2025.10.15

ソニーグループ株式会社|デジタルツイン技術の未来を切り拓く―。『Mapray』開発の軌跡と挑戦

ソニーグループ株式会社が手掛ける、デジタルツイン開発プラットフォーム『Mapray』。構想から10年を経て、いよいよ本格的な事業展開の段階となりました。そこで、企画・開発者の皆さんに、10年の軌跡と新たな挑戦について、お話を伺いました。

なお、10月14日(火)~17日(金)に千葉県の幕張メッセで開催される「CEATEC 2025」にSony Acceleration Platformが出展する展示ブースにて、Maprayプロジェクトもご紹介いたします。ご興味のある方は、是非会場へお越しください。
>> CEATE 2025の出展に関する詳細はこちら

 

line

 

坂元 一郎
ソニーグループ株式会社 デジタル&テクノロジープラットフォーム アドバンストテクノロジー システムプラットフォーム技術部門 デジタルツインシステム開発部
シニアソフトウェアマネージャー

ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)に入社後、オーディオ、ビデオ、テレビ、ゲーム機といった製品でのソフトウェア開発を経験。その後、新規事業にてクラウドサービス開発に携わり、現在はR&D部門でMaprayを起点としたデジタルツイン技術の開発マネジメントを担当。モビリティ事業部門と連携しながら、事業創出に取り組んでいる。

松本 大佑
ソニーグループ株式会社 デジタル&テクノロジープラットフォーム  アドバンストテクノロジー システムプラットフォーム技術部門 デジタルツインシステム開発部 兼 モビリティ事業部門 モビリティーサービス開発部 
シニアソフトウェアエンジニア

3DCG技術を専門とするスタートアップに入社し、ソフトウェアエンジニアとして数々のプロジェクトに参画。3Dレンダリングエンジン事業をゼロから立ち上げ、大手自動車メーカーなどに採用される。ソニー(現ソニーグループ株式会社)に入社後は、組み込み向けWebプラットフォームの開発を担当。ゲーム機をはじめとするソニー製品に広く採用される。社内制度を活用して新規事業創出部門に異動し、GIS技術を用いたクラウドサービスを立ち上げ、 開発責任者としてエアロセンス株式会社の初期メンバーとして参画。その後、Maprayプロジェクトを立ち上げ、現在はR&D部門に所属。 

佐藤 一喜
ソニーグループ株式会社 モビリティ事業部門 モビリティサービス開発部 サービス企画課

大手自動車会社、人材会社を経て、ソニーグループ株式会社に中途入社。自グループの技術調査・戦略策定などを担当し、現在は、新規事業創出に取り組んでいる。

武藤 陸
ソニーグループ株式会社 モビリティ事業部門 ビジネスディベロップメント部 1課

新卒でソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)に入社後、広報に配属。プロダクトやテクノロジー、新規事業などの領域におけるPR・メディアリレーションを担当し、2024年に社内制度を活用しモビリティ事業部門へ異動。

 

 

line

 

デジタルツイン開発プラットフォーム「Mapray」

――はじめに、Maprayの概要を教えてください。

坂元:Mapray(マップレイ)は、3Dデータと様々な情報を集約して高度なデータ活用を可能にする、オープンなデジタルツイン開発プラットフォームです。開発者はMaprayを利用することで様々なデジタルツインサービスの開発が可能になります。

開発体制としては、プロジェクトオーナー、プロジェクトマネージャーの下に、企画担当である佐藤・武藤と、技術担当として松本と私が所属する組織のエンジニアがいます。新規事業のため少数精精鋭ではありますが、チーム一丸となって事業化を進めています。 

 

はじまりは10年前のサンフランシスコ

――プロジェクトは、いつ頃、どのような経緯で始まったのでしょうか。

松本:話すと長くなるのですが(笑)、最初のきっかけは2015年に遡ります。 当時、私は新規事業を立ち上げる部署に異動し、サンフランシスコで開かれた「GitHub Universe」というカンファレンスに参加する機会を得ました。そこで初めて「オープンデータ」という概念を知ったのです。当時米国では既に大統領令で、国が取得したデータを原則公開しなければならないと定められていました。そのベース技術がオープンソースで、代表例としてGIS(地理情報システム)のソフトウェアが非常に多く使われていたのです。

