2025.07.10
BOOSTERS 100

株式会社V 「作って終わり」にしない、人が集まり続けるメタバースのコミュニティの構築とその先へ

「BOOSTERS 100」は、Sony Acceleration Platformでイノベーションを阻む課題を共に解決してくださる企業・団体等をご紹介する連載企画です。Sony Acceleration Platformでは、特定の業界や業種に関する知識や技術を有する専門家を「ソリューションパートナー」として登録し、共に様々なソリューションを提供しています。

今回は、Sony Acceleration Platformの出資先でソリューションパートナーでもある、メタバースという新たな市場で活躍されている株式会社V(以降、V社)の藤原さん、Sony Acceleration Platformのアライアンス担当の高橋、出資担当の寺井に話を伺いました。本記事では、ソリューションパートナー制度、そしてソリューションパートナーであるV社の魅力をお届けします。 

藤原 光汰さん

株式会社V 代表取締役兼CEO

AIレシピ提案アプリを開発するスタートアップを共同創業。その後、株式会社バンクに入社。即時買取アプリ「CASH」と後払い旅行サービス「TRAVEL Now」の立ち上げを担当したのち独立。2019年に株式会社Vを創業後、メタバース主要プラットフォームである「VRChat」「Roblox」において国内最大級のコミュニティを運営。 

寺井 岳見

ソニーグループ株式会社 Sony Acceleration Platform アクセラレーター 

大学卒業後はコンサルティングファームに入社し、経営戦略やプロジェクト推進を担当。その後、大企業とベンチャー企業で経営・事業企画、財務戦略、管理業務全般に従事。ソニーグループ株式会社入社後は、Sony Acceleration Platformにて新規事業の経営管理と財務戦略の担当として、大企業とベンチャー企業で働いた経験を活かし新規事業における経営管理業務フローの策定等の支援を行う。

高橋 拓也

ソニーグループ株式会社 Sony Acceleration Platform アクセラレーター

大手通信キャリアにて、本業の通信事業を軸としたエコシステムの構築に向け、新たなライフデザイン事業領域に従事。特にコマースビジネスでは、アメリカの大手テックカンパニーをはじめとした企業とマーチャンダイジング(商品計画・商品化計画)を軸としたアライアンスに取り組む。その経験を活かし、ソニーグループ株式会社では、Sony Acceleration Platformにてアライアンスやパートナーシップを統括し、社外とソニーグループとの新結合も推進。

 

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Sony Acceleration PlatformとV社のはじまり

――はじめに、Sony Acceleration Platformの「ソリューションパートナー」について教えてください。 

高橋:Sony Acceleration Platform では、我々と共にソリューションを開発し、イノベーションを阻む課題を共に解決して頂ける企業や専門家をソリューションパートナー(ソルバー)と呼び、2023年からソルバーの募集を行っています。 ソリューションパートナーには、Sony Acceleration Platformと共にソリューションを提供頂く「協業型」と Sony Acceleration Platform が支援するお客様のご要望に応じて、お客様とお繋ぎする「紹介型」があります。 
お客様の課題に合わせて、都度最適なスキームでソリューションをご提案しています。 

 ――V社の出会いを教えてください。 

寺井:最初は2023年の年末に、ご紹介いただいたことがきっかけです。年明けの2024年に藤原さんにお目にかかりお話をさせて頂きました。メタバース市場は今後成長が見込まれ、その中でもV社の事業に力強さを感じ、また私たちのアクセラレーションサービスとも連携もできると感じました。 

 藤原さん:そうですね。最初にSony Acceleraion Platformの皆さんとお話ししたのは1年ほど前で、私たちとしては是非ご一緒したいという思いが強かったんです。メタバースは2021年以降バズワードになりましたが、私たちはそれ以前からこの分野に取り組んでいて、もっと先の未来に波が来ると予測していました。しかし予想より早く波が来てしまい、多くの企業が参入したにも関わらずうまくいっていない現状がありました。この状況をスタートアップ1社の力だけで突破するのは難しいと感じ、Sony Acceleration Platformとの連携を通じて、多くの企業の課題解決に貢献できるのではないかと考えました。 

