2025.12.19
北欧に学ぶ!イノベーションレポート ~ Innovation in the Nordics’ ~

サステイナビリティとビジネスイノベーションを両立させる北欧モデルとは?

Sony Acceleration Platformは、スウェーデンのルンドにも拠点があり、ヨーロッパを中心に世界の事業開発に挑戦するあらゆる企業の皆様を支援しています。

本連載「北欧に学ぶ!イノベーションレポート」では、北欧のイノベーション文化に気軽に触れていただけるよう、Sony Acceleration Platformヨーロッパ拠点のメンバーからのレポートを日本語でお届けします!

北欧モデルは、サステイナビリティとイノベーションとがトレードオフの関係ではなく、相互に強化し合う関係にあることを証明しています。システム、インフラ構造、そして初期段階の設計選択に焦点を当てることで、北欧は、いかにサステイナビリティが長期的な価値を生み出す源泉になるかをデモンストレーションしています。
サステイナビリティはもはや、副次的なプロジェクトやブランディングのための活動ではありません。北欧諸国では、イノベーション、コスト構造、そして長期的な競争力の中核となる要素として扱われています。サステイナビリティを念頭に置いて設計する企業と、それを後回しにする企業との間の差は拡大しており、多くの企業はすでにどれほどの遅れをとっているかに気づいていません。

本記事では、北欧諸国におけるサステイナビリティとイノベーションについて、すべてのビジネスリーダーが理解すべき8つのこと、そして多くの組織に見落されている点について紹介していきます。

 

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1. サステイナビリティは、「機能」ではなく、「設計上の決定」である

北欧企業は、サステイナビリティを後から”付け加える”ことはしません。彼らは製品、システム、サービスを”最初の日から”サステイナビリティを含めて設計します。材料、エネルギー、ロジスティクス、そして製品寿命(エンド・オブ・ライフ)に関する決定は、最もコストがかからず、最も柔軟に対応できる初期段階で行われます。これにより、北欧の産業は持続可能な開発において世界をリードすることができています。 

<見落されている点> 
後からサステイナビリティを踏まえた改良をしようとすると、しばしば、より高いコスト、サプライヤーの変更、そして避けられたはずの再設計が必要になります。最初から正しい選択をすることで、ビジネスを容易に進めることができます。環境規制は常に変化しています。最初に正しい選択をすることが、後々の頭痛の種を防ぐことになります。 
 

2. 廃棄物は、「課題」ではなく「資源」として扱われる 

北欧全域で、廃棄物が処分するものと見なされることはほとんどありません。それは「配分を誤ってしまった価値」として捉えられています。「ある人にとってはゴミでも、別の人にとっては宝( "One person's trash is another's treasure.")」(※)という昔からのことわざもあります。 
例として、Too Good To Goのような、デンマーク発の食品余剰プラットフォームがあります。これは、消費者とレストラン、パン屋、食料品店などの売れ残った食品を結びつけ、企業が余剰分から価値を回収しつつ、食品廃棄を大幅に削減することを可能にします。このプラットフォームにより、余剰分を見える化し、簡単に販売できるようにすることで、以前は処分費用だったものを新たな収益源に変えることができます。 
フィンランドのInfinited Fiberのような繊維リサイクル企業は、廃棄された衣料品や製造時の裁断くずなど、綿を豊富に含む繊維廃棄物を取り込み、それを化学的に再生して、新しい衣料品に紡績・織布できる高品質の繊維(Infinna™)に変えています。これにより、従来バージンコットンに依存し、埋め立てや焼却に悩まされてきた業界の中で、循環(ループ)を完結されることができています。 

※日本語では、「捨てる神あれば拾う神あり」や「蓼食う虫も好き好き」のようなことわざが近しい。 

<見落されている点> 
多くの企業は、廃棄物がどのような資源に変えられるかを問う代わりに、依然としてそれらを固定費として吸収しています。不適切な決定を「ビジネスを行う上で必要なコスト」として正当化すべきではありません。 

 

3. 循環型経済はシステムレベルで最も機能する

北欧諸国の大きな利点の一つは、単一の組織を超えて考え、代わりに「共有システム」のために設計しようとする意欲があることです。デンマークのKalundborg Symbiosis(カロンボー共生)は、複数の企業と公共事業体がパイプラインや共有インフラストラクチャを通じて物理的につながっている、長年にわたる産業連携です。発電からの余剰熱は家庭や産業プロセスを暖めるために再利用され、余剰の蒸気やガスは近隣施設に再配向され、処理された廃水は新たな地下水を取水する代わりに再利用されています。 
各参画組織は、個別に最適化するのではなく、システム全体から利益を得ています。具体的には、エネルギーコストの低減、原材料使用量の削減、排出量の減少、そして運用上のレジリエンス(回復力)の向上です。この共生は数十年にわたり有機的に進化しており、循環型経済モデルが環境的に健全であるだけでなく、実用的で拡張性があり、経済的にも魅力的であることを示しています。 