それまで地図ビジネスといえばGoogle マップで勝負はついていると考えていたのですが、BtoBの世界では全く違うものが使われているとわかり、帰国後すぐに研究開発を始めました。当時はドローンが流行り始めた頃で、ドローンで空撮した写真から世界を3Dでキャプチャーできる技術に衝撃を受けました。 GISの世界では3Dグラフィックス技術との『融合』が始まっており、これまでの地図の常識を覆すような、新たな次元の表現が可能になりつつあることを感じました。グラフィックスをやってきた人間として、「こんなことがドローンでできてしまうのか―。あっという間に地球上のデータが取れてしまう、これはすごいビジネスになるぞ…!」と。

簡単なデモを作ると、ドローンの研究開発をしていたチームと意気投合し、エアロセンスの創立メンバーとして、新規ビジネスの立ち上げに参加しました。当時エアロセンスは測量で収益を上げていましたが、お客様から「せっかく撮った高精細な3次元データを、測量以外にもビジュアライゼーションやエンタメ、防災などに使えないか」という声が2017年頃から多く寄せられるようになりました。そこで3Dマップを作ろうと思ったのですが、当時市場に出始めていたオープンソースは、画像の鮮明さなど専門家の視点から見ると使い勝手が悪いと感じていました。

そこで、腕利きのエンジニアと二人で試作品の開発を始めました。 その後、当時所属していたソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の中で「新規事業として立ち上げないか」と声がかかり、2018年に初めてこのプロジェクトに名前をつけて本格的に始動しました。

当初は、「機能が足りない」「もっと夢のあることがしたい」といった声が多く、本格的な投資が必要だと感じ始めました。そのような折、デジタルツインに今後会社(ソニー)としても注力していくこととなり、本社であるソニーグループ株式会社にて実施することになりました。

そこからエンジニアも増え、「これなら絶対にニーズがある」というものを開発してきたつもりです。そんな中、コロナ禍でお客様の元へ行けない状況が追い風となり、デジタルツインへの注目を高めるきっかけとなりました。地道に開発やPoCを重ね、いよいよ今年度から本格的に事業化に向けてチームが固まり、動き出したという経緯です。 

 

――2015年から数えて10年。かなり長い道のりですね。

松本:当時、ドローンで撮影した写真から3次元データを作る技術はまだ一般的ではありませんでした。日本でドローンによる写真測量が普及し始めたのが2016〜17年頃。 スマートフォンでも3次元データが手軽に取れるようになったのは2018年以降くらいからだと思います。工場の「デジタルツイン」という概念は昔からありましたが、現実世界をキャプチャーしてウェブ上で再現するという考え方は、3次元キャプチャー技術が一般化したことで広がってきたと感じます。

佐藤:この技術に松本さんが面白みを感じたきっかけは、もう一つありますよね!

松本:もちろん、お客様からの要望に応えたいという思いが一番ですが、個人的には趣味の登山の経験が大きいです。登山アプリでは2次元の地図が主流でしたが、地図が読めない人は危険なルートを選んでしまうこともあります。 3次元データを使えば、山の標高や地形、傾斜などが直感的に分かり、より安全に登山を楽しめるはずだと。そこで自分の登山ログを綺麗な3D地形データとしてMaprayのデモで公開しているのですが、ちょっとした自慢になります。Maprayは、とにかくビジュアルの綺麗さが売りですから!

 

「綺麗さ」と「速さ」を兼ね備えた技術力

――Maprayの技術の強みや特徴は、どこにあるのでしょうか。

松本:我々の強みは、大容量の3Dデータを自在に動かす、圧倒的な「速さ」にあります。この速さがあるからこそ、従来は不可能だったほどの高密度のデータを表示でき、それが我々の言う「綺麗さ」の源泉なのです。例えば、今日本は、国のオープンデータとして地形データを非常に高い解像度で整備しており、データはどんどん高精細化しています。 それに合わせてソフトウェアも進化しなければなりませんが、我々の技術はその点で差別化できると考えています。