高橋:ソニーには、Sony Innovation Fundやソニーグループ各社などに出資の機能がありますが、藤原さんにお会いして話すうちに、ソニーグループ株式会社に所属する私たちSony Acceleration Platformと密に連携するために直接支援する可能性もあるのではないかという話になりました。お客様の中にはメタバースの活用に大きな課題を抱えている企業が多いため、V社と繋ぐだけでなく、私たち自身が出資する選択肢もあり得ると―。そこで、寺井と相談し出資の話が進んだという流れです。 

寺井:V社は企業の魅力もありましたが、 何より、接する中で、また周りの方からお話を伺う中で、 藤原さんの人柄に惹かれたことが出資を決意する要因の大きな部分を占めたと思います。戦略的な構想力にも長けている藤原さんのお話には説得力がありましたし、収益をあげることへの意識が強いこと、事業に対する想いや粘り強さに、 将来的な勝ち筋が見えていると感じました。ちょうど出資先を探していたタイミングでもあったので、ここだと。 

藤原さん:本当に奇跡だったと思いますね。何か一つでもずれていたら、こうはなっていなかったでしょうから、すごく感謝しています。 

藤原氏が描くメタバース事業のビジョンとV社の強み 

――藤原さんのこれまでのキャリアからメタバース事業の立ち上げに至るまでの経緯を教えてください。 

藤原さん:私はもともと学生時代にAIレシピアプリを開発し、起業をしました。ただ、大きな事業をつくるためには社会人経験を積んだほうが良いと考え、 その後は株式会社バンクのプロダクトマネージャーとして即時買取アプリ「CASH」や後払い旅行サービス「TRAVEL Now」といったサービスの開発・拡大に携わりました。そこでプロダクトでお金を稼ぐ経験を積んだのです。仕事はすごく楽しかったのですが、周りの同年代が活躍しているのを見て、もう一度自分で何かをやりたいという思いが再燃し、起業しました。 

最初はメンズファッションレンタルサービスからスタートしましたが、コロナ禍で顧客ニーズが激減し、ゲームコミュニティ領域へとピボットしました。私はメタバースが、一部の熱狂的なユーザーが深く没入する「サマーウォーズ」のような世界になると思っています。元々は、この事業が”マス”になるのかという目線で事業領域を選んでいましたが、このメタバースの領域においては、マス層を狙うよりその領域で熱心に活動する人たちのライフスタイルを徹底的に豊かにする方が、結果的に市場規模も事業規模も大きくなると考えています。 

――現在のV社の事業内容と、その強みについて教えてください。 

藤原さん:私たちは、メタバースに時間を投資している方々の生活を豊かにするライフスタイルサービスを開発・提供するBtoC事業と、その知見を活かして企業や自治体のメタバース事業を支援するBtoB事業を展開しています。 

特に力を入れているのは、具体的な数字を伴う対外事例の公開です。多くの企業がなかなか良い事例を公開できていない中、私たちは成功事例を積極的に出すことで、この領域への参入を検討する企業にとってのハードルを下げたいと思っています。BtoC事業では、今年も10個ほどの新規プロダクトを「まずはやってみる」という姿勢で開発を進めていて、これも実績として他社が取り組みやすくなるきっかけになればと考えています。 

BtoB事業では、新規参入と既存事業がうまくいっていない企業の両方を支援していて、割合は半々くらいですね。お客様のメタバース事業がうまくいかない原因の多くは、プラットフォーム選定の誤りローカライズのミスのどちらかに集約されます。例えば、人が集まらないプライベートな空間を作りすぎたり、日本のコンテンツをそのまま海外に持っていこうとしたりするようなケースです。私たちは、人が滞留しているプラットフォームへの移行支援や、その文化・ユーザーに合わせたコンテンツ展開を通じて、課題解決を支援しています。 

 高橋:V社の強みは、ワールド制作などメタバース事業への参入や集客だけでなく、その先にあるコミュニティ構築、そしてマネタイズまでをビジネスとして成立させる一気通貫したノウハウと支援実績がある点ですね。V社に相談すれば、新たなメタバース事業の参入や、既に参入したメタバース事業のお悩みなど、お客様の課題に応じた専門性の高いサポートを受けることができます。 

