチームの成熟度です。業界に精通したメンバーが揃っており、現場の課題を深く理解しているからこそ、ソーシャルセクターとの信頼関係を築けているのだと思います。そして、チームを率いる佐藤さんは、いわゆる「鳥の目(俯瞰的視点)」と「虫の目(現場視点)」を自在に使い分けができる方だと感じました。将来的なビジョンを描きながら、それを現場レベルに落とし込んで実行に移すことができる。そうした点では泥臭い現場経験も積み重ねられていますし、そこから成果を出してきた実績もあります。佐藤さんの視座や考え方に惹かれて集まったメンバーが、非常にバランスの取れたチームを形成していると感じています。
こうした点を踏まえ、私たちとしては珍しい「共同リード」という立場でラウンドに参加しました。裏を返せば、それだけの期待と、ソニーグループとしての協業可能性を見込めたということでもあります。
――ソニーグループとのこれまでの協業や今後の展望について教えてください。
深田:当ファンドでは、投資後のバリューアップ活動を非常に重視しています。ソニーグループはエンタテインメントや金融、テクノロジーなど多様な事業領域を展開しており、それぞれの領域において、コングラントとの連携の可能性があると考えています。実際に、ソニー銀行とは「GIVING for SDGs」プロジェクト を共同で展開しており、社会課題の解決に貢献しながら、企業としての価値や認知度向上にもつなげています。
また、GOJOサービスのローンチに際しては、ターゲットとなる大企業の視点から、プロダクトの磨き込みや顧客獲得戦略に関するアドバイザリーを行いました。Sony Acceleration Platformと連携することで、より実践的かつ多角的な支援が可能になったと感じています。
さらに、東京での活動拠点として、ソニー本社内のコワーキングスペースをご活用いただいています。新幹線が通る品川という立地も活かし、大阪本社のコングラントさんと日々Face-to-Faceで経営課題の壁打ちや相談を重ねながら、ソニーグループの総合力を活かした多面的な支援を行っていきたいと思います。
北川:今年2月に開催されたSony Innovation FundのLP総会では、コングラントの高橋さんにパネルディスカッションへご登壇いただきました。出資後の支援事例についてお話しいただいたほか、懇親会ではLPの皆さまや各社の重役にもご紹介し、我々のネットワークを最大限にご活用いただいています。
今後も、一株主としての関係にとどまらず、パートナーとして共に社会課題解決を目指しながら成長していける関係性を築いていきたいと考えています。
佐藤さん:今後の展望については、思い描いていることはたくさんあります。例えば、5年ほど前に海外の空港で見かけたのですが、ソーシャルセクターの活動紹介が流れるビジョンの横にクレジットカードの決済端末が付いていて、その場で寄付ができるようになっていました。こうした「生活の中に自然に寄付が組み込まれる仕掛け」を日本でも実現できたらと考えています。そのためには、私たちのサービスを広げるだけでなく、技術的な支援も不可欠です。ソニーさんの持つアセットを活用させていただきながら、新しい寄付のかたちや価値を共に創出していけたらと考えています。

寄付市場の拡大に不可欠な認定NPOの環境整備にも注力
北川:プラットフォームの提供に加えて、注力している取り組みがありますよね?
佐藤さん:はい。冒頭でお話ししたように、私たちはソーシャルセクターが抱える課題を共に解決していく中間支援組織を目指していますが、そのアプローチはプロダクトといったハードの提供にとどまりません。寄付市場の拡大、寄付文化醸成のためには、認定NPO法人の環境整備が不可欠です。その一環として、認定NPO法人の認知向上と成長支援を目的とした「認定NPOカンファレンスignite! 」を2025年11月に開催する予定です。
――なぜ認定NPOの環境整備が重要なのでしょうか?
佐藤さん:現在、日本には約5万のNPO法人がありますが、そのうち認定NPOはわずか1,200程度、全体の2%に過ぎません。認定を取得するには厳しい条件があり、小規模団体にとっては大きなハードルとなっています。その結果、寄付による税控除を実際に体験した人が非常に少なく、制度自体の認知も進んでいないのが現状です。
一方、アメリカでは約150万の控除対象となる非営利団体が存在し、寄付に対する税控除も広く浸透しています。アメリカやイギリスでは、過去1カ月に寄付をした人の割合は約50%に達する一方で、日本では約10%にとどまっています。この差は、寄付に触れる機会や仕組みの不足、そして税控除を受けた経験の少なさに起因していると考えています。
その背景として、日本特有の企業中心の社会構造も影響しているのではないかと感じています。社会貢献は企業が担うという意識が根強く、個人が自発的に寄付を行う文化が育ちにくかったのではないでしょうか。しかし、日本は今まさに転換期を迎えています。実はアメリカも、かつては同様の課題を抱えており、2010年頃から制度改革や文化醸成が進みました。今回の「ignite!」では、そのムーブメントを牽引したキーパーソンをゲストスピーカーとして招く予定です。海外の事例をベンチマークとしながら、日本の認定NPO、そして寄付のあり方そのものを変えていくモメンタムを生み出していきたいと考えています。

“想い”を届けるインフラをつくる
――コングラント社の今後の展望をお聞かせください。
高橋さん:私は金融業界出身ということもあり、従来の金融のアプローチでは支援が届きにくい領域に対して、寄付という手段で資金や機能を届ける仕組みを広げていきたいと考えています。現在、日本では10人に1人しか寄付をしていないと言われていますが、寄付を「特別な行為」ではなく、気づいたら誰もが自然に行っているような日常的な文化にしていきたいと考えています。
佐藤さん:数十年単位で見れば、日本の社会は確かに豊かになっていますが、その中でも支援が届かず、取り残されている人たちがいます。私がコングラントを立ち上げたのは、「誰かの役に立ちたい」「助けたい」という想いが、社会の中でより自然に循環する仕組みをつくりたいと考えたからです。
かつて、個人が荷物を届けることが難しかった時代に宅急便が物流を変えたように、私たちは、“想い”を届けるインフラをつくる存在になりたいと考えています。そのために掲げているのが、「寄付の年間流通額1,000億円」という目標です。現時点では実現が難しいと思われるかもしれませんが、私は達成できると信じています。もし実現すれば、売上も100億円規模となり、社会課題に取り組むスタートアップがここまで成長できるという証明にもなるはずです。ソーシャルセクターを通じて、全国の隅々まで“毛細血管”のように支援を届ける仕組みを構築していけるよう、これからも挑戦を続けていきます。

連載「Sony Innovation Fund presents Remarkable Startup」では、今後も定期的にスタートアップをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2025年7月時点のものです。