技術面においては、日本国内では私たち「Mapray」の技術開発が進んでいると自負しています。そのため、ありがたいことに、開発者コミュニティからは、直接、好意的なフィードバックをいただく機会が増えてきました。一番の目標は、米国のとある企業です。正直に言うと、まだ全く認知度や利用度に追いつけていません。その企業の技術は年々改善され、今や業界のデファクトスタンダードになっています。業界のデファクトスタンダードになっています。業界のデファクトスタンダードになっています。
日本国内で同じようにデジタルツイン技術を活用したサービスの展開をしている企業も、中身はその米国企業のデジタルツイン技術を使っているケースがほとんどです。そのため、それと同じレベルのものを自社で開発できる技術力を持つのは、我々が知る限りでは他にないと思います。

 

新規事業ならではの苦しみと新しい挑戦

――事業化するうえで、苦労されている点やこれから挑戦したいことはありますか。

武藤:ビジネスを成長させるために主に二つのアプローチが必要だと考えています。一つは、すでに競合他社の技術を使っているお客様に対して、我々の技術で置き換えを狙っていくこと。もう一つは、まだデジタルツインの価値や用途を見出せていないお客様に、こちらから新しいソリューションやユースケースを提案していくことです。 この両輪で進めていく必要があり、非常に大変ですが、やりがいのある挑戦です。

坂元:デジタルツインは、市場自体は形成されつつあるものの、まだ「具体的にこれをしたい」という明確なニーズまで落とし込めていないお客様が多い印象です。そのため、我々から認知を高める 活動をしていく必要があります。 お客様のやりたいことが明確で、そこに我々のサービスを当てはめていくというよりは、共に模索しながら価値を見出し、その領域に特化した機能を開発していく必要があると感じています。 

佐藤:我々は新規事業なので、本当に何でもやらなければなりません。人員やリソースが限られる中で、ビジネスモデルの検討から、顧客の探索、実際の営業、顧客の声を踏まえた機能開発などやるべきことは多いです。デジタルツインの市場は大きいので、現在maprayが強みとするデータの可視化だけでなく、データの取得も含めた入口から出口まで一貫したサービス提供を目指すなど、顧客への価値提供の幅を広げつつ、売り上げ拡大ができればと思っています。

その中で、自分たちのチーム以外との連携が肝となりますが、ここでも少し悩ましい点があります。たとえば社内の既存の事業部と連携しようとしても、彼らとはビジネスの時間軸が異なることがあります。我々が直近での機能連携を見据えて話を持っていっても、彼らはすでに数年単位の事業計画が決まっており、そこに急に割り込むのは非常に難しい。あとは求められるビジネスの規模感も桁が違います。 

武藤:ただ、社外のお客様から見れば同じソニーです。「ソニーさんならこれもできるんじゃないか」と期待されることもあります。ソニーには昔から、”入力、処理、出力”、すべてのプロセスを自社技術や製品で完結できるという強みがあると言われているかと思います。Maprayも例にもれず我々の技術を軸に、様々なデバイスやサービスと連携することで、新しい価値を生み出せるのではないかと期待しています。

坂元:社内については、これまで宇宙エンタメ事業や建設現場のデジタルツイン化など、いくつかの社内プロジェクトに活用されています。社内向けの技術発表会などでアピールする機会もあり、問い合わせが来ることもあるので、一定の認知は得られていると考えています。

こうした社内プロジェクトを通して、我々の技術が磨かれてきた側面は大きいです。例えば、宇宙から見た地球をシミュレートするプロジェクトでは表現力が強化され、建設現場のデジタルツイン化のプロジェクトでは大規模な点群データを高速で扱えるようになりました。こうした社内で培われた強みが、社外のお客様にも価値を提供できると考えています。大企業だからこそ、様々なプロジェクトに投資してもらい、技術を磨く機会に恵まれたのだと思います。
事業化を目指して動き出した今、社内でのニーズに応えるだけでなく、社外に向けて発信していくことが我々のチャレンジです。 

武藤:また、ソニーグループが掲げるPurpose(存在意義)「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」にもあります通り、会社の⽅針としてエンタテインメントや感動といった”ソニーらしさ”を追求する流れがありますので、我々も新たな機会として考えていかなければなりません。たとえばエンタメ系の事業にいる方々が、我々が思いもよらないようなユースケースや使い道を提案してくれるかもしれません。エンタメに限らず、あらゆる領域の方々と、ぜひ一緒に何か新しいことを仕掛けていきたいですね。