藤原さん: ありがとうございます。私たちは、コンサルティングや制作的な機能はもちろん持っていますが、やはりその後のグロース(成長)の部分に非常に強みがあると感じています。メタバース空間に一時的に多くの人に来てもらうことはできても、継続的に来てもらうためのコミュニティ作りやリピート基盤の構築は非常に大変です。そうした部分まで含めてカバーできる点が、私たちの大きな強みだと思っています。 

コミュニティ構築・運営のポイントとマネタイズの具体事例

―― コミュニティ構築の難しさと、それを克服するポイントについて具体的に教えてください。 

藤原さん:よくあるのが、新しく入ってくる人が馴染みにくいコミュニティは新規を取り込みづらいという話ですね。学校の転校生に例えると分かりやすいのですが、みんなが迎え入れるモードじゃないと、転校生は絶対に馴染めません。 

私たちが成功している施策の一つに、「グリーター制度」というものがあります。これは、コミュニティの中に、新しく来た人を歓迎し、サポートする役割の人がいる状態です。彼らは金銭ではなく、「このコミュニティが楽しいから、新しく来た人にも同じ楽しみを感じてほしい」という純粋な熱量で動いています。こういう人たちが新規の人とコミュニケーションを取り、定着を促す仕組みができると、離脱が減り、内輪だけの楽しさで終わらないコミュニティが作れるのです。 

メタバース空間で人が集まり続けるには、イベント時だけでなく、恒常的に人が集まる「目的」を定めることが不可欠です。例えば、ゲームコミュニティなら、一緒にバトルする仲間を常に集める必要性や、強い人とプレイしてランクを上げるといった目的が人を惹きつけます。 

具体的な事例として、私たちがゼロから作って今や30万人規模のユーザーがいるメタバース空間があります。ここでは、初心者向けのチュートリアルワールドを作りました。メタバースの世界では、そこに参加し始めたばかりの人が「どこに行けばいいかわからない」という課題があったのですが、それは、そもそも各プラットフォーマーがチュートリアルを用意していなかったからだと考えました。そこで私たちは、その場を作りました。すると、「ユーザーは一度訪れたら二度は利用しないのではないか」と予測していたのですが、これが恒常的に人が来て滞留する場所になったのです。初心者を案内したいユーザーが自然と集まるようになり、まるで大学のサークル勧誘のように賑わうようになりました。有志のメンバーがイベントを定期的に開くなど、自然発生的に目的がなくならない「カルチャー」が形成されています。 

高橋:V社の素晴らしい点は、コミュニティを構築し恒常的な集客を実現するだけでなく、しっかりとマネタイズされている実績を多くお持ちだという点だと思います。例えば、大手百貨店様の事例では、百貨店の新しい顧客接点の場をメタバース空間に創り、集客だけでなく、実際に購入することができるビジネスとしての仕組みまでが成立していますよね。

藤原さん: はい。大手百貨店様の事例は、既存事業に依存しない新しい領域の事業を作る必要がありました。百貨店のご担当者の皆様がお客様とのコミュニケーションを非常に丁寧に行うので、ECサイトのような平面ではできなかった、オフラインの接客のレベルの素晴らしさが3D空間のメタバースに大きな強みとなっていると感じています。

大手百貨店様事例:メタバース空間

高橋:「作って終わり」ではないところが、私たちとしても非常に頼もしいです。そして、もう一つ私がお話をお伺いして印象深かったのが、横須賀市の事例です。横須賀市のワールド制作とプロモーションを支援された結果、最終的にメタバースをきっかけに横須賀市を実際に観光に訪れてくれる方も増えてきたようですね。

メタバースというバーチャルな空間の体験やコミュニティが、実際に生活する場所を変えるほどのインパクトを持つというのは、ビジネスの観点からもとても大きなポテンシャルを感じます。 

藤原さん: 横須賀市の事例では、もともと「メタバースヨコスカ」というワールドがあり、私たちはその後の他プラットフォーム展開やプロモーションをお手伝いしました。横須賀市がお持ちの興味深いデータとして、「3回以上横須賀を訪れた人の移住率が一定数上がる」というものがありましたので、そのうちの1回をメタバースで体験してもらおうという発想があったのです。 

