2025.10.30
BOOSTERS 100

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 バウンダリースパニングで挑むソニーグループの自治体連携

「BOOSTERS 100」は、Sony Acceleration Platformでイノベーションを阻む課題を共に解決してくださる企業・団体等をご紹介する連載企画です。Sony Acceleration Platformでは、特定の業界や業種に関する知識や技術を有する専門家を「ソリューションパートナー(以下、ソルバー)」として登録し、共にさまざまなソリューションを提供しています。

今回は、ソニーグループの企業の中で、通信とインキュベーションにより暮らしや社会を豊かにすることを目指すソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の取り組みについて、同社法人サービス事業部スマートシティ推進室の高橋とSony Acceleration Platformの小澤に話を聞きました。 

 

高橋 和陽 

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
法人サービス事業部 スマートシティ推進室

2009年にソニービジネスソリューション(株)※現ソニーマーケティング(株)に入社。ソリューション営業として、金融機関、企業、学校、自治体向けにソニーのプロダクトやサービス、システムを提案・導入する業務を担当。2023年よりソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社に異動し、AIや新規事業に関わるビジネスを推進。現在は法人サービス事業部に所属し、主にBtoB領域を担当している。 

小澤 勇人 

ソニーグループ株式会社
Sony Acceleration Platform アクセラレーター 

2005年ソニー株式会社入社。Play Station Portable 用チップセットのパッケージ設計エンジニアとして、設計、量産立ち上げを経験。Walkman, Xperia, Life Space UX のカテゴリで、商品、サービス、アプリケーションの商品企画に従事。現在は、Sony Acceleration Platform で、事業開発支援領域を担当し、資金調達、事業化実績に貢献。 

 

line

 

ソニーグループのシナジー

――ソニーネットワークコミュニケーションズは、どのような会社でしょうか。

高橋:ソニーネットワークコミュニケーションズは、1995年に設立し、今年30周年を迎えています。もともとはインターネットサービスプロバイダーである「So-net」からスタートしました 。個社として上場していた時期もありましたが、現在は、ソニー株式会社の子会社として「NURO」「So-net」などの通信事業を基盤としながら、法人ビジネスや新規事業、特にクラウドやAIといった分野の事業も行っています。

 

――ソニーネットワークコミュニケーションズとSony Acceleration Platformは、どのような形で連携しているのでしょうか。

小澤:AIが世の中のトレンドになる中で、Sony Acceleration Platformに寄せられる相談も、新規事業を企画・推進する上でAIを絡めた事案が自然と多くなってきていました 。ソニーネットワークコミュニケーションズでは「Prediction One」をはじめとするソリューションを持っており、ツールだけでなく、ソリューション開発についてもクライアントとやり取りされていると伺っていました。ちょうどPrediction Oneを使って支援したいという案件があり、去年の2月頃に相談したのがきっかけです。

高橋:そういったお話を受け、そこで、受託という形ではなく一緒に手を動かせる部分を手弁当でやってみましょうと、小澤さんとコミュニケーションを取りました。何社か一緒に案件もやりましたね。
Prediction Oneは、専門スキルがなくても、データを読み込ませれば自動でAIのモデル化ができる、いわゆるAML(Auto Machine Learning:自動機械学習)の基盤です。もともとはソニーのエンジニアが、例えば部品の故障率や不具合率といった「予測」を主にするために自前で作っていたツールでしたが、サービスとして外販することになり、ソニーネットワークコミュニケーションズが担当したという経緯です。現在はサービス単体での販売に加えて、その周辺領域のコンサルテーションも含めたサービス展開にも注力しています 。

小澤:連携が始まった頃、R&Dとソニーネットワークコミュニケーションズ、そしてSony Acceleration Platformの三者でソリューション提案ができるというニュース記事も出しました。Prediction Oneだけでなく、そこから派生したソリューションも含めて事業につなげられるという話の中で、高橋さんが中心となり、この三者でしっかりソリューションを出していくことを世の中に知ってもらう動きが必要ではないか、ということで打ち出したのがこのプレスリリースです。

高橋:そうですね。去年の「Sony Open Innovation Day 2024」にあわせて発表しました。新規事業自体は、世の中のコンサルティング会社も手掛けていますが、私たちはソニーのR&Dの技術も活用できる点が強みです。上流のコンサルテーションを手掛けるSony Acceleration Platformと、世の中にはまだ出ていないシード技術をうまく組み合わせ、さらにソニーネットワークコミュニケーションズがSIとして後段の工程も担うことで、ソニーグループとして一体で支援できることをPRしたい意図でした。