<見落されている点> 
 一つのビジネス内での孤立した最適化は、より大きなシステム効率を未開発のままにしてしまうことがよくあります。 

 

4. サステイナビリティはマーケティングではなく、インフラ構造として扱われる

北欧のサステイナビリティの成功は、キャンペーンによって推進されることはめったにありません。それは、地域熱供給、ごみ焼却発電プラント、リサイクルインフラ構造、エネルギーグリッドといった「物理的なシステム」によって推進されています。デンマークのコペンハーゲンのCopenHillごみ焼却発電プラントがわかりやすい例です。リサイクルできない廃棄物を何千もの家庭のための熱と電力に変えながら、その屋上には公共スペースも設置しています。 

 

 <見落されている点> 
根底にあるシステムに投資せずにサステイナビリティをブランディングしても、長期的な価値をもたらすことはめったにありません。 

 

5. 都市は、生きた実験室として扱われる

北欧の都市は、サステイナビリティ政策が実施されるだけの場所ではありません。それらは新しいソリューションのための「能動的なテスト環境」です。スウェーデンのストックホルムのRoyal Seaport(王立海港)は、大規模な生きた実験室として意図的に設計されました。スマートエネルギーシステム、循環型廃棄物フロー、低炭素モビリティ、そして高効率な建物が単一の地区内に統合されています。エネルギー使用量、排出量、モビリティパターン、廃棄物フローは継続的に測定されており、ソリューションは、管理された作為的な環境ではなく実世界に近い条件下でテストすることが可能です。そして、機能するものは改良され、都市全体やそれ以外の地域に拡大・複製されます。

企業にとって、これは貴重な機会を生み出します。つまり、ゼロからエコシステム全体を構築することなく、生のユーザー、実際のインフラ構造、そして生のデータへのアクセスが可能となるのです。 

<見落されている点> 
多くのビジネスにおいては、都市は、依然として顧客または規制当局としてのみ見られており、持続性のあるソリューションの開発、検証、そしてビジネス規模拡大のためのイノベーションパートナーや実証基盤としての潜在的な役割について、見落とされています。 

 

 6. 循環型社会には、より良い行動だけでなく、新たなインフラも必要

リサイクルと再利用は、それをサポートするインフラ構造が存在して初めて機能します。 
2021年に欧州グリーン首都に選ばれたフィンランドのラハティは、意識向上だけでなく、分別、価格インセンティブ、エネルギー回収、市民参加などのシステムを通じて、埋め立て廃棄物をほぼゼロに抑えることを達成しました。 

<見落されている点> 
システムを変えずに、顧客や従業員に「もっとうまくやるように」と求めるだけでは、めったに結果は得られません。 

 

7. 気候変動対策は、削減から除去へと進化している

北欧諸国は、次の段階もテストしています。アイスランドのCarbfixやOrca(Climeworks)のようなプロジェクトは、再生可能エネルギーを使用してCO₂を石に変える炭素鉱物化と直接空気回収を模索しています。 

<見落されている点> 
気候変動対策を「害を少なくすること」としてのみ扱うのではなく、除去と回収の道筋を模索していく必要があります。 

 

8. サステイナビリティはすでに競争上の差となっている 

おそらく最も重要な教訓は、サステイナビリティはもはや未来の優位性ではなく、「現在の差別化要因」であるということです。北欧のスタートアップや都市は、規制が変化を強制するのを待っていません。彼らは、サステイナビリティの制約が時間の経過とともに厳しくなるという前提で、ビジネスモデルとインフラ構造を構築しています。 

<見落されている点>
長く待ちすぎると、システムの変更に費用がかかり、対策を講じるのがより難しくなるリスクがあります。 

 

最後に 

北欧のサステイナビリティとイノベーションへのアプローチは、完璧さを目指すものではありません。それは「意図的な設計、システム思考、そして長期的な価値創造」に関わるものです。今日、新しいビジネスアイデアを開発している組織にとって、サステイナビリティに取り組むべきかどうかではなく、「それをモデルにどれだけ早く、真剣に組み込むか」ということが課題となっています。なぜなら北欧諸国では、サステイナビリティは願望ではなく、すでに競争力のあるビジネスが構築される方法の一部となっているからです。 

北欧の文脈でサステイナビリティとビジネスイノベーションがどのように両立するかを探求することに興味がある方は、Sony Acceleration Platformにご連絡ください。 

 

参考WEBサイト
Save Good Food From Going To Waste | Too Good To Go
Frontpage - Infinited Fiber
Home - Kalundborg Symbiosis
Welcome to CopenHill | CopenHill
Stockholm Royal Seaport - City of Stockholm
Lahti 2021 - Environment - European Commission
Carbfix  

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、960件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年11月末時点)

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