 

コミュニティを育て、業界のスタンダードを目指す

――今後の展望についてお聞かせください。開発者コミュニティを活性化させたいというお話も伺いました。

松本:我々が提供するのは、様々なサービスのコアとなるエンジンとプラットフォーム技術なので、それを使って開発者の皆さんが何をしたいか、どんなサービスを作るかが最終的なゴールだと考えています。 色々な方に触ってもらい、「こんな使い方ができる」「こんなことができる」といった情報を共有・発信する場を作っていきたいです。

ソフトウェア技術は、使われてこそ価値が生まれます。我々のプラットフォームが多くのサービスで使われるようになれば、我々の技術が、デジタルツインにおける『標準の一つ』として皆さんに選ばれるようになる。そんな未来も夢ではありません。狭い領域に見えるかもしれませんが、このGIS技術、特に我々が出がけるデジタルツイン技術こそ、来る自動運転やAR時代のサービスを支える『デジタル世界の基盤』であり、世界のテック企業が次の覇権を賭けて技術革新を競う、最重要分野の一つだと考えています。その分野でソニーのプレゼンスを確立できたら最高ですね。そのために、オープンソース化やプラットフォーム化を目指してきました。

米国の企業は、認定デベロッパー制度などを設けて、自分たちのエコシステムを広げています。我々も、まずは多くの人に使ってもらい、そこから普及させていきたい。幸い、国内の開発者コミュニティではMaprayを紹介させていただける機会も増え、好意的に受け入れてもらえはじめているので、今後はよりオープンに情報を発信し、協力者を増やしていきたいと思っています。

――様々な展望がある中で、直近の目標として掲げていることは何でしょうか。

佐藤:今、あるインフラ企業様と商談を進めています。我々の技術がビジネスの基盤となり得るかどうかの試金石になると考えています。まずは、この案件を確実に成功させ、良い事例とできるようにしていきたいです。

坂元:デジタルツインは非常に裾野が広いですが、ビジネスとして成立させるには、どこかの分野に特化することが求められます。そこで我々の基盤となる技術を特定の分野の具体的なサービスへ生かすための橋渡しとなる役割が必要です。そのための仲間探しもしていきたいですね。そして、まずは一つのビジネスで実績を築くことが、次につながると考えています。

 

共創できる新たな仲間を求めて

――最後に、この記事を読んでいる方へのメッセージをお願いします。

坂元:我々の技術は、単体ではなく、お客様やパートナーの皆様が持つ強みやリソースと組み合わせてこそ価値を発揮します。社内外の様々な方と新しい繋がりを通じて、新たなビジネスにつなげていきたいと考えています。

松本:ここまで来るのに、本当に多くの方々に支援していただきました。なかなかビジネスにならなくても、技術の面白さを信じて応援し続けてくれた皆さんに、お礼を言いたいですし「成功したよ」と報告することで恩返しをしたい。その思いを胸に、最後までやり遂げたいです。

佐藤:少しでもこの技術に興味を持ってもらえたら、「こんなことができるんじゃないか」と気軽に声をかけてほしいです。この記事を読んでいただいたことが、新しい仲間との出会いや何か新しいものを生み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

武藤:引き続き、仲間探しが重要であると考えています。我々はまだ小さなチームですが、だからこそ一人ひとりが柔軟に、そしてスピーディに対応できるという強みもあります。お客様に細かくヒアリングを重ねながら、これからも頑張っていきたいと思っています。

 

line

 

いかがでしたか?皆さんの熱い思いが伝わってきました!

Maprayプロジェクトのメンバーと「まずは、情報交換をしたい」「具体的な話を聞きたい」などございましたら、お問い合わせください。
なお、Maprayプロジェクトは、Sony Acceleration Platformが提供するビジネスマッチングサービスである「Boundary Spanning Service」にも登録中です。
「Boundary Spanning Servic」をご利用中の皆様、これからご登録の皆様、サービス内でお気軽にMaprayプロジェクトにお声がけください。

>> ソニーのビジネスマッチングサービス「Boundary Spanning Service」の詳細・お申し込みはこちら

Mapray公式サイト https://mapray.com/
 

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、920件以上の支援を27業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2025年9月末時点)

ランキング