 

ソニーネットワークコミュニケーションズとSony Acceleration Platformで切り拓く、自治体との取り組み

――AIの連携から、どのように現在の自治体との取り組みに発展したのでしょうか。

小澤:ソニーネットワークコミュニケーションズと連携を発表してからは、AI周りの新規事業に関して、仮説構築から検証までを一気通貫で一緒に提案させていただいています。イベントでクライアント企業に対して共同で露出する活動も2回ほど行い、そこから実際に成約に至った案件もあります。そうした活動の中で、AIだけでなく、「エンタテインメント」や「グローバル」といったキーワードが話題に上るようになり、双方の強みを持ち寄ってクライアントを支援できないか、という話が出てきました 。

高橋:例えば、福岡市の案件ではグローバルでの企業マッチングが必要という課題に対し、私たちに何ができるかを相談させていただいたり、東京都の案件でも、AI、テクノロジー、オープンイノベーションの推進について相談いただいたりしています。福岡市も東京都も、AI、エンタテインメント、オープンイノベーションといったテーマ設定がされていますので、Sony Acceleration Platformとソニーネットワークコミュニケーションズの双方のソリューションを持ち寄り、クライアントをどう支援できるかディスカッションを重ね、一緒に提案書を作成しています。

――その結果が、福岡市の「RAMEN TECH」の企画運営に繋がったのですね。採択にあたり、どういった点が評価されたのでしょうか。

高橋:もともと福岡市さんとは3年ほど前からお付き合いがありました。福岡市は2012年に「スタートアップ都市宣言」をされるなど、スタートアップを盛り上げていこうという風土が強い地域です。
3年前に、福岡市がPoCの実証実験フルサポート事業を実施されるにあたり、福岡市より直接お声がけをいただきました。2023年の1月には、R&Dチームと共同で見守りサービスの実証実験を福岡市東区の箱崎小学校で実施させていただいたご縁があります。そうした関係性の中で、今回の「RAMEN TECH」の公募についても一緒に取り組む流れになりました 。
加えて、RAMEN TECH自体は、ソニーグループとしてSony Acceleration Platformにもマッチングなどでご協力してもらいつつ、オープンイノベーションや外部連携の観点では、ソニーネットワークコミュニケーションズと日本総合研究所(SMBCグループ)ともタッグを組んで提案しました 。2~3年の関係構築があったからこそだと思っています。

小澤:オープンイノベーションという点は、一定の評価をいただいていると思います。自治体としては、一つの会社に予算を集中させることは好ましいとは考えていません。オープンイノベーションによって新しいものが生まれると期待されているので、多くの企業を巻き込んでいることが重要です。複数の企業で取り組むことは、多様性の観点から評価されます。
特に、ソニーミュージックやソニーネットワークコミュニケーションズなどソニーグループ各社と一緒に取り組むこと、さらにソニーグループ外の企業も巻き込める座組であること自体が、トレンドとしてニーズがあるのだと思います。

高橋:結果として、バウンダリースパニングという文脈で、グループ内だけでなく外部のパートナーさんの力も借りなければ、RAMEN TECHは実現できませんでした。この実績、ファクトが残ることが非常に大きいです。
自治体や官公庁との取り組みという領域では、実績の有無が非常に大きい。福岡市で受託しアウトプットがあること、後ほどお話しする東京都との3カ年でご一緒させていただく実績ができることで、今後他の自治体・官公庁案件の提案のゲートを通過できる確率が格段に上がります。

――RAMEN TECHの反響はいかがでしたか。

高橋:おかげさまで、個別に色々な自治体や企業の皆様にも新しいお話をいただくなど、繋がりが広がっていると感じました。イベントをきっかけに、次のステップについてのコミュニケーションも取れました。
この後、11月には福岡市さんがヨーロッパに行き、Sony Acceleration Platformヨーロッパ拠点が連携しているMINC(※)と一緒に、ヘルシンキで開催される「Slush」 という北欧のイベントに合わせて、共同プログラムを企画しています。この連携がなければ生まれなかったラインであることは、間違いありません。

※MINC:スカンジナビア初の市営インキュベーターの一つとして2002年に設立された、マルメ市の支援を受ける非営利団体。

小澤:イベント単体ではなく、その後にも繋がっていますよね。Sony Acceleration Platformとしては、同イベントで、スタートアップや福岡市さんが色々な会社とマッチングするお手伝いをさせていただきましたが、その活動は今も各企業・団体との面談やマッチングとして継続しています。今、自治体・企業の双方から求められているのは「オープンイノベーション」です。イベント開催だけでなく、そこに参加した人たちの未来にも繋がっていて、契約やイベントという期間だけではない、長い繋がりが生まれています。

――逆に、グループ内外の企業とのチームアップにおける苦労などはありましたか?

