Sony Acceleration Platformでは、大企業の事業開発を中心に、さまざまなプロジェクトを支援しています。 本連載では、新しいアイデアや技術を商品化・サービス化する企業や起業家など、現在進行形で新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。
身近なアイデアを直感的に形にできる、ソニー生まれのIoTブロック「MESH™」。誕生から10年という大きな節目を迎えた今、MESHは単なる「プログラミングを学ぶ教材」という枠を飛び越え、より多様な社会の現場へとその価値を広げています。社会的な価値と、ビジネスとしての持続可能性―。簡単には割り切れない二つのテーマに向き合いながら、次の10年へ向けて歩みを進めるMESHプロジェクトチームの今、後編です。
ソニーマーケティング株式会社
B2Bビジネス本部 統合戦略部門 B2Bビジネス1部 MESH事業室





アイデアを即座に具現化する。開発者も驚く、「アントレプレナーシップ教育」や「インクルーシブメイキング」の現場におけるMESH
――こうした「できた!」という気づきの連鎖は、他の現場にはどのように派生しているのでしょうか。
杉本:一つの特徴的な事例として、昨年の東北学院大学で行った「アントレプレナーシップ教育」の一環での取り組みがあります。参加者が高校生から大学生、そして保護者の方々まで非常に幅広い年代でした。どうしても座学になりがちな分野ですが、MESH があることで、頭の中にあるアイデアをその場で 10 分、20 分で形にすることができます。「小さく試して、すぐ形にできる」という手触り感を、教育の現場に持ち込めたのは大きかったですね。
高校生、大学生、保護者という、異なるバックグラウンドを持つ人たちがチームを組むからこそ、世代を超えた共創が次々と生まれました。もともとある困りごとを解決するというよりは、MESH というツールがあることによって、アイデアを形にしながら発想がどんどん広がっていく。年齢や立場に関係なく、皆でひとつの課題に向き合って、即興的に仕組みを作っていける。これこそが、これからの時代に必要なアントレプレナーシップのリアルな学びなのだと感じています。
皆さんが目を輝かせながら「これなら自分たちで課題を解決できる!」と試行錯誤している、普段は直接見る機会がない利用者の姿を直接目の当たりにして、開発者としてはドキドキしながらも、私自身もその熱量に刺激を受け、本当に嬉しい瞬間がたくさんありましたね。また、次なる開発のヒントも得られました。
――もう一方の広がりの事例として、福祉領域やインクルーシブなものづくりの現場でも大きな気づきがあったそうですね。
飯田:はい、一般社団法人 Arc & Beyond と連携して進めている「インクルーシブメイキング」という活動があり、その一つとして昨年から「超人スポーツ DIY」というプロジェクトに取り組んでいます。テクノロジーの力を借りて、年齢や性別、あるいは身体的な障がいの有無といった壁を越えて、さまざまな人が一緒に楽しめる新しいスポーツを自分たちの手で作ろう、というプロジェクトです。
これまでの超人スポーツは、最先端の IT スキルを持つエンジニアや研究者でなければシステムを作ることができませんでした。ですが、そこに MESH と AI を組み合わせることで、「技術がないから難しい」というハードルを下げ、プログラミングの知識がない方でも、自分たちで新しいスポーツのルールや仕掛けを作れるようになりました。
例えば、AIを使って生成したゲームに、MESHのセンサー入力やPC操作を組み合わせることで、自分の身体の動きが画面上のアクションにつながるような仕組みを作ることができます。
参加者は、身体の動きとゲームの中で起きる現象がどうつながると楽しいかを考えながら、ルールや仕掛けをその場で試し、少しずつ新しいスポーツの形にしていきます。あらかじめ決められた競技を体験するのではなく、皆で「どんな動きなら楽しいか」「どんなルールなら一緒に遊べるか」を考えながら作っていける点に、この取り組みの面白さがあります。
お互いに「新しい遊び」を共創できる楽しさを体感しているユーザーの皆さんを見て、テクノロジーは人の可能性を制限するものではなく、お互いを包摂し合うための優しいツールになれるのだと、開発者としても大きな刺激を受けています。