メタバース、特にVRChatのような活況なプラットフォームでは、仲良くなるとリアルでオフ会をする文化があるのです。地の利もあり、首都圏近郊の人が横須賀市でよくオフ会をやっていました。私もリアルツアーに参加した際、「初めて行った場所なのに、どこか見覚えがある」という感覚になりました。それはまさに、アニメや映画の聖地巡礼と似た感覚がメタバースで醸成された瞬間でした。これは非常に素晴らしい体験で、個人的にも広げていきたいと思っています。

高橋:「メタバースヨコスカ」の成功事例は、エンタメ地方創生というキーワードにも繋がりますね。今後の成長領域として、我々としても非常に力を入れたいテーマの一つなので、ぜひ連携させていただければと思います。バーチャルとリアルのシームレスなスキームが素晴らしいと感じました。改めて、横須賀市の取り組みが成功した要因は何だったのでしょうか。 

藤原さん:成功要因は大きく二つあります。一つは、多くの自治体が陥りがちなWebアクセス型メタバースではなく、VRChatという人が滞留しているプラットフォームを選定できたことです。Webでアクセスできるメタバースでトラフィックがあるところはほとんどありません。もう一つは、「作って終わり」ではなく、ほぼ毎月イベントや施策を継続的に実施していることです。ユーザーとの接点を持ち続けることで、コミュニティがしっかりと根付きました。 

未来への共創:V社とSony Acceleration Platformとの連携 

――今後の展望についてお聞かせください。 

藤原さん:私たちV社は、引き続きBtoB事業で様々な企業様との取り組みを増やし、今年、来年と通じて、メタバース領域の企業で日本一を目指したいと考えています。Sony Acceleration Platformとは、引き続きメタバースを活用した新規事業の成功事例を増やし、「メタバースが新規事業の選択肢として十分あり得る」という認識を広めていきたいです。 

メタバースの今の状況は、新しいメガプラットフォームが登場した時とかなり似ていると感じています。SNSが登場した際に、接点を作っておいて良かったと感じたのと同じような状況です。ある程度情報が出揃っている現在、改めてメタバースに取り組んでみるというのは、非常に良い意思決定だと思いますし、いずれ活用することになるのであれば、今がちょうど良いタイミングだと強く感じています。是非、どんな些細なことでもお気軽にご相談ください。 

高橋:私たちSony Acceleration Platformとしても、メタバースを重要な成長領域と捉え、V社と共にこの分野を強化し、お客様を支援していきたいです。V社との連携に対する複数の引き合いが来ておりまして、このスキームがお客様の課題解決に貢献できていると実感しています。 

特に、若年層との接点強化に課題を抱えている企業がとても多い中で、メタバースが新しいアプローチとして有効であることも積極的に伝えていきたいですね。V社が提言するメタバース空間に「人がいることの重要性」、特にVRChatに”暮らしている”ユーザーが2000万人もいる、この巨大なマーケットは、新しい消費者セグメントとして大きなビジネスインパクトがあります。Sony Acceleration Platformのお客様が持つ課題に対し、V社と連携してZ世代やアルファ世代向けのビジネスを創出するなど、メタバースを活用した新たなエコシステムを構築することを目指していきたいです。 

また、海外展開も見据えているV社との連携を通じて、海外の有望なテックカンパニーとのアライアンスの可能性も含め、今後は日本だけでなくグローバルでの展開も視野に入れていきたいと考えています。 

メタバース事業参入にご興味をお持ちの方や、既存のメタバース事業に課題をお持ちの皆様は、是非Sony Acceleration Platformにお声がけください。 

 

V社 実績ギャラリー

島根県江津市「岩見神楽」メタバース化

 

『無職転生Ⅱ ~異世界行ったら本気だす~』VRChat向け3Dアバター衣装の制作・販売

人気VTuberグループ『あおぎり高校』メンバーのVRChat向け3Dアバター衣装を制作・販売

 

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いかがでしたか? 

Sony Acceleration Platformでは、V社のように私たちと共にイノベーションを阻む課題を解決していただけるソリューションパートナーを募集しています。ご興味のある企業からのお問い合わせをお待ちしております。 

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、880件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年6月末時点)

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