高橋:ソニーの面々はある意味、”我が強い”。それは良いことで、自分たちの軸があり、自分たちのサービスをどう最大化できるかを考えるのは当然です。ただ、イベントのように複数が関わると、どうバランスを取るか、どこかを通す代わりにどこかは我慢してもらうといった調整が、関わる企業が多ければ多いほど大変でした。

小澤:高橋さんは、実際に現地である福岡にも行って、密に連携を取られていましたね。関わる会社が多ければ多いほど、文化や「当たり前」の考え方が違いますからね。

高橋:コミュニケーション頻度はもちろん、全体最適を考えることが非常に重要です。イベントそのものの目的は何か、最優先事項は何か、という点に立ち返ることです。
各セクションは、例えば展示などで自分たちをどう見せるかを最大化しようとしますが、各所が部分的に光っても、そのせいで周りが暗くなったら意味がありません。
「目的はここなので、あなたたちがやりたいことの一部は寄与するけれど、この部分は全体で見るとギャップが出るから抑えてくれないか」といった話を関係各所としていく。皆さんそれぞれの熱い思いがあるので、それがソニーグループの活気にもなっている反面、大変さにも繋がっています。本来の目的に立ち返って、ロジックで順番にコミュニケーションを取ることを徹底しないと、感情論になってしまいますから(笑)。

――福岡に続き、東京都のTIB CATAPULTの「クリエイティブ エンタテインメント クラスター」にも採択されました。こちらの狙いはどういったところでしょうか。

小澤:TIB(Tokyo Innovation Base)は、東京からイノベーションを巻き起こすことを目指し、世界中のイノベーションの結節点として東京都が設置しました。東京都は、TIBを起点に、成長可能性が高い技術や産業の分野を集中的に支援するため、令和6年度から「グローバルイノベーションに挑戦するクラスター創成事業(通称「TIB CATAPULT」)」をしています。
私たちソニーグループは、令和7年度のTIB CATAPULTの「クリエイティブ エンタテインメント クラスター」として採択されました。
エンタテインメント事業創出に向け、ソニーミュージックソリューションズからの加速支援や、ソニーネットワークコミュニケーションズからのAIやテクノロジー、ソリューション開発、ネットワークサービスの実装の支援をスタートアップに実施していきます。また、東京や日本のスタートアップが海外にどう展開していくかを支援するプロジェクトなのですが、Sony Acceleration Platform Europe からの海外マッチング支援や、ソニーネットワークコミュニケーションズのAIやネットワーク構築、またはそれに伴うコンサルティング支援も実施していきます。一つでも多くのスタートアップがグローバルに発信できることに繋がればと思っています。

――これからどんな仲間に集まってほしいですか。

小澤:海外進出への支援という観点では、Sony Acceleration Platformはヨーロッパに拠点があるので、現段階ではヨロッパの企業を中心に紹介しています。しかし、お客様の目線に立つと、米国やアジア、アフリカ、南米と繋がりたいというニーズもあるでしょう。ソニーではそうした接点をグローバルに持っているので、お客様のニーズにあわせてサポートしてくれる、したいというパワフルなメンバーが必要です。

高橋:パワフルな方々が連携の中に入ってきてくれれば、この活動もよりパワフルになると思っています。この記事を見て「私もやりたい」という人が現れてくれることを期待したいですね。

 

なぜ今「自治体」なのか

――こうした自治体案件を手掛けることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

高橋:私がソニーマーケティングにいた頃は、大きなマーケットでは色々なプレイヤーがひしめき、周りの企業との役割のカニバリなどが日常茶飯事でした。それは、きちんと市場に対してリーチができており、ぶつかるということは各パートナー企業も含めてアクションをされていることでもあるので、ポジティブなことだと思います。ただ、それにより内部調整に時間を要して、タイミングを逃すというリスクもあるも事実だと考えています。その点、官公庁領域は、お客様のことだけを考えて提案することに注力できます。