教材を超えて、人と人、人と社会を優しくつなぐ「境界線を解きほぐす」テクノロジーの本質
――学校教育、少年院、大学のアントレプレナーシップ教育、そして「超人スポーツ DIY」 まで、多様な現場のお話をお聞きしました。これらの事例を俯瞰し、総じて MESH とはどのような価値を提供する存在だと言えるでしょうか。
原:これらの活動を俯瞰して、私たちが得た最も深い気づきは、「MESH には、さまざまな境界線を解きほぐしていく力がある」ということです。
学びへの苦手意識という境界線、自分と他者という境界線、あるいは課題と自分との間にある境界線―。「プログラミングなんて自分にはできない」と心を閉ざしてしまっていた状態から、MESH というツールを介して「あ、自分にもできるのだ」という手応えを掴む。そうして、一度はあきらめかけた学びや自信をもう一度取り戻していく。
そしてさらにその先にあるのは、「人と社会の接点」を解きほぐすことへとつながっていきます。社会から孤立しがちだったり、他者との関係性が希薄になっていたりする人たちが、MESH という共通のゴールと試行錯誤のガイドを介することで、自然と会話が弾み、他者と協調し、社会と再び優しく繋がっていく。
ただ技術や知識を身につけるための「教材」に留まらず、人と人の間、そして人と社会の間にある境界線を柔らかく解きほぐし、参加者が自らの可能性に気づいて社会との接点をもう一度つなぎ直していくこと。それは、MESH というプロダクトが提供する新たな魅力であると感じています。
「ツールと環境」を提供し続ける次の 10 年へ。小さな挑戦から、社会の多様な現場を支える存在へ
――素晴らしいお話をありがとうございます。最後に、皆さまが描く「次の 10 年」のビジョン、そしてこの記事を読んでいる皆さまへのメッセージをお願いします。
原:私は、今携わっている少年院の活動が一つの大きな実績、事例になっていくと思っています。ここからさらに、例えば少年院を出た後の少年たちの社会復帰の継続的な支援や、あるいは、色々な格差が生まれてしまうところに、この MESH の「できた!」という体験や原体験をしっかりと届けに行きたい、広げていきたいと思っています。
飯田:今までは「できた!」や、その場でプロトタイプを作る「0 から 1」の体験を届けるのがメインだったと思います。そしてこれからは、せっかく作った仕組みを日々の生活の中で「持続的に使っていく」、それを「より多くの人に広げていく」という、日常に根ざして使われ続けるような進化にも挑戦していきたいです。
杉本:本当に技術の進化は、10 年前と比べるととても早いですよね。AI もしかり―。しかしどんなに周りの環境が変わっても、やはり「人がアイデアを形にしたい」「形にできると嬉しい」というパッションは、この先も変わらないと思っています。私たちが 10 年前から脈々と届けてきた MESH の価値を、いまの時代、そしてこれからの 10 年やその先の未来の視点で、常に「人々の創造性」に寄り添う形で再定義し続けたい。それをこのチーム全員で一緒にやっていきたいですね。
萩原:これまでメンバーが語ってくれたように、MESH の次の 10 年は、私たち MESH チームだけで作っていくものではないと思っています。教育や福祉、地域、スポーツ、ものづくり。それぞれの最前線の現場で、誰よりも深くその環境を知っていて、パッションを持って課題と向き合っているパートナーの皆さまが世の中にたくさんいらっしゃいます。
これからの私たちの役割は、私たちが何かすべての課題を解決していく、という大層なことではありません。そうした最前線にいらっしゃるパートナーの皆さまに向けて、人が自分自身の可能性に気づいて、周囲と一緒に新しい価値を生み出せるような「ツールと環境」を、いかに安心・信頼して使い続けていただけるように提供し、支えていけるか。それに尽きると思っています。
かつてソニーの新規事業創出プログラム(Sony Acceleration Platform)における小さな挑戦から生まれた MESH は、多くの皆さまとの出会いを経て、今では社会の多様な現場で、人々が自分の可能性に気づき、アイデアを形にしていくための支えの一つになりつつあります。私たちはこれからも、「アイデアを形にできる機会」を皆さまとともに、さまざまな現場へ届けていきたいと考えています。

※本記事は、6月時点のインタビューです。