小澤:自治体の案件の場合、他の競合他社を巻き込みやすい側面もあります。例えば今回のTIB CATAPULTでは、エンタメがテーマですが、もし私たちソニーだけで取り組みを構えていたら、他社のIP(知的財産)を持っている企業は参画しづらいかもしれません。しかし「自治体の活動」となれば、参画してくれる可能性がある。私たちは、バウンダリースパニングをやりたいわけですから、自治体というオープンな場を借りてネットワーキングができるのは、非常に有益であると考えています。

 

ソニーが描く「遊び」が「ビジネス」になる未来

――今後の展望について教えてください。

高橋:ソニーネットワークコミュニケーションズでは今年2月に法人サービス事業部内に「スマートシティ推進室」ができました 。名前の通り、まちづくりを自治体と一緒にビジネスをやっていく組織です。社内で協力を得ながら、事業部長に「作ってほしい」と直談判しました。「そうしないとビジネスが動かない」と―。想いに共感をいただき実現できたことは、社内の多くの方に大変感謝しています。自治体からすると、これまでは属人的な繋がりだったものが、組織ができたことにより会社としての「本気度」が伝わります。組織としてコミットしていると分かれば、自治体側も私たちにお願いしやすい。
このスマートシティ推進室を起点とし、あらゆる自治体ともソニーのサービスを活用しながら、体験価値やUX/UIといったサービスを展開していきたいです。RAMEN TECHでSony Acceleration Platformをはじめとしたソニーグループ各社と連携したように、他の地域でもそのスタンスは変えずにビジネスを進めていくことがベースになります。

――なぜ今、自治体とエンタテインメントの組み合わせが注目されているのでしょうか。

小澤:「日本から世界に」という点で、自治体の皆様もソニーに期待を寄せていただいていると思います。エンタメドライブで日本を明るくしてほしい、と多くの人が思っているのではないでしょうか。そして、その目線はみんな「世界」なんですよね。

高橋:経済産業省が出しているデータでも、日本のコンテンツビジネスが、半導体などの「ものづくり」分野の数字を抜いた、というものがあります。コンテンツ産業は、日本の基幹産業・輸出産業として非常に大きい。一方で、自治体は人口減少という課題を抱え、どうやって観光人口を定住人口に繋げるかという文脈で試行錯誤されています。 人に来てもらうためには、何か体験価値、ロケーションベースのエンタテインメントが必要です。IP(知的財産)をきっかけに地域に興味を持ってもらい、来てもらい、魅力を感じてほしい。その最初のフックとして、米津玄師さんやYOASOBIさんのようなワールドワイドで知見のある方々と連携し、地域の魅力を知ってもらうことへの優先度が、自治体の中でも非常に高いと見受けられます。

小澤:ソニーと自治体というのは、時代の流れも相まっていると思います。AIが進化すれば仕事が効率化され、余暇が長くなる。その「空いた時間をどうエンジョイするか」というニーズが大きくなっていく。ソニーはエンタメに力を入れて世界を感動で満たそうとしている。自治体も大きくなるニーズを捉えたスタートアップを応援して、事業を生み出そうとしている。時代の流れが相まっているこのタイミングで、苦労はあっても関われるのは幸せなことだと思います。

高橋:私も同感です。歴史を見ると、エンタメ、つまり”遊び”から仕事が生まれるのは、世界のムーブメントとして違和感がありません。サッカーもそうですし、インフルエンサーもまさにそうです。エンタメ起点で生まれた先進的な体験が、時間を置いて次の新しいビジネスになる可能性は、歴史的に見てもあり得ます。ソニーグループはその強みを持っていて、そこに関われていることは、後々会社全体にとって非常にプラスに働くと感じています。

小澤:まさにソニーは、音楽や映像、ゲームなど、より豊かな時間を過ごしたいという人々の想い、ニーズに応えてきた会社ですが、今はエンタメの幅が広がり、求められる形が少しずつ変わろうとしている中、リアルとバーチャル、多様性に応える形をオープンイノベーションで生み出していく動きが必要なのではないかと考えています。
私たちSony Accelration Platformは、バウンダリースパナーとして、ソニーネットワークコミュニケーションズを含むソニーグループ内との連携だけでなく、自治体、大企業、スタートアップとのの連携をして、イノベーションを生み出していきたいと思います。 

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、920件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年9月末時点)

ランキング